第6話 初めて演技をする幼馴染
月曜日の放課後。
俺は、舞葉の提案によって、突拍子もない状況に身を置かれていた。
「私バカだね〜!飛隣なんてどうせずっと暇なんだから、放課後になったら飛隣のこと撮影に誘ったら良かったよ〜!そうしたら飛隣が居ないことに寂しがらずに済んだ────別に寂しくなんかなかったけどね〜!」
そう……俺が置かれている突拍子もない状況というのは、休日舞葉の映画を観終わった後に舞葉から提案された「飛隣、次の月曜日暇だったらドラマの撮影現場ついてきてくれない?」というものによって、今本当にそのドラマの撮影現場に向かっているという状況で、あの時色々と異を挟んだ俺だったが、『可愛くて演技が上手い女子高生女優ランキング』で『第一位』を取っていることからも分かる通り、どうしても自分の願っていることを達成したいときだけ強いのが舞葉なため、俺は言い負けてしまい、結果的に今日本当に舞葉のドラマ撮影現場というところに行くことになってしまった。
……でも、こんな時でもいつもと変わらない舞葉のことを見ていると少しだけ心が落ち着いてきたな。
俺は自分の心を落ち着かせながら、言うべきことはしっかりと言っておくことにした。
「そんな簡単に見破れる隠し方をしてるのが、本当にあの映画で見た舞葉と同一人物なのかどうか疑問に思えてくるな……それはともかくとして、人のことをずっと暇だって決めつけるな」
「え……?暇じゃないの……?」
「当たり前だ、俺だってもう高校二年生なんだし────」
俺が暇じゃないことについて説明しようとした時、舞葉はその俺の言葉を遮って、焦った様子で言った。
「も、もしかして、私に隠れて私以外の女の子と遊びに行ったりしてないよね!?そんなことしたらダメだよ!?」
「してない、してたとしても、わざわざ舞葉から隠れる必要なんてないから、してたらすぐに舞葉にもわかるはずだ」
「私以外の女の子と遊びに行くんだから私からは隠れて遊びに行かないといけないに決まってるじゃん!」
本当にあの映画で落ち着いている役を演じていた時の舞葉はどこに行ってしまったんだと思いながら、俺は冷静に返す。
「さっき隠れたらダメって言ってたのは舞葉だ」
「そ、それは、そうだけど……飛隣には私が居るんだから、その私のことを意識したら隠れないといけないっていうか、浮気は隠れてするみたいなものっていうか……だからって隠れて浮気して欲しいってわけじゃないんだけど、堂々と浮気するのは違うっていうか、浮気がバレたらダメっていう意識を持ちながら浮気はしないっていうのが筋ってこと!」
「悪いが何を言ってるのか全くわからない、あと俺たちは幼馴染だから俺が他の女子と何をしてたとしても浮気にはならない」
俺がそう言うと、舞葉は怒ったように言った。
「あっそ!じゃあ飛隣は私が他の男の子と何してても別に気にしないんだ!」
「それが舞葉の信頼できる人なら、俺は別に────」
「嫌がって」
「……え?」
「嫌がって!嘘でも良いからこういう時飛隣は嫌がらないとダメなの!もう!本当飛隣はまだまだ子供なんだから!昔から、本当に何も変わってない……変わったのは、私だけ……」
「舞葉?」
今、一瞬舞葉が暗い表情で落ち込んでいたような気がしたが、俺が舞葉の名前を呼ぶと、舞葉はすぐに明るい表情で言った。
「ううん、なんでもないよ!ほら!早く行こ!」
今の舞葉の表情は……演技だ。
明るく元気な表情としてはこれ以上ないほどの表情だったし、どれだけ女優としての舞葉のファンだったとしても、今のが演技だということは────幼馴染として十数年舞葉と一緒に居る俺にしか気づけないと、確信を持って言える。
……でも、わざわざあの舞葉が俺に対して演技をしたということは、今は触れられたくないことなんだろう。
俺は今のことについて、いつ聞こうかと考えながら、舞葉と一緒にドラマの撮影現場に向かった。
そういえば……少なくとも俺が気付いた中では舞葉に演技をされたのは、これが初めてだったな。
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