慧眼 英知のサーベル。

 オーヴァールは、目をキッととがらせて相手をにらんだ。

「迷い!!迷いが見て取れる!!!お前は迷っている!!」

 リードルは剣を振り吠えた。そして続けざまにオーヴァールに突進した。

《ギャキンッ!!》

 二人は剣を交差させにらみ合う。

「お前には、殺意がたりない……お前は人を殺したことがないのだ、だから無名、だから無能!!」

 リードルは傍らの兵士をみつめて、剣を下ろした。

「殺してみろ」

「!!」

「やれるものならやってみろ、お前は私を傷つけず、打ち倒そうとしている、その程度の“覚悟”でやられる私ではない」

「……」

 オーヴァールはじわじわとにじりより、構えをとる。黒い首元に垂らしていた、インナーと一体化したピッチリとしたマスクで口をおおい、口元で何事かをとなえた。

「スナ……ルラ」

 その瞬間、オーヴァールは左手にサーベルを、右手に青い球体を生成した。そしてそれを、走りながらふりかぶり、前方に射出した。

「うおおおおお!!!!」

 リードルは、剣に力をこめた。魔力だ。彼の能力は、剣に作用してそれをさらに硬質化させ、リードルの放った“青い球”を真っ二つに分断した。

「だからお前は!!何物も守ることはできないのだ!!」

 リードルは、球の割れた向こう、球からみえるぼやけた世界の人の形をしたものに切りかかった。それはいとも簡単に切り裂かれた。ほとんど、髪のように。違和感を感じたのもつかの間、自分の首元にオーヴァールがサーベルの先端をつけた。

「動くな!!」

「馬鹿な!!!」

《ジリジリ》

 ためらいもなくオーヴァールは、剣をのばし、首に突き刺した。

「何を……この俺が思考を読み間違えたというのか!!」

《ブシュッ》 

 サーベルが刺さるとその先端から何か液体化した魔力が流れ込んでいるのを感じた。リードルは、自分の判断を疑ってたじろいだ。しかし、時すでに遅し、オーヴァールは笑っていた。まるで悪魔のように暗い笑みで。

 リードルは、その笑みの次に、体すべてをおおうような脱力感と、連続的にすさまじい量の情報を脳内に注ぎ込まれた感じがした。

「うわあああああ!!!」

「リードル様!!」

 彼は地面に手を突っ伏した。平衡感覚もない。何が起きたかも理解はできなかった。ただ、理解しようのない、宇宙の心理そのものを脳内に叩き込まれたような、そんな感じがした。

《シュウゥン》

次の瞬間、リードルは赤い半透明の球体に包まれていた。

「やめっ!!」

 オーヴァールは、サーベルをしまい、もう一方の手で赤い球体を入口に作りだした。それは、街の門の向こう森の入り口に生成されると、次の瞬間、赤い球体は位置をいれかえ、消滅した。




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潜伏者オーヴァール ボウガ @yumieimaru

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