潜伏者オーヴァール
ボウガ
プロローグ
「ゲルース王、ゲルース王!!考え直してくださいませ、お願いします」
「ならん、我らの師とはいえ、我らにだまって、騙し、自らの素性を隠していたことは、断じて許す事はできないのだ」
宮廷魔術師のヴェロニカがゲルース王の後に続く。若く聡明そうな男、ゲルースはまだ齢25だが、この“中立平和国家・アルズ”の国王だ。魔王軍の住み着いた土地を破壊し、魔王軍を島国へ追放した英雄でもある。
「しかし、ゲルース王!!」
「ペリュアンは死んだ!!!」
そう叫ぶと、ヴェロニカは、ひるんだ様子をみせた。
「私にはもう誰もいないのだ、妻もしんで……だが、お前は大事な“旅の友”お前まで失うわけにはいかない……やつを“後悔処刑”し、見せしめにせねば“奴”こそが真犯人、大衆に“魔族”の恐怖を忘れさせるためにも」
ヴェロニカは、突然袖からナイフをとりだした。
「何を!!ヴェロ!!お前、お前裏切ったか!!!」
ゲルースの傍によると、ヴェロニカは、ナイフを薙ぎ払い、そしてゲルースがよろけたすきに、自分の首もとにナイフを突き立てた。
「どうしても、というなら、私も自害します」
「ヴェロ!!!おい、ヴェロ!!お前は大事な仲間じゃないか、どうして、どうしてそこまで」
「私は“王国の大義”より、旅の記憶のほうが大事です……王……ここで止めないのならば、私は……」
そばで、宮廷薬師のデリが、その様子をまじまじとみていた。しかし、ゲルースがもみあい、ヴェロニカのナイフを取り上げようとすると傍によって何かをささやいた。すると、ヴェロニカは、すっと引いた。そして、ある言葉を残して立ち去るのだった。
「このことは……将来に禍根を残します、我々とて、一枚岩ではないのです」
観衆の声の中、公開処刑が行われることになった。コロッセオの中央には、“オーヴァール”がいた。人々はそのするどい目と、ととのったアゴ、面長だが、まつげがながく魅惑的な目をみた。しかし、あるものはそれを直視することをさけ、またあるものは子供の目を塞いだ。
「彼は魔物だ!!」
そして、処刑は実行される。オーヴァールはまるたにしばりつけられ、また両端に別の丸太に手を鎖でしばりつけられ、動けない。
ゲルースは、目を細めた。そして命じた。
「死刑執行―」
オーヴァールは死の間際に願った。この刑が。この復讐が、もはやこの楽園とも思える王国で二度と実行されぬように、それだけが、国王との約束だった。
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