先天の霹靂。グラウンの影。
しかし驚いたことには、たしかに跳ね飛ばされたはずの自分の体はむしろふわりと持ち上がったかと思うと、衝撃も優しく、民家の壁に激突しただけだった。体に痛みもなく、景色に何の異変もない。これは事故後の感覚の麻痺のようなものかと腹部をさする。だが腹はたしかにそこにあり、手足の先まで器用に反応するのだった。
敵は何をしようとしているか、とキッと前をむきなおると、まるで紳士的にたちつくし、こちらにボウ&スクレイプ、紳士式の挨拶をしている。
「驚いた、確かに魔族の力を受けた気がするが……」
ひざにてをつき、埃を払いながら立ち上がるセッヅ。
「何も驚くこともない、怖れることもな……私は魔族の血を引いているだけだ、あまりに突然の事で、力を使ってしまったまで、その力も……今見たように不安定なのだ」
「だが……どういう了見だ、自分に刃を立てた人間に、手加減をし、お辞儀をするとは」
「手加減などしていないよ、ただ、この騒乱を落ち着ける手助けをできればと思ってな」
「騒乱を落ち着ける?」
まじまじと相手の姿いでたちをみながら、オーヴァールの体を見回した。主要関節部に鎧をまとっているとはいえ、着ている服はスーツにもにている、背中は燕尾服のような形状になっているし、白いスカーフを首につけている。
「こりゃまた……意外だな」
「何がだ?」
「あんたみたいな変わり者は長生きしねえと相場はきまっている、なのに……」
「兄キィイ!!!セッヅのアニキィイ」
その時だった。頭の禿げて、顔がつぶれたようなごつごつした恰幅のいい、筋骨隆々の男が、顔に似合わない高い声をあげて、こちらに近づいてきた。
「どうした、お前の“担当”はここじゃねえだろ」
「違うんだ、今回の作戦の目的は“巫女の奪還”だろう?それ以外はスマートにって話だろ」
「おい、他人に聞かれていい話とワリィ話の区別がつかねえかお前は」
セッヅは男の頬をつねりながら説教をする。オーヴァールは口元にてをよせ、クスクスとわからないように笑った。
「兄貴ィ、違うんだ“白羽部隊”が来たんだよ」
「何?大公のか?そんなはずは……こんな辺境に、わざわざよこすはずが」
「間違いない、“セレン”の姉御がそういったんだ」
「何、セレンがか……」
しばらく考えた後に、セッヅは膝をたたいていった。
「よし、引くぞ……」
「アニキ、けど今回の任務は」
「おい……そんな場合じゃない、何より重要なのは“スマートさ”だ、失敗だの成功だのは気にするな、何度も挑戦することだ、それが俺たちのやり方だろ?」
やがて、口元をおさえてたっているオーヴァール、それにむっとした男がいった。
「アニキィ、こいつは誰だ」
「馬鹿、よせ……」
指名されたので、オーヴァールは答えた。
「ふむ……つまらない復讐はよせ、自分に自信のない事は……」
「お前に何がわかる」
「私はさきほど、奇妙な若者をみたんだ、隣国の領主に似た若者ででな、そう、ウルズ・ロベルの兄グラウンに似ていた、だがあの若者は、光をうしなっていた、そう、もはや暴力と熱意すら持たないほどに」
「そいつは……」
何かをしゃべろうとした男の口元をおさえて、セッヅはいった。
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