<突然の訪問。そして、雨音理沙の飛躍>


 今日は土曜日、いつもならまだ寝ている時間だったけど、朝8時に目が覚めてそのままリビングへ。


「おはよう、ママ」

「おはよう。あんた、最近元気なかったみたいだけど大丈夫?」


 心配されていたことに気付き、少しまたいつも通りの休日に戻っていく。


「そう言えば、先生から連絡来てたわよ!」


 少しゾッとした。もしかすると舟志先生から何かしらのメッセージでも、来ているのかと思ったら。


「なんか担任の先生から、いろいろ聞かれたわよ、今日の課題はいつ渡せばいいだとか、何か具合でも悪いんですかとか……」


 なぜ、担任の先生?いや、担任の先生だったら普通なのか………………ここ最近は他クラスの先生に聞きっぱなしだったから、感覚が麻痺していた。


「それと、今日家に来るらしいわよ、初めての家庭訪問ね~~~」


 そんなこと聞いていない。髪はぼさぼさだし、この前まで泣き散らかしてたから目元も腫れてるし、何より心の準備ができていない。


「え~と、まずドライヤ~は後でいいとして、先にシャワー‼」


 そう言えば、3日分お風呂に入っていなかったため、とっても気持ちのいいものだった。バスルームから上がり、髪を乾かして目のクマを必死に取る後はメイクで目元の腫れを治して、これで手間のかかることは終わり。


 「お腹すいた~~~でもなんか忘れているような?あっ、そうだ、服着替えてこよう!」


 さすがにパジャマの姿で先生と対面は恥ずかしかったので、着替えてパパっと朝食を食べる。

 トーストにブルーベリーのジャムを塗って口の中にほおばる。今までただお腹の中に入れていたものが、ため息をつくほどおいしく感じる。


「もうあんな思いはいやだけど、そのおかげで新しいことに気付けたかも!」


 ママには変な顔をされたけど、そのまま何も言わずに口の中に詰め込んだ。朝食をおえたら、いつものアニメをと思ったけど、亜白木先生が来るんだった。


「そう言えば、先生何時に来るか聞いてる?」

「11時ぐらいにこっちに来ますって言ってたわよ」


 11時っていうことは後1時間ある。そこまで焦らなくても、いいけど何度も言えない時間。その間なんで先生が家に来るのか考えていたが、何の思い辺りもない。高校って家庭訪問なんてあったっけ?自分が休んだことでそんな先生に気を使われているんだとしたらすごく申し訳ないと思ったが、他にもよく学校を休んでいる生徒が居たのを思い出してその可能性は捨てることにした。


「うん、何でもいいや、どうせ何かやらかしたとかでもないし」


 そう、焦る必要はない。約1か月間、今までにないくらい努力してきた。その結果いろんな経験があったけど、今こうやって平常運転でいる。たまに何かを見落としてしまっていることが中学ではよくあったけど、高校じゃそんなことなく、今の定期試験という1つの壁にぶち当たっている。一緒に勉強する友達は相変わらず作れていないけど………………ん?そうか、友達関係。


「先生って、意外といい人だったりするのかな~~~でも、私がいつも1人でいるから心配で両親に聞き込みに来たとか、そんな感じの事もあり得るな、うん!」


 この時雨音理沙は自分の妄想が膨らんで、違った方向に予想が傾いて勘違いをしているのであった。

 玄関のインターホンが鳴って、先生がママと話している。


「いつも、理沙がお世話になっています。先生どうぞ上がってください」


 先生は申し訳なさそうにペコペコお辞儀しながら、リビングに入ってきた。


「今日お時間いただけて良かったです。まだ、この学校に来て間もなくて、生徒たちの事がよくわかっていないので」

「高校に入ってからも家庭訪問ってあるんですね~~~もし何聞き来たいことがあったら何でいいって下さい」

「あ、ありがとうございます。これは僕自身が単に気になったというか、心配だったので、本来はそう言ったことは行わないのですが、今日は特別にという形で来させてもらいました」


 そして、先生は私の方をちらっと見てそれからママの方を見た。


「今日はちょっと、理沙さんと話をしたく手ですね。こっちに来させてもらったのですが、大事な話なので2人で話をしたりすることは可能でしょうか?」


 先生がそう言ったのに聞き直そうなと思ったけど、先にママが反応した。


「それは何か学校であったからですか?少し、2人きりというのはさすがによろしくないと思うんだけど、先生は実際2人がいいと?」

「先生として話しておきたいことがありまして、決して悪い内容じゃありません。後彼女が決めることなので無理にとは言いません」


 ママは少し、安心したように胸をなでおろした。少し先生の事を警戒しているようだった。


「私は別にいいよ。っていうか私も先生に話しておきたいことがあるからちょうどいいっていうか………………まあ、いんじゃない」


「なによそれ」と言いながら、ママは2人だけで会話することを許可してくれた。


「ちょっとかたずいてないけど先生、どうぞ」


 自分の部屋に赤の他人が入ることは今までなかった、しかも男性で。


「ほお~可愛らしい、お部屋ですね。ところで今日何でこっちに訪問させてもらったのかわかります?」


 ほめられた後にいきなりの質問で戸惑って、私は普通に首を傾げてしまった。


「正直、先生が来ると思っていなかったので、ビックリしました」


 先生が自分の部屋にいるという状況に違和感を持ちながらも、なぜ来たのか考える。しかし何も思い当たる節がない。だって、この先生とはほとんどしゃべったことがないし、何かを相談したこともなかったんだと改めて再確認する。


「先生とこうしてしゃべる以外話したことが無くてどうしたらいいか分からないのですが………………」

「すいません、あまり君たち生徒と話す機会がほとんどなくて、もうちょっとコンタクトを取るべきだったと反省しています」


 こうすると亜白木先生の印象は前よりも違って見えてくる。生徒に対して嫌悪感を持っているというよりは生徒思いの先生って感じで心が落ち着く。


「一様、生徒の話なども、聞きたいのですが、みんなが一瞬で帰っちゃうから、仕方なくて」


 思えばそうだ。Eクラスだけが異様に帰るのが早い。みんな勉強のためにいち早く帰って宿題を済ませてるって訳でもなくて、こんなところにいても何もできないから帰っているというのが実際のところだと思う。


「先生は私たちとしゃべって何か思う事ってありますか?」


 私は自分でも何を聞いているのかわからなくなって、先生に変な質問をしていた。


「何にも………………普通の高校生ですよ、ただちょっと今が悪い状況なだけで、その内改善していけると僕は思ってます」


 素直に答えてくれる先生にこの先生が担任で本当に良かったと思いながら自分がEクラスの生徒だという事を再び自覚することができた。


「で、今日は何で来たんですか?」

「その事をすっかり忘れていました。え~と、ですねえ、先生が思うに学校でトラブルがあったんじゃないかと思って、来たんですが…………………………違いますか?」


 目を見てそう聞かれて、初めてそっちの話題に気付く。先生が何かを気にするのは勝手だが、トラブルでとなると確かに先生が動いてもおかしくない。幸い今の心の状態は安定していたこともあって普通に受けいれられることができた。


「何があったかまでは、私は何も知らないのでもしよろしければ、話してくれたりできないかと…………思いまして」


 前回の事もあって先生に何かを伝えるという事が怖くなってしまったが、この先生は自分の事を本当に心配してくれている。そんな目をしていることから、だいたいの出来事とその流れを説明した。


「…………………………そんなことがあったんですね。また変わった先生もこの学校にいて不思議とは思いませんが、それはちょっと行き過ぎていると感じますね」


 先生は全部を聞き終わると、困ったいう様子もなくただ何となくわかってはいたというような顔でとても落ち着いた様子だった。


「それで、なんですけど、私学校に行くとあの先生にあってしまう可能性もあってしばらく休みたいなって考えてて…………」


 先生には私の言いたいことが分かるだろうが、思ったよりも違う言葉が出てきた。


「もしかして、もう学校には来ないつもりですか?休むのは別に悪いことじゃありません、ですが………………定期試験もありますし、何よりそこで落としてしまっては元も子もありません。そこで一つ提案があるのですが、いいですか?」


「別にずっと休んでいる気はありません!それにその間にテスト勉強も少しずつやる予定で、だから私が言いたいのは………………」


 先生の前で熱くなったのはなぜだろうか、理解してもらえないと思ったからか、それともまだ子供で優柔不断な年ごろだと思われたからか?そん

 なことはどうでもいい。先生には自分の考えを知っていてほしかった。だって、この人は信用できるから!


「それを聞いて安心しました。まだ学校に残ってくださるんですね!」


 先生の安心した表情からもひとまず自分も落ち着いて一息つく。


「だったらですが、雨音さんのペースでいいので、来週のどこかで一度学校に来てみてください。少しアドバイスをしたいと思います」


 途端にこんなことを提案されても、まだ学校に行くという心の準備はできていない。取りあえず、いったん先生のアドバイスを受け取っておくことにする。


「わかりました、学校に行ければ、行きますがあまり期待しないでくださいね」


 先生からは少し微笑まれて、私も感謝の言葉だけ伝えると先生とも話し合いもひと段落着いた。


「……………………しかし、残念だったですね。たぶん、先生のターゲットにされた可能性がありますね」


 亜白木先生からそんな突拍子もないことを言われても、言っている意味がよく分からなかった。


「たぶんですが、舟志先生のストレス発散に利用されたっていう方がしっくりくるでしょうか?度々、先生も生徒を堕落させないためにも、いろんな対策を取るんですが、それが負担となってどんどんストレスが溜まって行って、舟志先生の場合、ダメな生徒はダメだと割り振った結果、こんなことになったんだと思いますが、今回のは完全に彼女の性格がそうさせていたというのが事実だと思います。大人の女性って怖いですね、僕からも注意しておきます!」


 先生の言いたいことは分かるが、それでもあんなことを言われるなんてさすがに思い出した途端、腹が立ってきた。その気持ちを忘れずに腹の底にしまって置くとして、ダメな生徒という点が気になった。


「先生?やっぱり私ってダメな生徒なんですか?」


 先生はしまった!という表情で慌てていた。


「すいません、でも決してダメな生徒とは思っていません、じゃないとこうして提案なんてしていませんから、まだあきらめてないんでしょう?」


 先生は気遣ってくれているが、正直一番自分がダメ人間だと自覚しているから、何とも言えない。でも、先生が提案してくれているという事はまだ改善の余地があるという事…………………………雨音理沙はこの時、先生の言う事に少しだけ賭けてみようと思った。


 日曜日の予定は何にも決まっていなかったため、久しぶりに何かないかデパートにショッピング目的で朝の開店時刻からお店の中へ。


「え~と、あれも見たいしこれも見たいしどうしよう?」


 勉強で疲れ切った状態が続いていたのもあってか、久しぶりのデパートは新鮮な感じがした。1ヵ月経つとちょっとずつ違う商品なんかが出ていて、ワクワク感がやまなかった。


「そう言えば、最近靴も見てないし服もグッズもどっかにあるかな~~~」


 あれこれ探し回っている内にお昼になっていた。久しぶりの外食、どこで食べようか迷っていたところ、野菜増しましラーメンというのが目に入り、一気にお腹が鳴る。


「あっ、ははっ、ちょっと恥ずかしい」


 よく見てみると今日だけ野菜2倍で同じ値段というのが書かれてあった。


「それなら、ここにしようかな。なんとなく、お得感みたいなのもあるし」


 1人で店内に入ると家族連れの人たちが多かった。その中でポツンと一人カウンターに座ってメニューを見て注文する。1人の量にしてはちょっと多い気もするが、ハシを割ってスープを一口。


