第1話 ラッダー・ヴォルヴァシュ ルズルの街
オーヴァールは血に飢えていた。しかしかつての様な、復讐の血ではない。“作られた悲劇”に対する、血の見返り。そして、自分の過去をぬぐい去るための、“自らへの復讐”それは彼の心を温め、一つの決意に駆り立てた。
ここ数日、ルズルの街にあって、“ある人間”を探し続けている。それは贖罪の種、あるいは彼自身の希望だ。しかし、誰もその顔を見た者はいない。ただ、知っているのは名前のみ。
“ラッダー・ヴァルヴァシュ”
まるで呪文のようにその言葉をつぶやいていた。
“怠慢伯爵ウルズ・ロベル”
ロベル家の嫡男、次男であり、頭の切れる兄グラウンと違い、怠慢で女癖が悪く、素行が悪いことでしられた、その反面、人にこびへつらうのがとてもうまく、貴族の間では、それほど悪い噂は聞かないのだった。
ロベル家は、かつて栄えていた王国の伯爵だったが、その王国が魔族に葬りさられたあとに、別の帝国の傘下に入り、どうやってとりつくろったのか、かつてより広大な土地を支配するに至った。
聡明な人々は彼の支配を嫌い、一部はレジスタンスを組んだが、それも、彼の従える“魔法騎士団”によって、蹂躙されるのみだった。
ふと、叫び声が聞こえた。
「逃げろ!!レジスタンスだ!!」
街ゆく観衆が叫びだした。
「魔物より恐ろしい、何たって“壁”の中にいる敵なんだ!!」
オーヴァールは、寂れた街をいきながら、中央に佇む玉ねぎのような屋根をたたえた城と、それを取り囲む市街地、そして2メートルはあろう、ところどころ破壊された巨大な壁をみながら、のんきに、ボロ絹のようなマントをきて杖をつき、“叫び”の中心を目指した。自分を“絶望”に突き落とす相手を探して。
ふと、そのわきを、気力のない目をした、死んだ動物のような目をした少年が横切る、年のころ、15,6だろうか。杖をつき、ボロ絹の服をきている。オーヴァールは、その少年の過去の悲劇を物語る表情と目に、悲惨な世界の現状を憂いた。しかし、オーヴァールはその反面、違和感を感じた。だがそれは、喉まで出かかった言葉が形にできないように、頭の中で概念と概念に阻まれて、確かな形になる事ができなかった。
(きっと彼は若くして希望をうしなった、何ものにもなれず、何もなすことができず、人並みの幸福を得ることさえできない、どうして、我らにはその接点がないのだろう)
そしてオーヴァールは彼の傍を通りすぎると、わざと、財布を落とした。彼が人並みの卑しさをもって、それを拾い上げた事を祈って。
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