第7話 一番の演技をする幼馴染

「こんにちは〜!監督!今日もお願いします!」

「舞葉ちゃん、今日もお願いね」


 撮影現場に着いて、舞葉が元気に挨拶すると、この現場を仕切っていそうな、舞葉が言うには監督さんである女性が舞葉の方を見て軽く挨拶を返した……かなり綺麗な人だ。

 ……そして、今日はどうやら公園のブランコでの撮影らしく、辺り一面には照明器具やカメラマンの人がたくさん居た。

 俺が本当のドラマの撮影現場の雰囲気に圧倒されていると、舞葉が言った。


「今日は私の幼馴染も連れてきたんですけど、適当にその辺置いといても良いですか?」


 言い方がすごく気になったし、絶対にもっと他の言葉選びはあっただろ、と思ったが、この場ではそんなことを言える立場でもないので、俺は何も言わなかった……すると、監督さんは俺の方を見て呟いた。


「幼馴染……舞葉ちゃんの?」

「はい!」

「本当は部外者は立ち入り禁止なんだけど……舞葉ちゃんがお熱な幼馴染くんならいっか」

「お、お熱!?か、監督!変なこと言わないでください!」

「え〜?だって、私この幼馴染くんのこと見るのは初めてだけど、名前は知ってるよ?飛隣くんって言うんだよね?」

「え?どうして知って────」

「どうしてって、いつも舞葉ちゃんが────」

「あ〜!か、監督!撮影!早く撮影しよ!」


 そう言うと、舞葉は監督さんの背中を押して、ブランコの方に押し込んで行った……その道中、監督さんは俺に対して「ゆっくり見て行ってね〜」と優しく声をかけてくれた……良い人だな。

 その後、しばらく舞葉と監督さんが真面目な顔つきで話し終えると、いよいよ撮影が開始されるようで、舞葉以外の人が全員カメラの画角に入らない場所に移動した……すると、合図が出て舞葉は演技を始めた。


「せ〜の!」


 舞葉は笑顔でそう言うと、ブランコを漕ぎ始めた……そのブランコの振りはどんどん大きくなって、舞葉は大きな声で言った。


「あっはは!楽しい〜!やっぱりこの爽快感がたまらないね〜!」


 舞葉がそう言うと、カメラを止めるという合図が出て、舞葉はブランコから降りて俺の方に走ってきた。


「飛隣!どうだった!?」

「前観た映画の舞葉は落ち着いてて誰かと目を疑ったけど、今日の役は……なんていうか、舞葉そのものって感じだな」

「な、何それ!私もう一人でブランコ漕ぎに行ったりしてないんだけど!しかもあのシーン、ドラマのストーリー的に大きな出来事がある前日っていう流れで、その緊張を無くすために無邪気に楽しんでるっていう良いシーンなんだから!」

「そういう背景を聞くと良いな」

「でしょ!?」


 俺と舞葉がそんな話をしていると、監督さんが拍手をしながら俺たちの方に歩いてきて舞葉に話しかけた。


「舞葉ちゃん、いつも良い演技だけど、今日は特に良い演技だったね」

「そうですか?」

「うん、なんていうか……舞葉ちゃんは楽しいっていう演技をする時、表情とか声とかは完璧で、今までも違和感があったわけじゃないんだけど……さっき言った通りかな、今日は特に良かったよ、楽しんでる演技の中では今までで一番って言っても良いぐらい……どうしてかな?」

「え?えっと……ど、どうしてですかね……?」


 舞葉は俺の方をチラチラと見てきた。


「俺の顔に何か付いてるのか?」

「べ、別に何も?」

「じゃあなんで見てきたんだ」

「見てないから!」

「見てた」

「見てない!」

「この二人が幼馴染、ね……現実にこんなにも完璧な人選のキャスティングがあったなんてね」


 監督さんは小さな声で何かを呟くと、俺に対して笑顔で言った。


「飛隣くん、今後も暇があったらいつでも来てくれていいよ」

「え?わ、わかりました」

「監督!一応言っておきますけど、今日の演技に飛隣は何も関係ないですからね!」

「そう?でも一応、今日の演技と今までの楽しんでる演技、帰ったら比較しておくからね」

「も、もう〜!!」


 その後、何故か拗ねている舞葉と一緒に、俺は家に帰った。

 ……一瞬のように感じられたが、常識的に考えてかなりすごい一日になったような気がする。

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