「アツッ!舌ちょっとやけどしたかも、水ないかな水~~~」


 水の入った容器を探していると、横にいたお客さんが水を私の方においてくれた。


「きみ、がっつくのはいいけど、慌てすぎだよ、もうちょっとフーってして冷ましてから食べないと」

「ごめんなさい、ラーメン屋に来たのが久しぶりだったので、熱いの忘れちゃってました、へへっ」


 何で謝ったのか自分でもわからずそう口にしてしまっていて、気付けば、横の人と会話していた。


「いつもここに来ているんですか?」

「いや、僕はちょっと寄っただけさ、いつもいろんなところの食べ歩いているからね。それで今日はここに来たわけ」

「そう言った職業の方なんですか?グルメの評論家みたいな………………」

「いや、単に趣味だよ、まあお金はいっぱい飛んで行っちゃうけど、その分いろんな味に出会える。これほど生きがいなことはないよ」


 趣味は違えど、何か見たようなものを感じた。やっぱり趣味を持っていてダメなことはないんだと改めて思った。


「私もわかります!欲しいものがあるとすぐお金が飛んで行っちゃうところとか。でもそれが生きがいだったりして手放せないところとか………………」


 自分語りをしたことなんてなかったけど、同じ共通点の人と話すのはなんだかちょっと楽しかった。


「きみ、ずっとしゃべってくれるのはうれしいけど、麵が伸びちゃうよ?」

「え?あっ、ホントだ!でも冷めてるから、これで食べられる……………………私ちょっと、猫舌なんで」


 彼が近づいて、私の事をじっと見た。何か変なものでもついているのか、不安になったけど、そういう意図はなかったらしい。


「あれ、君よく見たら高校生ぐらいか?ずっとしゃべっていて会話に夢中だから気付かなかったよ~~~ちょっとだけだけど、高校生だったら小遣いにも制限があるだろうし、これ……はい!」


 そう言って渡されたものは、千円札が1枚。途端に吹き出しそうになったけど、それを飲み込んで私は返そうとしたけれど、その時には彼はお会計を済ませていてもうとっくにいなくなってしまっていた。


「またのおこしを~~~‼」


 私はこれも何かの縁だと思って、この千円札は財布の別の場所にしまっていて、緊急用に使おうと決めた。

 残りの午後はグッズを買う時間を少し減らして、必要なものを買うのに時間を空けておいた。

 ノートにペン、筆記用具類はなくなりかけだったから買うとして、ハンカチなんかも、1枚買っておく。必要なものを揃えていくと、自然と気持ちの整理もできてくる。


「後は疲れた時様にホットアイマスクとか、部屋の芳香剤のようなものも必要だよね~~~あ、そういや中くらいの入れ物も買っておかなくちゃ!」


 先週から勉強道具にグッズがたくさん壁に置いている状態になっている。特に必要のないものをしまうためにも一か所にまとめておく必要がある。何が必要か思い出しながらいろんな店を見て回っていく。


「こんなところに家具のお店なんてあったっけ?」


 1ヵ月で知らない店が立っているのに驚きだけど、中に人が全然いない。たまたまいないのか、それとも商品が売れていないのか気になったので、店内に入ってみることにした。早速分かったのが、どれもこれも普通の値段、よく見たことある値段なのに何で、これまでも人がいないのか、店の奥まで進むと分かったのが、奥は古めのものがズラ~と並んでいた。今のお客さんには売れなさそうなものがあると実感した。


「別に私はこういうのオシャレっていうか、嫌いじゃないんだけどな~~~」


 そう思って口に出した瞬間、店の扉から店員さんらしき人が出てきた。その人は少し驚いた様子で、こっちを見ていた。


「確かにここまで人が来ないと店主も諦めるよね~~」


 だけど、店員さんが出した言葉は…………………………。


「こんなに若いのにこう言ったモノに興味があるのかい?」


 私の顔を見てそんな期待とは違う言葉が飛んできた。どうやらこの店はお年寄りに人気みたいだ。


「今日はあんまり、人が来ない日だkらね、あんたは何探しに来たのさ、これは高校生が買うにはちょっと高すぎるもんだよ」


 私が見ているモノを指さして言ってきた。別に買う気はないんだけどと思いながらも、近くに寄ってみてみた。

 どれもあまり馴染みのないものだったので、とても新鮮に感じる。隣の花瓶の形なんかも変というかおもしろい形をしていた。


「確かに最近はこういう店無くなってきているから、珍しいだろう」


 女性の店員さんは私に物珍しいアピールをして、手に持った商品を見せてくる。


「あんた、高校生か知らないけど、気に入ったモノなどあったかい?もし、なんらな特別価格で売ってあげるよ」


 それはいいことを聞いたと思い、向こうにあったマグカップを指さす。少女マンガで出てきたカップと似たモノがあったから上げてみると。


「これかい?確か~~~2000円だから、おまけして1000円で売ってやるよ、嬢ちゃん」


 これまで安くなるとは思わず、声が少し漏れてしまう。そんな反応に店員さんが笑いこう言った。


「価格なんて決まりなんかないさ、古くなったら安くなるものもあれば、高くなるものもある。誰かに買ってもらえるだけで私はありがたいよ!」


 キリッとした彼女の姿勢に少し好奇心が持てた。


「何かデパートに来ることがあれば、またここに寄りますね!」


 そんなことを口にして、お礼をしつついろんな人に出会った濃い1日だと感じた私は、明日学校に行くことを決意した。


「確かに私のそんな悩み、今日を考えたら背負ってても楽しくない」


 生きにくい人生っていうのは考えるだけでは意味がないと私は思う、悩みの末行動しないと何も変わらない。今日のこの日デパートを出歩いて良かったと思いながらも、家に帰ってから、明日の学校の準備をした。

 3数日行けてなかっただけなのに、とてつもなく長く感じる。学校の正面に立った時に思い出すあの光景。


「なんで、悩んでたんだろう?」


 今では、ウソのように気持ちが軽くなって何となく来ているこの学校に意味があることを知った。


「先生って、なんで私のことを気にしていたんだろう?」


 思えば、そこまで関りがない分、私を気にして相談に乗ってくれたのは謎だった。ここの学校の先生というのは、不思議な存在だと感じている。何というかいい意味でも悪い意味でも計画的であるということに私は気づいた。今後はなるべく、Bクラスの舟志先生には合わないようにしたいけど、絶対会うんだろうなと私は思う。でも、その代わりに頼もしい先生ができたことを私はうれしく思っている。

 教室に入るといつもの人数でいつもの配置で何も変わっていない。何か変わったというと自分の方だ。先生が当たり前に教室に入ってきて、当たり前におはようを言って、当たりのようにホームルームを始める。基本的にいつも聞き流していたのを今日はじっくり聞いてみる。先生が大抵しゃべっているのは前向きな発言、今までつまんないと思っていた私もここに来ることで気持ちが切り替わる。授業のスタート前に亜白木先生にあいさつしに行くことにした。


「え~と、先生おはようございます………………」


 先生はは私の方を見て、表情を和らげる。


「来ることにしたんですね、学校。もう、精神的な部分は大丈夫なんですか?」

「ええ、私だってこんなメソメソ状態イヤですから、後試験も近いですし、何よりまだ全然テストの対策がバッチリじゃありません。先生は私が困ったら、アドバイスをくれると思っているのですが、期待していいんですか?」


 自分の不安要素はもうテストの事しかない。それをクリアすることが最

 優先だった。


「もちろん、雨音さんのブランクを元に戻すのが先生の役目ですから、一緒に定期試験を乗り越えましょう!」


 私にはまぶしすぎる笑顔だった…………………………取りあえず、安心して先生のことを信用できる。もう、後には引けなくなったんだと自覚し、定期試験に自分の努力をぶつけようと雨音は決心した。


「そう言えば、今日の放課後は空いていますか?」

「ええ、勉強する以外には特に何もないです」

「それでは雨音さんが困っていることを僕に話してください、解決できるものがあれば、いろいろ案を出していくので。今はあまり時間がないですが、授業がないこの後だったら可能です。僕も業務が少ないので………………」


 授業が始まっていつもやっている5教科を順番通りにやって、軽く説明が入る。久しぶりに勉強した感覚を思い出して、頭の中をノートを取りながら整理する。大体の問題は簡単で、解ける問題は基礎、課題は応用の方だけど、Eクラスの生徒はそこまでのレベルに達していない。

 ここから分かることはこのままの状態じゃ確実に上には上がれない。それにホントかどうかはわからないけど、応用がとてつもなく難しくなるのだったら……………………いや、あれは精神攻撃だと見た方がいいかも。

 さすがにA,Bクラスが賢いとは言えど、何人かは痛い目を見る。理解できる範囲で授業をやっていくのが実際でテストもそれに沿ってでる。先生がテストを作っているのじゃないなら、別に気にしなくていい、たぶんハッタリだ。

 それより、基礎も理解していなくなると退学者が一気に出る。みんながどれくらい勉強しているのかが分からないけど、今この授業の難易度から見て、厳しいのが目に見えてくる。先生は優しいけど、テストは厳しい。この矛盾は早くに気付いておくべきだったと反省する。先生に質問する内容も決まったし、後は放課後を待つだけ。

 いつも通り、ほとんどの生徒があっという間に帰って行った。


 「先生早く来ないかな~~~先に、課題の方でもやっておこうかな~」


 教室から先生が出て行って、もう10分近くは経つ。あれだけ言ったのに何も教えてくれないのかと待って、1時間。教室に残っている生徒は私だけになった。先生もいろいろと忙しいだろうし、結局教室を後にすると階段の下の方から勢いよく上がってくる人影が……。


「わっ、ビックリした!って亜白木先生?どうしてそんなに急いでるんですか?」


 先生とばったり鉢合わせ状態で混乱する雨音に先生が少し落ち着いてから話す。


「すいません、ちょっと遅れてしまって、相談に乗ると言っておきながら、ちょっと裏切ることをしてしまった気分です」


 先生が言うには、私用の資料のようなものを作ってくれていたらしい。それだったら、まあ責めても仕方ない。


「これで、やっと始められるのですが、何か学校の時以外で、何やっているとか教えてもらってもいいですか?」


 唐突に変な質問が来た。先生は私のプライベートを知ってどうしたいのかわからないけど、一様アニメ鑑賞と答えておく。


「確かに、部屋に色んなキャラクターがいっぱいありましたもんね」


 思えば先生を自分の部屋に上げて話していた時はだいぶおかしな状況だったことに、少し恥ずかしさを覚える。


「僕は何か生きがいのようなものを聞きたかったんですか、それであってます?」

「はい、そうなんですけど…………………………先生はそれを聞いてどうするおつもりなんですか⁉」


 少し声を荒げてしまったせいで、教室に響き渡る。先生は相談に乗ってくれるのはありがたいけど、解決してほしいのはそっちじゃない。


「あの………………生活リズムを整えるとかの話だったら間に合っているので大丈夫です」

「いや、そういうわけじゃなくてですね、それに沿って勉強をしていった方がいいと思うんですけど。」


 先生の言っている意味が分からなかった私の趣味がどうテスト勉強と繋がるのか、人選ミスと思っていたら…………。


「要は自分の好きなものに例えてあげるんですよ。確か、雨音さんは前回のテストで基礎はほとんどできていたものの、応用が全くできていなかったように思っているんですが、違いますか?」


