第3話 夢を語る幼馴染

「飛隣とお出かけ飛隣とお出かけ〜」


 舞葉と一緒に街を歩いていると、舞葉は笑顔でリズミカルにそう一人で呟き始めた。


「上機嫌だな」

「飛隣とお出かけするの久しぶりなんだもん〜!あ!ねぇ!私が出てる映画観に行かない!?」

「興味ない」


 俺がそう言うと、舞葉はわかりやすく顔を赤くして怒りながら言った。


「私が頑張って撮った映画を興味ないってどういうこと!?理由によっては、今度飛隣が楽しみにしてたアイスとか食べるからね!」

「どうもこうも、目の前に本当の舞葉がいるのに、わざわざ今の舞葉を無視してまで映画の舞葉を見に行く理由なんてない」

「っ……!」


 俺がそう言うと、舞葉は怒りを少しずつ鎮めていき、最後には怒りによって顔を赤くしているのではない様子で、頬だけを赤く染めて言った。


「そ、それならちゃんと、今の私との時間楽しんでね?」

「あぁ」


 それから、まずは手軽に食べられるアイスを一緒に食べに行くことになった……俺と舞葉は同じバニラ味のアイスが好きなため、それを注文して近くにあったベンチで一緒に食べる。


「美味しい〜!やっぱアイスはバニラだよね〜!」

「異論はない」


 バニラ味の、口に含んだら一瞬で口内全てを包み込んでしまいそうな甘い味……いつ食べても美味しいな。


「……あれ、飛隣〜?口にバニラ付いてるよ〜?」

「そんなはず……本当だ」


 右手で口元を触ってみると、確かにバニラが付いていた。


「もう〜!飛隣は本当変わらないね〜!はい、私がハンカチで拭ってあげるから、手どけて!」


 ……少し恥ずかしさはあったものの、その善意は素直にありがたいと思ったので、俺は手をどけて舞葉に口元を拭ってもらうことにした。

 ……そして、舞葉は俺の口元を拭いながら、どこか寂しそうな表情と声音で言う。


「こんな時間が、ずっと続いたら良いのに……」

「仕事が辛いんだったら、すぐにでも辞めて良いと思う、もし舞葉がその気なら、俺は舞葉の味方────」

「ううん、お仕事は楽しいよ!でも……飛隣とも、もっと一緒に居たいなって思ってるの」

「……舞葉は、どうして女優業を始めたんだ?」

「小さい頃からずっと決めてた、夢のため」

「夢……そんなのがあったのか」


 舞葉とはもう十数年と一緒に過ごしてきているが、舞葉に小さい頃からの夢があったというのは初耳だ。


「うん……私の、大事な夢」


 ここで舞葉の夢を聞くような、無粋な真似はせず、俺は素直に舞葉の夢というものを応援することにした。


「舞葉の夢なら応援する」

「え……お、応援!?」

「え?」


 話の流れとして普通のことを言ったつもりだったが、どうして舞葉は驚いているんだ……?


「なんだ?応援したらいけないようなよくない夢なのか?」

「う、ううん?良い夢だけど……お、応援されるとちょっと照れちゃう夢っていうか……ね」


 応援されると照れる夢って、一体どんな夢なんだ……でも。


「それがどんな夢であれ、俺は舞葉のことを応援する」

「っ……!ひ、飛隣……!」


 舞葉は嬉しそうに笑顔を見せた……舞葉の、女優という肩書きが顔負けするこの素直な笑顔が、幼馴染としてとても好きだ。


「今度の休日、飛隣の家でアニメ観る時、私が出てる映画も一緒に観よ!今の私も観て欲しいけど、その今の私は映画とかドラマ撮影の努力があってできた私でもあるから!」

「……わかった、そういうことなら舞葉の出てる映画っていうのも観てみよう」

「ありがと!次の休日が待ちきれないね〜!」


 その後、俺と舞葉は一緒にたこ焼きを食べたりカフェに行ったりして過ごすと、互いの家は目の前なので一緒に家に帰った。

 舞葉と一緒に過ごすのは、やっぱり楽しいな。

 そう思うと、俺も次の休日が楽しみになっていた。

 次の休日は舞葉とアニメを観て舞葉の出てるアニメも観ると、かなり濃度の高い一日になりそうだ……一つ不安があるとすれば、休日俺の家でアニメを観ると話した時、舞葉と少し齟齬があったことだが、そのことはもう大丈夫なんだろうか……不安を覚えつつも、大丈夫だろうと信じて、今日は夜ご飯を食べることにした。



 この話でプロローグが終了となります!

 次回からいよいよ第一章の始まりです!

 是非お楽しみください!

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