<雨音の実力>

 校長室に再び入った亜白木は経過報告をしに来ていた。


「亜白木くん、今回はどのような成果が得られたのかね?」


 亜白木がEクラスに来たこと、そして校長がEクラスを任せたことで、その間に様々な調査が成されていた。


「亜白木くんにクラスを任せた時はどうなるのか全く予測がつかなかったよ、ガハハッ!」


 ほとんど、亜白木に任せていたこともあり、どうなるのか賭けていた部分もあって、国島は今、とてつもなく興奮している。


「20人の生徒、半分の生徒を失ってしまいましたが、その分成果はありました」


 亜白木は国島の顔を見て、落ち着いた様子でそのまま続ける。


「今回の調査対象、雨音理沙。彼女のポテンシャルを引き出すのにはそこまで苦労しませんでした。ですが、思ったよりも良い結果が出たので…………少し最後のテストはヒヤッとしたものの、確実に前に進んでくれたので、この結果は成功と言って間違えではないでしょうね…………」


 国島の顔が段々と真剣な表情に戻っていく。


「それはどういうモノなのかね?何が分かったという実力のほどをデータにまとめなければ、キミを読んだ意味がない」

「それはですね、…………………………差異です」

「差異?具体的にどういうモノなんだそれは?」

「どの部分とどの部分が違うか、それを分析して正しい回答をその違いから導き出すと言ったものです。最初は、5教科の底上げを実際に測ろうとしていたんですが、思ったよりもその生長スピードが速く僕が出を貸さなくても実質1人で太刀打ちでいていたと思いますよ」


 亜白木はそう説明すると国島は少し付け加えるように否定した。


「その通りかもしてないが、実際に手を貸さなければ、わかっていなかったわけだ!それはキミの功績だとも言えるぞ、亜白木くん!」

「そんなにすごいことではありません、ただ僕は生徒の成長を促進させてあげただけです………………ので」


 国島はやれやれと言った風に首を傾げたが、結局Eクラスのファイルに1つの個人データが刻まれることとなった。


「今後も期待しているぞ、そのためこのクラスを作ったと言える、私たちの新カリキュラムが立ち上がったんだ、亜白木珀夜」

「それでは、僕はこれで失礼します。そんな大層なものじゃありません、元はあなたが作った更生プラグラムのようなものだったんですから…………………………それじゃあ、次の生徒にも期待しておいてください、国島校長」


 2人が礼をして、その場を亜白木が立ち去ってゆく。亜白木はもう1つ、行く当てがあったが目の前にその人物が迫ってくることでその必要はなくなった。


「………………正直ビックリしたは亜白木くんどうやってあの子をあそこまで仕上げたのかしら、お姉さん"そこ"が知りたいんだけど」

「自分で生徒を育て上げられなかったら切り捨てってことですか、舟志先生?」

「いやだなあ~~~そんなこと言われても、実質彼女は役に立ったんだからいいじゃない」

「まあ、あなたに任せておいたことで多少は平均の位置まで持ってこれましたが、ホントに勘弁してください…………」


 実際はそうかもしれないが、舟志薪音という人物はEクラスという生徒を成長させるためには少々厄介な人物になってしまうとこの時亜白木は踏んでいた。 


「あの子は今回の試験では上位に食い込まなかったものの、1つの教科を除けば、Bクラスで上位の成績と同じようなものが取れていた。あなたがなにをしたか知りたいの!教えてくれないかしら、そうすれば……………………生徒をもう1段階上のステージに上げられると思わない?」


 舟志先生は亜白木を探るような表情に変わっていた。亜白木がそう賛成をするはずもなく………………。


「Eクラスの生徒は僕が選んできた生徒です。実質、成長できたかもしれませんが、変に手を加えられても困ります………………彼ら彼女らにしかない実力のほどを引き出すのが僕の役目です。あなたの教えると言ったことも実力の内ですよね?」


 舟志先生は少し不気味な笑みを浮かべた。自分の実力がその程度か!と言われているようで、気に障ってしまったか?


「まあ、あなたの生徒はダメ人間が多いようだけれど、私が手を加えていけない理由がない、違う?」


 ここで亜白木の目がギラっと光る。


「じゃあ、こう言ってもらちが明かないので直接言った方がいいですね………………………………君が僕の生徒に何を吹き込んだのか知らないけど、僕の大事なチャンスを潰すことだけはやめてもらおうか!」

 

 亜白木の気迫に何かを感じた舟志先生は少し後ずさる。


「亜白木くんそんな顔して怖いよ~~~わかったわ、手を出さないからその目やめて!心臓ドキッとしちゃうから。」


 舟志先生は穏やかな表情になって、亜白木をどけようと通って行ったがそのまま何もないはずがなく、今後も何か続きそうな予感に亜白木は身構えることとなった。だいぶ離れてから舟志薪音の笑顔が崩れる。


「それじゃあ、しばらくは様子を見といてあげようかな……………………そう、しばらくは………………」

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