 先生は自分の事をしっかりと見ていてくれていたことに驚く。


「はい、実際に応用の方が全然できなくてどうしたらいいか迷ってたんです。先生ならどうやって理解します?自分の分からない問題」


 先生の一呼吸置いた上にこっち見てこんなことを言った。


「先生なら、ですか……………………僕は勉強って思うんじゃなくて何か使えそうなスキルとして考えるんです。もちろんすべてがそういう風にうまくあてはまるわけではないですが、取りあえず理解するまでの工程としてはこんな感じで、じゃあ実際勉強してみようとなると全く頭に入ってこなかったり、難しいというだけで後に回してしてしまったりするのですが………………」


 私はきょとんとした目で先生の話を聞いていたっぽい。


「ああ、余は何かに代用して考えてみるっていう方法です。もし、僕だったら他の考え方って言うのが2,3個出てくるのですが、そう言った見ただけじゃ解らないことを何かにまとめたり、形のあるモノにしてあげると案外解きやすいと思います」

「で、じゃあ私の場合はどうなるんですか?私はそんなとがった方法で解くなんてことは出来ません。自分に合った勉強方法があったらいいんですけどね、まあそんな都合よくはいかないのが人生だと思うんですけど………………」


 言っていて悲しくなるセリフではあるけれど、事実そうだ。誰もが自分の抱えている課題を自分一人だけで消化できるわけない。そう思っていると先生は提案みたいなものを1つ引っ張ってきた。


「それはですねえ……………………さっき、雨音さんに聞いた趣味的なモノですよ。ずっとネガティブ思考のままでやっていると勉強ははかどりません、もし自分の好きなものに例えれるなら、それは頭の中に染み付くと思いませんか?」


 確かに言っていることはそうだ。ネガティブ状態でやるのはあまり良くない。私が小さい時に興味のあることは上達しやすいと聞いたことがある。


「なんなら、あまりわかっていないと思うので、1回試しでやってみましょう!」

「やるって、どうやって?しかも、ここでですか?」


 さすがにEクラスの教室でやるのは外から見えることもあってとてもやりずらい。相談室でやるのは先生もそっちの方がやりやすいと許してくれたので、場所を移動させることにした。


「ところで先生?私の問題って何か勉強に限ったことだけなんでしょうか?」


 雨音から自然に思った疑問を先生にぶつけてみる。


「何か心当たりがあったりするんですか?僕は今の雨音さんに大きな問題があるようには見えません」

「それは私がずっと好きなものだけを追っていたから起こった弊害でもあるんですけど…………………………友達を作るのが苦手なんです」


 そんなことを打ち明けられても困ると言うと思っていたけど、私の目を見てはっきり言ってきた。


「先ほどの答えを返す前に君自身は”友達”をどのように思っているのか、聞きたい!」


「友達って言うのは笑いあったり、気軽に話せたり、お互いの趣味などを理解しあえることだと思います」


 先生がしばらく考えてから口を開く。


「それじゃあ、そこに歳は含まれていない。実際、友達というのは年齢など関係ない。高校生の内は基本同じクラスの生徒や同年代の生徒と話すのが、普通になってくると思うが……広い目で見たら、社会に出れば年齢など関係ない」


 そう言われると、そうかもしれないけれど、実感がわかない。


「事実、僕は雨音さんと気軽に話せていると思うし、趣味についても否定するつもりはない。だから先生と生徒という関係性だが、友達とも言えるんだ」


 その実際にどうかと言われるとそうなのかもしれないが、友達が一定数いる訳じゃない。私はもっといつもおはようを言ってくれるような友達が欲しい。この学校で作るのは難しそうだけど………………。


「それに、友達がいなくても、君はコミュニケーションが取れている。それだけで友達なんて後でいくらも作ることができる」

「先生の言う事が正しいって言うのは分かります!でも、だからって高校生活で友達をあきらめたくはありません」


 そう言った概念を説明されても、友達を作らなくてもいいという考えにはならならい。だが、先生もここでつけ加える。


「雨音さんは友達を作るのが苦手と言いましたね?それはこれだけ会話できてもですか?」


 今度は実体験のようなものを………………だが、確かに今の自分はコミュニケーションが普通に行えている。


「悩まなくても、大丈夫ですよ!自然とそのうちできると思います」


 亜白木先生には何か確信のようなものがあるように見えているのだろうか?


「もし、私に友達が出来なかったら、どう責任取ってくれます?」


 少し意地悪な質問だが、これもお互いを信頼をしあっているから、友達のように話すことができる。そのことを雨音は気付いていない。


「着きましたよ、その問題はまた考えましょう、今考えてもどうしようもないですから」


 私も渋々、同意した上で、この話はいったん止めた。この定期テストが解決できれば、もしかすると後々、友達ができるかもと思う雨音だった。 


「そこに座って、まずいるものを準備してください。そしたら僕に言っていただけますか?」


 雨音は取りあえず、勉強道具とメモ帳のようなものを取りだして、その後は亜白木先生に任せた。


「まず、アニメと言っても何から何までアニメチックにするとキリがないので、後勉強の道からそれちゃうので、ひとまずはこうしましょう!」


 先生が手を使ってジェスチャーで伝えるのかと思ったが、マジックペンをもって何かを書きだした。先生の書き終わったところには、1で矢印から先に9というものが書かれていて、その矢印の上には箱のようなものがある。


「先生?これは何ですか?」

「今書いた1はやがて9に変化する。この間には8を足しても9を掛けても、3n+6に1を入れても、9になる。何が言いたいかって言うのは、人にはやり方があって足し算でやる方がいいっていう人と掛け算でやる方がいいっていう人に分かれたりする。後は決まった方法に従ってやった方がやりやすいっていう人もいる。こんな感じで挙げていくとまだあるんだけど、自分自身にあった学習方法があるんだよ。………………で、雨音さんは今までのやり方でうまく行った?」


 先生の質問に何となくの分かりやすさを覚える。つまり、私がどういったやり方でやっていたか知りたいわけだ。


「いえ、全然。この間の試験も問題集をひたすら最初から理解できるようにやって行って、理解できるのは数回解いて、理解できないのは後回しにしていました」


「それじゃあ、雨音さんにそのやり方はあってないっていうわけだ。僕が今書いた方法の中で元から決まったものがあって、数式に何かを落とし込む方法の方がいいかもしれない」


「あ、なるほど!そこで、アニメを利用しようってことですね!」


 大体の流れが分かったけど、自分にはその方法が分からない。アニメは娯楽でテストは勉強、どう考えても正反対だったものを無理やりくっつけるようなことをしたくない。


「先生はどうやってやるつもりですか?もしかして、アニメ―ションで全部会話を成立させていって、その中に今のやっている内容だったりを追加したりするんですか?」


「そのような方法もいいけど、もし飽きたり、だとかそのソフトが使える状態が無かったりすると厄介だから、別の方法にするんだよ」


 そうして、また、紙に何かを書き始めた。今度は思っていたよりも単純なものだった。


「そうか、想像力!それだったら別に機会が無くてもできますもんね」

「よくわかったね!その囲った枠の中にまず必要な情報を書いていく。これを結論まで持って行くんだけど、これだけでもかなり効果的なんだ。そこにアニメの中に自分の頭の中で想像した条件や情報やマッチしそうなジャンルを選んで、自分の思うように知識として落とし込んでいったらいい」


 先生の言っている意味は理解できたけど、これはどう考えても書く情報が多すぎて、準備段階でヘタレてしまいそうだ。


「先生?これをやる上で1つ聞きたいことがあるんですけど、全部の量やるのにどのくらいかかりますか?作業………………」


 先生は両手で数えていくと合計で指の本数が足りなくなるくらいだった。


「まあ、まとめるという作業は一緒にやりましょう。まだ、幸い5時ですし6時を目途にできるだけ頑張ってみましょう。余った分は明日にでもやったらいいですから」


 先生は笑顔でそう言ってくれたけど、そんな簡単な話じゃない。でもやるしかない!だって、聞いた瞬間、ワクワクした。こんなに勉強を頑張ってもいいと思えることが今までなかったぐらいに………………。


 それから始めて1時間けっこうはかどった。先生の助言がありつつ5教科の内国語と英語が完成した。ノートが丸まる一冊埋まるのを見るとこれをやって行けばテストをクリアできる。そんな気持ちになるほど、濃い時間だった。


「先生これって、やれば本当に身に付くんですかね?」


 本当かどうか不安になりながらも先生に確認する。 


「それはやってみないと分からないね~~~少し楽な分、自分がどれだけ頭に入れられるかだから」


「先生それはないですよ!後2週間なんですよ‼…………………………それでダメなら本当に恨みますよ!」

「アハハ~できれば恨まないでほしいな。でも、うまく行くだろうと僕は思っている。雨音さんよりの最善策を打ったつもりだから」


 先生に文句を言いながら思った。それが本当に最善の策何だろうと、自分の事を考えてくれているだけまだマシだと。そんな私には、後2週間の猶予が残されている。自分のやり方で勝負できるんだったらいいじゃない、テストがどうこう以前に自分にとって何が大切かわかったこの1ヵ月。勉強するんじゃなくて必要だと思った知識をそこから抜き出せばいい。そこから自分の生きがいを見つければいい。

 今までにない私の努力をそこにぶつければいい。亜白木先生にはもう少し手伝ってもらいたい、こんな変な先生は早々いないけど。


「今日も学校か~絶対に起きて、学校に行かないと!」


 時間は8時半ぐらい、時間的には急いだほうがいいのだが、頭がまだ動かない。昨日の夜に早速ためにしてたものの、眠た過ぎで全く身に付かなかった。


「朝食べるのも、ちょっと時間ないし、久しぶりに学校で休み時間に食べるか~~」


 家を出てから何も考えずに走って学校に着くと間に合いはしたものの、カロリーを使い果たして倒れるようにして自分の座った。朝のホームルームが終わると、急いで口にパンをほおばる。隣の席の人が嫌そうな顔をしていても気にせず、そのまま食べ続けてる。


「ふ~~~、やっぱり朝がないと持たないな~。今日は確かここの範囲やるんだっけ?けっこう面倒くさかったけど、どうしよう?」


 Eクラスに配属されてから初めての応用問題の授業、ノートをとってそれをまとめて、実際に想像してみる…………………………やはり、うまく行かない。授業中でっていうのもあるのかもしてないが、何しろ先生の書いたことはノートにまとめなきゃいけない。5限が終わるのもあっという間の事に感じ、先生とまとめをする時間がやって来た。


「先生?またあの教室使いますか?」

「そうですね、早速移動しましょう」


 亜白木先生が早速教室のカギを閉めて、自分に合わせてくれている。先生がここまで親切に接してくれることが今までなかったこともあって若干の違和感を覚えながらも後ろをついていく。


「先生は何でそんなに私に対して親切にしてくれるんですか?」

「それはね、僕は教師でもあり、君の担任だからかな、それ以上は何にも言えないかもしれないけど、実際に困っている生徒を放置状態にしておけないよね、その中でも雨音さんは努力しようと頑張っていた………………そんな生徒の努力を無下にしたくないと僕は思った、だからこそ最後までその努力を続けてくれるかい?」


 引き込まれるような先生の声にボ~っとしながらうなづくことしかできなかった、この努力はテストまで絶やさないでおこうと思った雨音はもうどこにも不安定なところはなかった。


「残りのまとめをする前に少しいいですか?」


 雨音の言葉に耳を傾け、先生の資料を出そうとする手が止まる。


「何か不安な事でもできましたか?」

「いえ、そんなことじゃなくて、ですね!どうにもイメージがしにくくて、その~~~想像してもどちらか片方だけが浮かんできてしまって、その例題を入れようとすると全くうまく行かなくて、何かいい方法とかないですか?」


 先生にそんなこと言ってもダメなことは分かっている。それなのに期待してしまっている自分がなぜかいる。


「じゃあ、頭にインプットしようとするのではなくて、頭に循環させる形で行ってはどうでしょうか?」


 そうすれば、何かが生まれるかもしれないと先生がアドバイスをくれる。


「それはどうやって?頭に循環させる?う~ん、私の頭の中がクラッシュしそうです………………」


 先生はそれを見越して、こんな提案をしてきた。


「じゃあですね、勉強を主軸に考えてみてはどうでしょうか?今回は悪魔でも学習知識を付けることが目的なので、そっち寄りで考えてその後に自分の頭に入れやすいようにアレンジしてあげてください。もちろん身近なもので想像するのがベストですけど、そこらへんは雨音さんの得意分野だと思うのでお任せします」


 最後らへん、悪口のようなものが混ざってたけど、そのことは気にせず、目を閉じて集中した。


「大事なのは自分にとって落とし込みやすいかとそれを知識として使う時に引き出しやすいかが問題です」


 要するにどれだけ自分のものにできるかが大事ってことね。雨音はじっと10分間、頭の中を整理した。どうしたら私なりに知識を取り入れることができるのか、考えた末に何か引っかかるものが出てきて、それが段々と薄れていく。自分の頭の中にはまとめた内容とそれを取り巻くキャラクターたちが出てくる。もう少しでというところで切れてしまった。


「何か収穫はありましたか?」

「後もう少しだったので、家でやることにします」

「そうですね、後は落ち着いて知識を取り込んでいってください。その方が確実に頭の中に深く残りますから……………………」


 先生のアドバイスをメモしておく、他の人からしたら変な事のようにも見えるけど、私かわすれば大事なキーワード。


「じゃあ残りの理科、社会科と数学をやっていきましょうか!」


 残りの科目はどれも難しいなんて思わないくらいの手際の速さだったが、それは先生がいてくれたおかげで、今こうして時間通りにまとめに入れている。元から多少苦手意識はなかったものの、ここまでうまく行くと知πになってくる。だけど後が楽な分慌ててやる必要がない。先生も言っていたが落ち着いてやれば、頭に深く残りやすいと。そう言えば、映画のワンシーンで聞いたことがある時間を掛けて作ればつくれほど、その料理はおいしくなるとか、そうすると私には時間を掛けて情報という情報を頭の中にしまっていかなければいけない。


「先生数学の方は終わりました。先生はどこまでってその範囲全部終わったんですか⁉」


 見ると60ページはあった歴史の流れがノートにぎっしりとまとめてあって唖然としてしまった。


「さすが先生というか…………………………本当にありがとうございます!」

「それじゃあ残すは理系科目だけですね。今回は生物と化学だったので、どちらも少し厄介だと思いますし、一緒にやっていきましょうか」


 私の一番の苦手科目と言ってもいい理系科目。先生がいてくれなかったら正直、1人でうなだれながら1日が終わる羽目になっていたぐらいだ。

 重要なところがが分からないというよりは理屈が分からないというのが大きい。どうしても、基礎の部分が分かっていないと後々、苦しめられることになる。


「そう言えば、雨音さんはこの問題じゃなくてこの範囲全般苦手だったイメージがあるのですが………………」


 ちゃんと先生をしているだけあって、生徒の苦手教科を把握している。私が聞くまでもなく先生は答えてくれる。これはこれで自分がなにもできないような気持になるから、敢えて自分で数問近くを授業終わりに説いていた。先生に見てもらった結果は半々だったけど、ただ支持されてそれを作業のように進めていくのは気が進まなかったからそれよりかはマシだった。


「この範囲では動物の中で哺乳類と昆虫類がいて、どんな違いがあるかを答える問題だった」


 これはあまり想像したくない。だって、虫が頭の中でドアップになった状態で出てくるから、どうしても不愉快になる。


「もしかして、雨音さんって虫苦手?」


 私は縦に大きく2回頷いた途端に先生は笑い出した。もっとも、私の方は全然笑えないのだが。


「別にそのまんま、頭の中で想像しなくていいよ、美化したら済む話じゃないか?」

「先生は平気そうで良かったですね、私はそんなに器用じゃないし、怖いものは怖いです!」

「だからといってこの単元を捨てていいってことにはならないよ、それにそんなものを怖がっていても、何の解決にもならない」


 先生がここで初めて本気のようなものを出してきたから、へこみそうになるが虫なんて具体的にしたら………………そんなこと考えなければいい。擬人化すれば問題は解決されたと思ったら、それはそれで気持ち悪さがあってイヤだった。


「やっぱり先生ここの問題はちょっとやりにくいというかですね………………何というか、やらなくてもできそうです!」

「何て~~聞こえなかった~~~じゃあ、次行こうか!」


 笑顔でそういうことをしてくる先生に、「うわ~~~マジか!」と思いながらも次の問題に移った。


「ここの情報は入れとけば、後々楽に問題が解けるかもしれないですね!」


 あまりにも早いスピードでページが進んでいったため、聞くのがやっとだったけど、私の準備もこれでやっと終わった。


「先生お疲れ様です!」

「確かに………………後の科目は先生がほとんどやっていた気がするんですが、まあいいですよ。ここから雨音さんモードでやってもらったら僕は何も言いません、後は自分との戦いです。できるだけハイスコア取れるように頑張りましょう!」


 先生はゲーム感覚でやってみようなんて言うが、全然問題の多さから見てそんなこと言ってられない。後はここをどう乗り切るかで今後の学校生活も変わってくる。私の挑戦もやっとスタートラインまで来れたような感じだ。


「ありがとうございます、先生。やっと自分なりの勉強法が見つかったと思ったら、もうすぐテスト本番なんですけど………………絶対、いい点とって舟志先生を見返してやります!」

「先生に………………そうですね、やる気が上がるのなら、そこが目標でもいいでしょう。今日はもう遅いですし、ここで終わりましょう、また困ったことがあったら先生に言ってください、じゃあさようなら………………………………先生をうまく使ってくださいね」


 最後にぼそっと言った亜白木先生の言葉は雨音には届かず、雨音は自信たっぷりに歩いて帰って行った。


「今日から問題をテスト用にするから頑張って解いてくれ、正直これを解かないとテストでいい点が取れないから帰って復習するように!」


 Eクラスの生徒が時始めてから5分もしない内に早速、できないだとか意味が分からないだとかの文句がこぼれてくる。


「大体、こんな問題こんな初期に解けるかっつの!」

「これって、テストに出てくるってことだよね?普通に無理じゃない?」

「だよね~~~ふつ~うに解くの疲れたし、何か別の事やらない?」


 そんな問題このクラスに解ける訳もなく、一瞬で生徒のやる気が削がれていき、その問題に手を付ける生徒はほとんどいなくなった。


「まあ、初日の授業としてはこんなもんか~~~後からでも、解けるようになってくれたらいいよ~~~」


「先生?これってどうやって解くんすか?」


 山添が先生に質問するも先生はあまり教えるのが好きじゃなくなってきている。それもそのはずで、何度も同じ場所を聞いているからだろうか、今日で15回目だ。さすがにそこまで聞いたら私でも覚えるけど、10回目の時点で諦めてる。その点で言えば、山添くんもまだこのテストに受かりたいんだと思う。


「私ももうちょっと、集中して解いてみるか!」


 全力はださないが、全体の流れだけ掴む。昨日先生と一緒にやって分かったことだけど、あの文を全部頭の中に入れるのは厳しい。だったら、キーワードだけでもすぐ関連付けて出てくるようにワードを元からいくつかに縛っておく。


「でもさすがに数学は無理かな~~~一連の流れがないと解けないや」


 これが使えるのは全部じゃないため他のまとめた問題は別の方法で知識として取り込まないといけない。不便って言えば、そうなるかもしれないが、これはこれで新しいやり方が見つけられるから意外と楽しい。それに数学はパズルみたいなものだって先生が教えてくれたからその感覚でやると本当にパズルをやっているかのような感覚に陥る。先生は教えるのが、うまいのかは分からないけど、きっと私にあっているという事だけは間違いない。


「これで今日の授業は終わりです。後は好きにしてけっこうです」


 生徒の表情を見て亜白木先生は言葉を選んだ。ダルそうにしている生徒がこんなにもいるとなると先生もやる気が削がれていく。でも、亜白木先生は意外と平気そうだった。まあ、メガネをかけているからあまりよくわからないが、いつも通りの澄んだ表情。


「雨音さんは今日はまだ残っているんですか?」


 唐突に聞かれてはえぇ?なんてバカみたいか答え方をしてしまった。恥ずかしくて半分、机の下に顔を隠していると。


「雨音さん?どうしたんですか?どこか具合でも悪いんですか?」


 そう聞かれてから先生は全く普通の表情をしている。笑ったり、ニヤニヤしてる節はどこにもない。少しは先生のそういうところも見てみたいなんて思ったけど、それはたぶんないんだろうなと思い、恥ずかしさがどこかに飛んで行った。


「大丈夫ですよ、それにまだ、やることが残ってるんで帰れないんです」


 亜白木先生に首を傾げているけど、これは個人的な問題だから先生は巻き添えにはできない。課題も想定内の範囲から出題されていることもあってすべて解き終わった後教室を出るのが、久しぶりに最後じゃなかった。


「これでこのまま帰れたらいいんだけど……………………」

 

 つい最近に学校を休んでいたことがあって、それは別にいいのだけれど、理由がないから反省文のようなものを書かされる羽目になった。そう事務の人から伝えられている。

 それもこの学校はちょっと特殊でルールでは3つの条件をどれかクリアしないと帰らせてもらえない。1つ目は通称アンチ先生が出した問題が3問あってどれもクリアできなければ帰れない。2つ目は激辛の謎チューブを完食できなければ帰らせてもらえない。3つ目が生活習慣の乱れが原因だとか言われて学校が所有するジムのような場所に入って決まったメニューをやらされる羽目になる。


「いやどれも、反省文要素なくないですか?」


 先生に言ったものの全く話が聞き取ってもらえない。だから、私が学校に復帰してから誰も遅刻をしてくる生徒が居ないとそんなことになっていたのかと思い出した。


「どれをやるかは君に任せる、私もそこはわきまえている。でも、どれをとっても地獄だと思うがな~~~ガッハッハッハ~~~!」


 いや全然、帰らしてくれる気ないよね?しっかり鬼みたいな先生だし、どこからどう見ても誰かを構成させるために呼ばれたような先生だった。この瞬間、なんでこの学校に入ってきてしまったのだろうと強く後悔した。


「え~~何を選ぶかって、どれも無理なんですけど、このチューブのやつって絶対危険じゃん、それにこのトレーニングメニュー私やったら多分明日来れないっていうか起きれないし、本末転倒じゃん!」


 なぜか、ギャルみたいなしゃべり方になるも、どれも同じくらい嫌なのですぐには選べない。


「よしこれにしよう!これだったら帰ってからも支障ないかも」


 選んだのは難問3種類を解く罰で3問クリアしないと帰れないものだった。


「さすがにちょっと難しいけど、早く帰りたいし、私のテスト勉強もあるしで、取りあえずこれでいいや!」


 問題を読んでいる内に分かったのは…………………………多分これが時事問題というやつだ。少なくとも学校で今まで習った事がない類の問題だった。今年の内にでた肉を使っていないけど、肉のような食感のモノと言えば、確かこの前のテレビ番組でやってたやつ。


「大豆ミートだっけ?あれって本当にお肉食べてるような気持になるのかな?今度試してみよ」


 次の問題は、計算問題っぽいけど何だろうかこれも社会問題に似た何かを感じる。


「A国に行ったとき100円がXドルだった時に、帰ってくるとき1ドルがY円だった。この組み合わせとしてもっとも自分の持ち金が高くなる場合を選びなさい?これってどっちにしろ行く国の方が金額が高ければいいわけだからCか」


 やれば、わかるが意外と簡単な問題だったことにこれが抜け道だったと思うくらいだったが、最後の問題を見た瞬間。


「これって、普通に今のやっているところの応用問題じゃん、しかもまた計算問題」


 見ると、バッタとウサギが綱引きをしている。バッタは筋肉がこれでもかというほど鍛えられていて血管が浮き出ている。


「う~~~わ、なにこれ、気持ちわるっ‼」


 何でこんなものがこのページにあるのか……………………虫が嫌いな私からしたら早く解いてこの絵からおさらばしたいとこだった。


「ウサギも全然可愛くないし、これ絶対野生に住んでるウサギだ!それより、この問題の2択を外せば、また新しいものを解かなければならないなんて、そんなの罰じゃない⁉」


 言ってから気付いたけど、もう罰は実行されている。この変な状況から抜け出すために全力を尽くした。


「最初に角度、その次引っ張る力と体重、これ全部が合わさってどちらの方に綱が動くでしょうだから、ベクトルの計算ってどうやってやるんだったっけ?」


 迷っている間にも、時間がどんどん過ぎていく。腕の力だけで引っ張っているこの状態は別にさほど重要じゃないのはわかる。問題は体重と地面との体との角度だった。ウサギの方が低姿勢ではあるけれど、体重はそこまでない、精々40キロほどのもので、バッタが角度が5度しか変わらないのに体重が50キロある。だが、そう考えたら腕の力も必要ってこと?


「あ~、どうしたらいいんだ!こんなん出来る訳ない‼クソッ!」


 隣で叫んでいる生徒を見て自分が冷静に変わる。


「え~と、どっちみちバッタの方が引く力が20キロぐらい違うってことだからバッタに引っ張らっるってこと?」


 不本意だが、バッタの方にチェックをつけると先生の目がギラっと光ったそれと同時に回収される問題用紙。結局何の時間だったんだと思っていると先生からオッケーのサインをもらってようやく帰れることになる。1時間の間苦戦していたが、ようやく解放される。その反動で伸びをすると横にいた生徒が私にすがってきた。


「俺と一緒にこの問題解いてくれよなあ!たのむよ~~~君クリアしたんだろ⁉絶対できるってなあ、手伝てくれよぉ~~~」


 今にもハグしてきそうな勢いで迫ってきたため、うしろに押し倒してしまう。


「ヒエッ‼」


 アンチ先生が駆け寄ってきてその生徒を机に座らせた。


「お前の問題はまだ片付いてないだろう、こんなもの早く解いてしまえ!」


 後ろを振り返りそんな罵倒が聞こえるも、お大事にと思いながら小走りで学校を抜け出した。


「あの生徒はずっとあそこにいたのかな?メチャクチャ顔色が悪かったというか目が死んでいたけど、嫌なものを見ちゃったな~~~」


 今後絶対、理由なく休まないと決めた雨音だった。

 家に帰ってから早速、他の事を済ませてから、自分の椅子に座る。今日1日濃い思いしかしなかったけれど、取りあえずまとめたものを一通り見る。こうして眺めているとどれだけ先生が手伝ってくれたのかわかる。解かないと、勉強が進まないと思っていたけど、早速頭の中に入れる方法が出来上がったのもあって、しばらくは頭をリラックスさせていた。


「よし、じゃあ早速国語から始めていこうかな」


 やり始める段階で前々から集中力を高めておかなくちゃいけない。そうすることで本来の勉強法より頭に入れる時間が少なくなるのだから、楽なもんだと思う。


「最初は基礎からやんないとって先生も言ってたし、基礎からやりますか」


 実際に基礎の科目がどれくらい単純に頭に入ってくれるかで後々の予定がずれてくる。


「まず、漢字からと……………………四字熟語的な問題はどうやって頭に入れようか?」


 次の試験にはこれらの熟語や慣用句のような問題が出題されるかもしれないと先生が言っていたこともあって、最初に入れるのはこれにした。4つの漢字が1つの意味を成すというものだが、これは背景を思い浮かべるのが一番効果的だと踏んだ。実際やってみると……。


「やっぱり正解みたいね。思ったより負担にならないわ」


 頭の中で組み立てたものが頭を循環していくような気がする。先生が言っていたのはこれかと思い出すもうれしさより今までない感覚が頭をめぐっていくのが気持ちよかった。


「次はことわざ?何か面倒くさそうだけど、やるしかないんだよね?」


 結局のところ、頭の中に知識を取り込むということは同じでその流れが違うだけ、だけどその流れが自分にとって楽なものだから変に考えずにそのまま続けることができる。


「これって、どういう時に使うんだろう?」


 ことわざの意味を理解できても実際使うとなるといつも使っていないから、想像が難しい。


「そもそも、現実いない人たちで構成して1から作っていくのもありだね」


 何やら雨音はヒントのようなものを掴んでいた。それはアニメの世界だからこそやりやすい、勝手に想像してその状況を無理やりにでも作ってしまうものだった。


「敵に塩を送る…………………………塩ってあの塩だよね、食べる方の。それなら、戦っていた戦士Aは練習中足を滑らせて崖から落ちそうになると、そしたらそんなことで勝っては気が済まないって主人公の槍の使い手Aが助けると、これで敵に塩を送るって言うのが完成したかな!」


 何度も続けている内に慣れていき、どんどん頭の中で想像の雨が降ってくる。気が付けば、国語の範囲はすべて網羅していた。


「もう、こんな時間⁉」


 時計を見ると深夜0時を越えていた。学校のある日は大抵遅くなるものだが、集中していたからこそここまで遅くなってしまったのだろうか?


「よ~し、明日も頑張ろう、明日また早く起きないと、あそこに行く羽目になるのはもう懲り懲りだし」


 木曜も同じような時間割配置で先生も同じようなことを説明する。クラスの生徒も少しだけ焦っているものもいるが、ほとんどの生徒はいつもと変わらず、ただつまらないような顔をして日々を過ごしている。ちょっとだけ変化していっていると言えば、私がクラスの授業について行けるようになっているという事だけ。だけどそれだけのことなのだが、とても自分の景色がはっきりして見える。理解できるっていう事に少し喜びを感じた日。その放課後も昨日と変わらず、家に帰って机に必要なものを出してから頭の中を整理する。


「今日は数学でいいけど、これどうやって頭の中に入れようかな?」


 ほとんどが今まで見てきた問題にちょっと応用が足されている。想像し考える、数字や文字の1つ1つがメルヘンのキャラクターになって行き、私の頭の中で会話している。


「きみは僕より少ないんだから、こっちに行かなきゃダメだっプル」

「ありがとうっプル。これで元の位置に帰れたっプル」

「何しているんだっプル!君がいないと式が成り立たないっプル!」

「ごめん、ごめんだっプル~~~ちょっと寝てたっプル」

「も~~~しっかりしてくれよっプルな~~~」


 こういうことをもう3時間やった末に頭の中が段々とこの変な生物で満たされていき、メルヘン数学という1つの空間が出来上がる。自分の意識下にあるだけまだ大丈夫だけれど、情報が多すぎて脳内が沸騰しているような状態だった。


「理沙~~~!晩御飯どうするの?ってあれ、あなた大丈夫そんだけお腹すいているようなら早く言いなさいよ、メチャクチャにヨダレ垂れてるわよ!」


 どうやら、集中しすぎていてわからなかったが、考える以外の動作が駄々漏れ状態になっていたようだ。


「うわ~~~ほんとだ、めちゃ垂れてる、恥ずかし~~~っていうか、学校じゃなくて良かった~~~!」


 すぐに下りていき、ハンバーグにかぶりついた。さすがにカロリーを消化しすぎたせいもあっていつもの2倍は食べてしまった。


「そう言えば、学校の先生が来てからあんた大丈夫なの?」


 さすがに無視できない話題にいったん食べている手を止める。


「あ~~~あれから、いろいろ先生に相談してもらって、結局解決したんだよね~~~」


 いつもならいろいろ言ってくるママが今日はふ~~~んだけで済んだのに私は驚いた。


「あれ?もっと、何か言ってくるのかと思ったのにそれだけ?いつもあんだけ詰めてくるのに!」

「そりゃ~~~いつもは適当すぎてそれでいいのかって思うほど、先の事が心配だったけど、あんたの今の顔見て安心したわ!」

「それなら、よかったんだけど…………………………」


 私の顔がそんなに変なのか分からなかったけれど、お風呂に入ってから、一呼吸おいてお風呂から上がり洗面所で髪を乾かす。私は自分の顔を見た瞬間ママの言っている意味がわかった。今まで毎日1回は見ている顔なのにちゃんとよく見ると自分の顔が別人のように思えた。


「ワタシって、こんな顔してたっけ?」


 それは何というか…………………………………………自身に満ち溢れている人の顔。


「この調子で残りの数学もやってしまおうっと!」


 昨日よりかは慣れてきた今日だが、さっきのでもっと耐性のようなものが付いたのかもしれない。机に向かって早速始めると、頭の中で勝手にまとめてくれて、新しい知識がどんどん埋まっていく。残りの科目は理社英が残っているが、それを取り入れる余裕がどこにもない。頭の使い過ぎもあってベッドにダイブしたまま、朝を迎えた。


「あ、イタタタ~~~なんでこんな態勢になってるの?それに変な夢見ちゃって頭の中ぐちゃぐちゃだし、ハ~~~疲れた、学校行こ!」


 学校についてから昨日見た夢を思い出したが、散々だった。学校の中がメルヘンで包まれていて、先生や生徒がみんなモフモフの毛皮を被っている。みんなニコニコしながら、何の疑問を持つ人は誰もいない。そんな気持ち悪い世界。


「ハ~~~、やっぱり現実と結びつけるのはキツイって、なんだかんだ言ってファンタジーに限るよね~~~」


 ひとまず忘れて席に着いた。それにしてもさっきからみんなから変な目で見られるのはなぜだろう?まさか、パジャマでっと思ったが、それはなかった。それから数分後、先生が教室に入ってきてみんなを見回してから私を見る。先生まで私の様子がおかしいみたいな目で見ている。それから先生が寄ってきて…………………………。


「もしかして、雨音さん、寝違えました?」


 先生がそう言ってから自分の姿勢がおかしいことに初めて気づいた。


「そうみたいです、今日ちょっと1日中このままなのでよろしくお願いしますね、先生」


 そうグダ~~っとした状態で先生にあいさつを交わすと、先生が私の真近くに寄ってきた。


「これは、ちょっと大変ですね~~~ホームルームが終わったら、あとで保健室に来てください」


 いったい何が始まるのかドキドキしたけど、それはすぐにかき消された。というかなぜ、保健室なのだろうか?

 朝のホームルームが終わると、早速亜白木先生について行き、保健室に向かう。


「失礼します、舞島先生」

「あれ?亜白木先生じゃ~ん、どうしたの?っていうか、オレの事はマイちゃんって呼んでって言ったじゃん!」


 見てみると、そこにはちょっとだけチャラそうな先生が座っていた。


「誰その子、亜白木くん、もしかして何かやらかしちゃった系?いいよ、

 ベッドで休憩したいんでしょ。」


 亜白木先生と同じでちょっとだけ嫌な顔をしてしまったけど、その後に亜白木先生が理由を話してくれた。


「ちょっと首寝違えちゃったみたい何で、冷やせるもの何かください」

「確かに、首が変な方向に曲がってるや!すぐ持ってくるから、ちょっと待ってて!」


 そう言いながら、ササッと奥の方の部屋に入っていてしまった。


「え、先生ってあの人と知り合いかなんか何ですか?」


 私の顔が軽蔑のまなざしだったのもあって、すぐに否定してきた。


「彼は僕と同じで今年この学校に来たから、そのよしみで仲が少しだけいいだけだと思います」


「よくあの先生、保健室の担当に慣れましたね、あの先生見た目もちょっとやばいし。あと………………」


 次の一言を言いかけた時には奥の部屋からすっと出てきて雨音は少し焦った。


「これで大丈夫でしょ、ほら、先生、パス!」


 キャッチすると亜白木先生は呆れて、もっと保健室の先生なんだからしっかりしろだの言いながら、私の鎖骨と首の付け根の位置を確認していた。


「ここはどうですか、雨音さん?」

「ちょっと冷たいですけど、いい冷たさというか、本当にありがとうございます!」

「それはオレが持ってきたんだけどね、一様」


 舞島先生を睨むと膨れてどっかに行ってしまった。


「この先生、ホントに面倒くさいですね!」

「雨音さん、それはいいとして、このままにしておいて、1限を休まれますか?」


 先生から休むという単語が聞こえてきた時、少しビックリした。


「いや、あの先生が戻ってくると面倒なので、早急に教室に戻りたいです!」

「だったら、シップしていきましょう、その方が動きやすいでしょうし、それでいいですか?」

「そうしてもらえると助かります………………」


 亜白木先生は保健室の小さい戸棚からシップを取り出し、さっき冷やした部分に張ってくれるとそのまま教室の方まで一緒に戻ってくれた。


「え~と、実際にでも訳ではないですが、ここまでの難易度が出てくると思っておいてください」


 生徒の緊張した様子はどこにもなく。ただ、何が出るかは結局運頼みの生徒が多いように感じる、なんて亜白木先生は言っていたけれど、それが現実に起こっているんだど実感する。緊張感のなさはその1つだけど、実際にこうやって肌感じる空気感。みんながこうやって難問が出てくるたび、話を逸らそうとする。その状態から目を背けようとする現実逃避の生徒が集まるクラスに染まって行っているんだとようやく気付いた。


「今日もまだやってない教科の復習と応用問題のインプット、どちらにしろ明日、明後日は休日だから少し余裕をもってできるんだよね~~~」


 1人で何やらしゃべっていると先生が近づいてきた。


「今朝の痛みは引きましたか?」


 先生はまだ、寝違えたことを心配してくれているようだが、すっかり治っていることに私は気付かなかった。


「先生、どこでそんなこと知ったんですか?」

「何のことですか?」

「首を冷やすといいってことです。それにシップも保健室の先生じゃないのに………………」

「今は何でもネット社会です。それにシップは舞島先生が何でも教えてくださるので、もうさすがに覚えちゃってました」


 亜白木先生はどれだけあの先生に手を焼いているのかと思ったけど、案外相性がいいのかもしれない。


「今日はもう帰ります、テスト勉強もあの方法で順調に進んでいますし、後ちょっとでうまく行きそうな気がします!」

「それは良かったです!何も言ってこないのでそんな気はしていましたが、雨音さんも頑張ってるみたいですね。テストまで残り10日ほどしかありませんが、休日もまだあるので、落ち着いて頑張りましょう!」


 そう言えば、まだテストの日程を聞いていなかった。以前、どこかで話していたのだろうか、全くそこら辺の情報が入ってこなかった!


「先生そう言えば、テストの詳しい日程など、教えてもらえますか?」

「ああ、そうでした!雨音さんはちょうど、休んでいる期間に皆さんに通達したので、まだでしたね。え~とちょっと待ってください。」


 そう言って、メモ紙を1枚取り出してスラスラと書き始める。確かに口で言ってくれるよりはこっちの方がありがたい。


「これがその日程なので、大事に保存するか書き換えるなりして覚えておいてください」


 受け取ってからその内容に思わずビックリしてしまった。


「え!これって…………………………1日でやるんですか?」


 テストの内容が1日しか書かれていない。ということは………………つまり、この前やったテストと同じで1から5限でやるということらしい。さらには、この日休めば、もうテストは受けれないなど、鬼畜な事が書かれている。


「こんなこと決めた先生は誰なんですか?」

「たぶん、知らないと思いますが、アンチ先生という人だったと思いますよ」

「あいつか、ク~~~なんでいっぱい先生がいる中であのおじさんなのよ!」

「知ってたんですね………………というか、口が悪いですよ、雨音さん?」

「ごめんなさい、少々休んだ日の反省文だとかで地獄を見せられる羽目になりそうだったので………………」

「あぁ、なるほど、それは残念でしたね。僕が上の方に行っとけば、良かったのですが………………その、すいませんね」


 先生は誤ってくれているが、別にそこまで問題ではなかったし、先生が悪いわけでもないので責めようとも思わない。しかし、そうなると、いろいろと変わってくる。前日までに確実に仕上げなければ、どれかを犠牲にすることになる。この土日をしっかり有効活用しようと決めた雨音であった。


「何かうまく行くのかな~?」


 家に帰ってからも、不安要素が続く。2日や3日でやって来たのもあって、さすがにこの短さは異常だった。


「悩んでても仕方ないし、取りあえずやらなきゃいけないのは分かるけど、しかも当日休んでいけないとなるとまた話が変わってくるんだよね~~~」


 仕方ないことだと考えると、そこで気は済むのだが、どうにもポジティブになれない雨音はくじ引きを作ってその出た科目を勉強することに決めた。


「どれがいいかな?これかな~~~いや、絶対右は選ばない、今日は信号機で言うと真ん中の気分、よ~~~し、これだ!」


 引いたカードの裏には社会と書かれており、雨音は段々にやけが止まらなくなった。


「一度やってみたかったんだよね~~~この光景、あ~~~グへへッ、フヒヒ」


 雨音は歴史の人物を自分好みの顔や人物像、性格に仕立てあげていった。まさに――主役アイドル化――である。


「あれ、オレはどこにいるんだろう?昨日石削ってたんだけど、それ以外の記憶がないや」


 辺りを見回してみる。シカの死体が転がっている。段々と記憶が蘇ってくる。


「そう言えば、昨日こいつの肉を食べたんだった、とてもじゃないけど、そのままじゃ変な味がして食べれない!木のみの方がよっぽど、マシだったんだよな~~」


 それからしばらくして近くに寝転んでいた人が目を覚ます。


「おい、うるさいぞ!ぼくの居眠りの邪魔をしやがって、クマが出来たらどうしてくれるんだ!」


 隣のやつはオレの親戚、というか大体の人とは血が繋がっている。


「おい、昨日の肉は何だ。硬くて食べられなかったぞ、後変な味がして食

 欲が一瞬で消し飛んだ!ぼくは食にはちょっと厳しいから気を付けたまえ!」

「じゃあ、お前にはもうやんね~~~よ、自分で取ってこい!」


 隣にいた奴は慌てて、オレの裾を掴んで、こう言ってきた。


「それじゃあ、ぼくの健康は誰が管理してくれるんだい?それにこのままの格好じゃ、ミコリンには会いにいけないよ~~~」


 最近、表舞台に立ってみんなを預言している少女、通称ミコ・リン。彼はその少女のもとに行き、奇妙な歌と踊りを見るのが、夢だった。


「ぼくは完璧の状態でそのコンサートに入りたいんだ。それでぼくが一番のファンだという事を証明するんだ!」


「勝手にしてこい、オレは数日間ここに戻ってこないから、あとは自分で何か作るなり自立していろよ、まったく!」


 それからオレはその場を捨て去るように走って海の方に出た。


「やっぱり、肉よりは魚だよな~~~貝とかも獲って今晩の食料にでもするか~~」


 魚や山の木の実をこれほどかと思うほど、集めては、皮の入れ物に入れていく。その一部はこの村の祖先のお供え物として、捧げなければならない。


「なんていうか、少々癪に障るが、仕方ない…………ここのルールだしな!あと3日も離れてたんだ、そろそろ帰ってこないと誰かしら心配するだろう」


 村に戻ると、なにやら敷地の一画で妙なことが行われていた。よく見てみると、やはり、あの少女だ。


「みんな~~~!今日は来てくれてありがとう~~~今日もミコのオリジナルソング聞いてくれるかな~~~?」


 周りにいる男どもはその子に夢中で占いなんてどうでもいいらしい。というか占いはその次いでのように見える。ほんとどっちも困った連中だ。その少女は、村で周りの状況を占うからと言って、こんなことをやっている。


「ハ~~~、なんだあれは、ピョンピョン飛び跳ねて、占いと何の関係があるって言うんだよ!」


 少しキレつつもお供え物をする場所がその隣だったので、静かにその場を立ち去って、今いたそのお供え物をしたところから向かいの小屋に移動して寝始めていた。だが少しして、目が覚めるともう村の明かりは消えていた。


「ちょっと、村ん中散歩でもするか~~~」


 敷地の周りを一周し戻ってくると自分がお供え物をしたところからなにやら、変な音が聞こえる。調べてみるとそこには…………。


「あ~~うまい、これぐらいだったらミコも文句ないのにいっつも食べる量が足りないからホント困ってるんだよね~~~ここのお供え物はマジで助かるよ~~~あぁ!」

「お前何お供え物喰ってるんだ~~~ふざけんな~~~」


 ミコリンはおびえた様子でそこに突っ立っていた。


「なんじゃ、お前は一度も見たことがない、もしかして侵入者か?」


 いつもの預言者に戻ったと思ったら、自分のことを侵入者だと言い張ってきた。


「ハッ⁉いつもいつもそこにお供え物を置いていたのに次の日着てみれば無くなってる。全くあいつらから何集めてるから何集めているかは知らないけどな、見ちまった以上、アイドルっていうのはもうやめにしてもらおうか!」


 知らない存ぜぬを通すミコに怒りが収まらなくなり、その日は1日中日が落ちるまで、説教した結果、彼女は預言者としての責務を全うし、その後預言はほとんど外さなかったという。それから200年後には天皇や大仏を立てる偉人がいたりして、人々の暮らしを支えていったとか………………。

 雨音が歴史の単元を終わるころには日付けを跨いで朝の5時になっていた。


「あれ、気付けば次の日ってあれ夢じゃなくて全部マジだったの?」


 雨音は自分でも制御が聞かないほど、その世界観に浸っていた。ミコリンが終わってからも、戦国の登場人物がほとんど、ライブ状態で領地をとりあうなど、カオスな状態で頭の中にその光景が残るから雨音は朝にして胃もたれを起こし、再び昼頃まで2度寝することになった。昼になってから、ようやく正気に戻った雨音はワンシーズンのドラマを一気見したような疲れを思い出す。


「なんで途中までミコ・リンが居たのにそこからアイドル間で戦争が起こるの⁉意味わからないよ~~~」


 食事中にそんなことを口にしたから、思わず変な目で見られてしまった。


「ママの今の気持ちの方が意味わからないわよ!もしかして、どこかで頭打った?」


 親に心配されるほど、おかしくなっていたことを知り、アイドル線で想像を膨らすのはやめにした。代わりに何を想像したかというと…………………………現代にいた登場人物が過去の様々な時代背景に送り込まれ、その出来事を体験していくと言った疑似体験型の舞台設定だった。これだったら自分もその世界を簡単に連想できるため、頭の中で若干美化しながら、その禁断の科目を凌いでいった。

 次はどちらが2択だが、英語にした。理由としてはこれも疑似体験型のように会話を頭の中でセッティングしたかったので、歴史ついでに英語を行う事にした。


「もう、3時か~~~意外と時間たつの早いんだよね~~~」


 この方法でやると相当の時間を要するため学校ではできないし、まして

 は「そこの暇時間に!」なんてやると空の色が変わってしまうしまうほど、長引く可能性だってある。これは実際に起こったことじゃないからわからないが、少なくとも2,3時間は必要になってくると思う。そう考えたら今日が土曜日でよかった………………。


「英語の教材はと、この単語全部覚えなくちゃいけないんだった!どうしようこれはさすがに、書いて覚えなきゃ!」


 そう言って、ペンをもって書き始めようとすると、また頭の中で想像が膨らんでしまう。かき消そうとするが、何も閉じることは出来ない。ペンを置いて、そっちの世界に吸い込まれてゆく。

 あれ、ここってアメリカかな~~~それに横に座っている人って、ちょっとかっこいいかも、なんて。


「Lisa!Lisa!Maybe what did you eat my blueberry cake?」


 突然、頭の中がいつもとは慣れない単語で埋まっていく。最初の内は私の事を恨んでいた彼も段々と私のやりたいことに協力してくれるようになる。単語が文になって、それがやがて会話になってゆく。これが英語をしゃべるという感覚?自然と聞かれたことに対して彼が組み立ててくれる。最初の1時間ほどは大苦戦だったこともあり、少し泣きそうなほど苦しい状況に陥ったが、ある程度理解してからは、彼の補助がなくても、他の人と自然にしゃべれるようにまでなっていた。だが、会話の内容はとても限られたテーマばかりでほとんど、試験の勉強にはなっていない。


「よ~~~し、次はもっと単語の数を倍にしてやっていこうっと!」


 頭では、想像しながら実際に口ではしゃべっていく分からなかった単語やフレーズは自然と動作やモノを指さしながら説明してくれる。だってこれは自分の想像した世界なのだから………………………………。 


「I'm glad you to talk about anime,goodbye ~Lisa!」


 頭の中でお別れを告げた後、窓の外を見ると夕方の景色に変わっていた。あれから何事もなく整理できたのは、とてもテスト勉強としては大きかった。英語は下から2番目ぐらいの教科でもあったため、少しこれで不安要素が薄れていった。


「後は理系科目だけなんだけど、大丈夫かな~~~?」


 一番の不安要素、この全科目で一番苦手な教科でもある生物。虫や集合体恐怖症の人が見たら、寒気がするようなものがいっぱい載っている科目。


「今日は疲れたし、明日に備えるか~~~それより、お腹すきすぎてもう倒れそう………………何か食べ物取ってこようっと。」


 本当の踏ん張りどころは明日という事に雨音は全集中を注ぐためにいろんな手を使って快眠になるようにいつも以上に健康に気を使ったのであった。

 日曜日を迎えて漠然と机に向かい、カードを眺めていく。どれもこれもイマイチなような、なんというか気が進まないよなものばかり。


「朝一でこのどすグロい写真はきついから先に化学をしよっかな?」


 理系科目と言ってもこの学校では基礎科目の内容すべてが出てくるため、似た表現に惑わされないように、1つ1つ注意してみていく。

 その中でも気になったところには赤の蛍光ペンで線を引いていく。それでもけっこな範囲のため、ペースは落とさず、丸まる1冊分を見て確かめる。


「これ量多いけど、本当に大丈夫かな~~もし、次の科目までたどり着かなかったら明日にしよう~~~うん、そうしよう!」


 どうしても、生物を今日やる気にはなれなく、明日に回してしまう。悪い部分がちょっとだけ出たが、それほど問題ない。なぜなら、ここ最近の雨音が吸収するペースが速いため、自分で思うよりも余裕ができていたのである。


「最初はうわ~~~なにこれ、こんなの反則じゃん!」


 そこに書いてあったのは様々な構造と化学式などが示された図のようなものだった。しばらく見ているとやはり何をしているか分からなくなる。それからしばらく見ていくと、意外なものを見つける。


「へ~~~鉛筆の芯ってダイヤモンドと同じもので出来てるんだ~~~」


 その時思った。新しい発見が私の中でのワクワク感を刺激して、よりほかのものも見たくなると、そう言えばどこかのテレビに出ていた教授も言っていた気がする。化学は新しい発見があるからやめられないんだと。じゃあ、自分も想像の中で中世の科学者をイメージし、変なオタク仲間と様々な発見の流れを見ていくことにした。


「やっぱり、最初と最後だけ見てもなんも面白くない!」


 思った通り、どれも想像でしかないが、やっているところを細かく頭の中で再現すると、実際やっているのとほとんど変わらなくなり、文字や数字だけだった情報が一気にわかりやすくなった。それに、右のオタクくんβが教えてくれる。


「ありとあらゆるものが、化学と関係してたりするんだよね~~~、これなんて一見ただの画用紙に書いた絵なんだけど、これにも塗料とかの化学製品が使われているし、僕たちが今食べている塩、いや僕がすぐお腹すいちゃうから持ってきたんだけど………………そこは置いておいて、これも化学反応物だし、世界は化学製品で溢れているんだ。そう化学は生きる上で根本的に大事なもんなんだよ~~~う」


 ちょっと、熱くなりすぎて詰め寄ってくると元座っていた位置に戻してあげているのが、手のかかるオタクくんβだけど、取りあえず知って損はないって伝わって来たのがデカかった。オタクくんβ、意外とやるじゃない。


「まあ、オタクは助け合って生きていかなきゃね、give and takeだよ~~~じゃあ、ね!」


 ちょっとその空間でにんまりしながら、少しの間口角がなかなか治らなかった。ママが部屋に入ってきた時は「気持ちわる、なにニヤニヤしてるの⁉」なんて言われてから、ハッと気づいて学習モードに頭を切り替える。

 その後も、昼食を済ませてからさっきの続きをする。正直、何かに使える可能性があると考えて、想像の中で知識を増やしていくこの感覚も悪くはないと思えてきた。


「電池って、そう考えたら意外と複雑というかなんというか、あの2枚の金属板が入った水槽の中でこんなことが起きていたなんて……………………いや、でも案外納得というか何かしら回ってると思ってたけど、イオンになることで、あ~~~そういうことね!」


 理解したのかどんどん応用問題の数をこなしていく。苦手だと思っていたものがこれほど、考え方ひとつで変わるなんてやはり先生はすごいのではと思いながら幻のオタクくんたちと一緒に勉強していった。


「まあ~~~全部できたし、そろそろ終わりにしようかな~~~ん?」


 そう言えば、幻のオタクくんαに言われていたことが少し気になった。


「電気って果物を通してでも作れるってほんとかな~~~?」


 その時の好奇心から深夜冷蔵庫の扉を開けると、早速見つけてしまった。


「ラッキー!レモン見っけ。これをこうして後は中学の時に何故かもらった豆電球をつけると、おぉ~~~!」


 目の前に明かりがしっかりとともされていた。にわかに輪信じがたい光景だったがその導線が古いのもあってすぐ消えてしまった。


「もう~~~なに騒いでるの!また、深夜まで起きて……………………って、あんたそれ、明日使おうと思ってたのに‼」


 あっと気付いた時にはもう遅かった。深夜にメチャクチャ怒鳴られ、叱られた挙句、導線のついてないところの果肉を全部食べさせられた。結果、口の中がとてつもない刺激物の衝撃と実際に説教された反動で目が覚め、気付けば月曜日の6時になっていた。


「はわ~~~、先生終わようございます~~~とっても、いい天気何で張り切ってがんばりまひょ~~~」


 亜白木先生は顔を机にべた~~~とのせている雨音を見て、少し困った表情をしていた。


「おはようございます、雨音さん。ちょっと眠たそうですね。夜更かしでもしていたんじゃないですか?そのままではダメですよ!テスト当日はしっかり調整することが大事なんですから、ほらっ、これあげます、授業始まるまでですが使ってください」


 そう言って渡されたのはなんと新品のホットアイマスクだった。なぜ、先生がこんなモノを持っているかはわからないけど、お言葉に甘えて、つけさせてもらう事にした。


「あ~~~、これダメなやつ。たぶんそのまま寝ちゃいます~~~」

「もし、1限始まるまでに起きなかったら方のツボ押して起こすので大丈夫です!」

「え?」


 先生は少し笑顔でそんな恐ろしいことを言ってきた。たぶん先生は優しそうな表情でひどいことしてくるタイプだとこの時の私はそう思ってしまった。


「だいたいの範囲をやってきましたが、こんな感じかそれ以上でテストが進んでいくと思っておいてください!それじゃあ、今日のホームルームをおわりにします!お疲れ様!」


 先生の合図とともに帰っていくEクラスの生徒たち、今日も私含めて4,5人ほどしか残っていない。


「先生、朝のこれ、本当にありがとうございます!ついでに質問したいんですけどいいですか?」


 亜白木先生は問題ないという表情で少し頷く。


「生物なんですけど、虫の変な形だったり、細胞や組織の穴が多すぎるところとか、グニャングニャンしているところとか私けっこうダメで、そこを避けて頑張る方法ってないですかね~~~?」


 そうすると、亜白木先生の意見はすぐ帰ってきた。


「雨音さん、急がば回れってことわざ知ってますか?」


 当然、知っている何度も勉強したうちの1つだ………………じゃなくて、先生は私に嫌でも目を背けるなというつもりなのだろうか?


「先生?他の方法とかもっと、リアルじゃない方向で何かお願いします!」


 そういうと先生はここで初めてため息をついた。


「雨音さん、これはあまり冗談で勉強してほしくないというか、僕たちは人間で生物だ。この観点から生物学を捨てるって言うのは自分のことを理解するすべを1つなくしてしまうっていうことなんだ。確かにそれとは関係ないようなこともいっぱいあるけれど、大目に見てあげようよ、虫だって毎日必死に生きていると思うよ」


 亜白木先生の言っていることに納得はあまりしたくないけれど、先生の心遣いに私の気持ちは引っ張られていった。


「先生がそう言うならやってやりますよ、見といてくださいね………………いや、見なくてもいいですけど、取りあえず、完璧にしてきますよ、そんなこと言われたら!あと、その顔‼先生ずるいです!」


 言ってから少し恥ずかしくなったが、何とか気合で乗り切ろうとする雨音理沙だった。


「ス~~~ふぅ~~~やっとおわった!これで後は足りないと思ったところの復習ね、全体を通して特に足りなかったところは~~~」


 早速終わったもののまだ気は緩めてはいけない。この頭に5教科分の知識をどう張り巡らせた状態でテストに挑むのかが、重要だ。


「あんまりないわね~~~してゆうなら歴史の前半が不安なのよね~~~余計な人物まで出てきてただ単に疲れただけだったから、もう一回どこに何があって、どんなことが起こったのか繰り返し見ておこっと!」


 そう、先生が作ってくれたまとめられた用紙自体はただ読んでも、けっこう勉強になるものだった。本来なら自分1人でやらなければいけない部分を安全策まで打ってくれた先生には感謝しかなかった。


「そういや、全部まとめたけど、頭の中でどうやって取り出せばいいんだろう?」


 そういや、頭の中で循環させるのはいいけど、アウトプットする時にどうしようか迷っていた。あまりにも知識が多すぎるため、即座に考え出さないとテストとして使っていく意味がない。テストは有限、これまで長い時間を掛けて取り入れてきたが、それをどうやってすぐに取り出すかはイマイチ考えていなかった!


「ま、まあ、時間はまだあるし、ゆっくり……………………て思ったけど、後1週間切ってるんだった、どうしよう⁉」


 先生に頼るのはいいが、そこまで頼ってしまっていては先生の負担が大きくなるし、それに今後の私の周りには、亜白木先生は居なくなっているかもしれないと考えたら、自分でペースを掴むほかないと確信した。


「よし!明日から5日間みっちりテストのコツ掴んでいくぞ~~~~~グ~~ス~~~」


 雨音は張り切り過ぎたばかりにその場に倒れて込んで寝てしまった。

 火曜日、この日は学校に行くなり、先生とはしゃべらず、授業そっちのけで、問題集とひたすらにらめっこ状態だった。家についてからも疲れていたことも忘れ、どこから切り出せばいいか悩みながら、問題文を比較したりしてそれを自分が決めた条件別にまとめていく。


「この文はさっき聞かれてたのと関係しているから、おおよそそこら辺を

 読んで、この人の心情を常に見分けていく必要があるってことで…………………………それなら、全体の文章を読んだときに絶対聞かれるようなキーポイントにマークしておけば、解く時間が早くなって後に時間が余ると」


 国語の定期試験の方針みたいなものが決まり、続いて数学に移る。数学については、そこまで考えるまでもなく分かれば解ける分からなかったら解けないの話だったので、飛ばして英語、理科、社会に関しては全く予想がつかなかった。


「英語なんて読めたら何でもできるでしょ、後訳せたら解けたも同然だからこんなもの、何が出るか分からないんだから私の頭の中の君たちに任せるしかないし、それしかないわよね~~~」


 現に雨音理沙は頭の中で会話ができるほど、成長していたためそこまで考える必要もなかった。


「後は問題の理科&社会ね~~、何が問題かって言うと量がどっちも多いんだよ!」


 確かに普通に考えたらたったの2か月間で60ページ実質縄文から戦国の時代までを1つのテストに難問含めてどこからでも出題し放題になってしまっている。ふと、考えてみたがここまで量が多いとどこか制限されるかまとまった形で問題が来るに違いない。そう考えた雨音は紙に何かを書き出した。前回のテストの時の記憶を呼び覚ましながら、だいたいの枠をつくって書き始めていくと、ある点が気になった。


「何か手掛かりがになるものは…………………………最初の問題と最後の問題ってあまり変わっていないような、気のせいかな?」


 見てみると確かに答え方の違いというものがそこまでない。どちらかというと、問題の出し方が意地悪になっているというか、どこかで見たことあるような感じの会話口調だった。後日先生に聞いてみると……………………………………。


「あ~~~それは、アンチ先生ですね。確か大体の問題が会話形式で徐々に難しくなって行くのが、基本らしいです。あまり口外しないようにお願いします!」


 やっぱりあの人かと思うと、どれだけテストに関わっているのかと謎に気になったが、ここでその先生の出題方法が知れるだけでも救いになった気がする。残るは後1つ、基礎の範囲がすべて詰め込まれた、生物学と化学。

 そこまで難しいとされるところはないが、ひっかけのような問題が高い割合で出されると亜白木先生から忠告されていた。なぜ先生が知っているかは別として今は情報をかき集める方が大事だった。先生に頼らないと言っておきながら、半分近く情報を聞いて頼ってしまっている気がする。もしかしたら、EクラスのハンデとしてEクラスの先生にはテストの内容が言い渡されているのかもしれない。


「いや、そんなことないか、だってこの学校だもん!」


 雨音はそう思い込んだが、亜白木のところにはテストの情報が開示されているのは事実だった。ただ、誰に教えるかは亜白木に任せると言った完全なEクラスにとって公平に持って行ける条件をみんなは知る由もなかった。


「それではこれで授業のまとめと言いますか、テスト前の授業は終わりです!後はテストをどう乗り切るか、頑張って合格してくださいね!」


 水曜日だというのに突然そんなことを言われ、さすがに他の生徒も戸惑い始めた。


「実はですね、校長から残りのテスト期間は自主的に学習してもらおうといった期間で、学校に来てもいいし先生に分からないところを質問してもいいし、家で何してもいいと言った自由期間です。今年はEクラスが作られ、規則も少しわった結果、このような措置を取られました。そこで皆さんにはこの間の4日間を有意義に使って欲しいと思います!」


 亜白木先生は生徒全員を見渡しそう告げると、生徒は呆気にとられたまま、学校を後にするのであった。雨音だけは残っていたが、やがて亜白木に帰るように指示され、雨音は不思議に思いながらも帰宅する。


「これで、良かったんだと。今のところ順調に記録は取れていますし、後は彼らがどう危機感をもってこの期間を過ごすか楽しみなところです」


 そう亜白木は校長に伝えると校長もまた、不敵な笑みを浮かべた。


「Eクラスをどうしていくかは君の手見かかっている、ゆっくりと生徒を育てたまえ!」


 それから、亜白木は校長室を後にするとEクラスに関するファイルの整理をし始めるのだった。

 木曜日にして、いきなりの休み宣言もあり、どうしていいか分からなくなった結果、いつも通りに過ごすことに………………。


「ん~~~娯楽、こう休みだと本当に何か楽しいことしたくなるんだけど、絶対やってはいけない気がする!」


 もしかして、私たちは試されているのかと思いながらも、必要なモノを取り出し、勉強することにした。


「そう言えば、他のクラスの生徒も同じようなこと言ってたから、みんな休みなんだろうな~~~」


 Eクラスだけが、休み……というわけでもなく、全体で調整が行われることとなった。


「たぶん、テスト前の準備か何かなんでしょうけど、ちょっと不安というか先生もあんまり来てほしくなさそうな顔してたし、やめておこうかな~~~」


 亜白木先生が何の意図もなく帰らせるはずもなく、不調子なんだろうと思い込む。結果、学校には行かずこの日はただテスト対策問題を1周するだけの時間となった。

 次の日も雨音は家で想像しながらテストの対策をとる準備をする。ふと気づく………………学校に行っては行けないなんて言われていなかったものの、先生は相手にしてくれるような感じでもなかった。ここから分かることとしては先生はこの期間、教室にいることや質問関連のことが受けられない。

 つまり、テストに深くかかわっている人物ではないかと頭の中の探偵が告げる。


「そうなら、先生が言っていた情報が役に立ちすぎてしまうかもしれないんじゃないの?」


 先生があのような忠告をしたのも、普段のあの様子からしたら何かおかしい。それから、雨音は過去の理科の確認テストの記憶を掘り出すことに……………………………………すると、ほとんどが難しいor基礎的な問題の中に違和感のある問題が2,3問ほどあった。


「あれは………………確か………………う~~~ん、思い出せそうで、やっぱり無理か……………………あっ!」


 試験の中に条件をずらしているような問題があり、正誤を問うようなものが2,3個あったのを思い出す。


「そうか!ああいうのが、前回より多く出てくるという事なのかな~~~としたら、どれだけの割合がひっかけになるかきになるな~~~」


 いや、ある程度は把握していると考えてもいい、難しい問題が少ないなら、他の教科から応用が少ない分に相当する難易度のひっかけ問題がたくさん出されるに違いない。応用問題の数も考えると、次の本試験では3割から4割程度出ると読んでもおかしくない。あれだけ、他のクラスが応用の授業をしてるのもあって、それぐらいが妥当じゃないかと考えられる。そうすると……………………。


「もっと、テスト対策として応用を取り入れなくちゃ、絶対!」


 雨音は土日を使って、猛烈に想像力と紙を使ってまとめ出した。いつもなら、時間を忘れるほど、集中してどれぐらいたったのか忘れてしまうが、効率的に解く訓練のようなものも頭の中で行ったので、決めていた時間に解くことができていた。テストの解く時の流れを決めた後、一息ついてから窓の外を見渡した……………………………………………………………………………………それから日曜の夜。


 「明日で本当に結果が決まっちゃうんだよね~~~冗談なしで退学させられちゃうなんて変な話だけど、そもそもみんなは大丈夫なのかな?」


 1週間前ぐらいの教室の雰囲気を思い出す。とてもじゃないけど、余裕でこの学校に残れるような生徒はほとんどいなかったと思える。もし、この学校にEクラスで私1人だけが残ったらどうしてしまうのだろうか?そう考えると、あんなに関わりのない生徒でもいて欲しいという寂しい気持ちが湧いてくる。だが、そんなことを考えていても仕方がない。試験はもうすぐそこまで、迫っている。


「もう、寝て明日のテストに備えなくちゃ!」


 それから、数時間後………………………………………………目が覚めて、スマホの画面をみる。もう起きてもいい時間帯だと認識してから、いつも通り顔を洗い、朝食を摂り、必要なものを確認して家を出る、ただいつも通りでないものが1つだけ、それは………………………………………………………………………………………………………………そう、自信に満ちた自分だった。

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