<担任の役目>

 Eクラスの生徒が一人、2日前からいない。バックレて休み続けている生徒は数人いるというのはいつもの事だ。その人たちとは違って、毎日ノートを取って、わからないことは調べるという事もしていたのかもしれないが、何があったにせよ、急に休むのは何かがおかしい。彼女のテスト結果も少し低い点ではあるが全体的にどん底というわけではない。

 むしろ最近の小テストではゆったりではあるが、上がりつつある。頑張りすぎた上で、風邪を引いたのなら仕方がないが…………………………そういう感じでもなさそうだ。



「ここは1つ調査と行こうか」


 Eクラスの担任はホームルームを終えて、生徒が教室から居なくなると、颯爽とどこかに向かっていった。


「ひとまずはここで聞き込みかな~~~」


 亜白木が向かった先はBクラスの生徒がたむろしている場所、図書室の手前の廊下だった。


「ちょっと、みんないいかな?」


 怪しげな人が近づいてきたと、思ったのかみんなが小声で話していると、生徒の一人が答える。


「Eクラスの先生でしょ、いいよ。何か聞きたいことでもあるなら、好きに聞いてよ」

「それじゃあ、早速聞くとしよう。まず君たちはBクラスの生徒であってるよね?」


 みんながそれぞれ頷き、先生の日常的な質問に答える。顔は段々と和らいでいき、生徒の方から質問が飛んでくる。


「先生って、Eクラスで何教えてるんですか?」

「Aクラスの先生と比べて、月収って低いの?」

「部活の先生が前に言ってたんだけど、1年生の先生は顧問を持たないって本当なの?」


 みんなからこんな感じの質問が飛んでくる。なにから答えていいのか迷っていた先生は、何か考えてから口を開く。


「取りあえず、月収は他の先生にも関わるからパス。Eクラスで教えてることは、基本的な5教科に加えて何か適当にやっているよ。で、顧問の話だけど、そうだね~~~1年の担任はというより、だいたいの先生は持ってないと思うよ、それに沿ったコーチみたいな人が2,3人ついてるはずだから。」


 先生の答えとしては満足だったものの生徒には普通だのケチだの言われた。


「まあまあ、君たちも部活に行かなくて大丈夫なのかい?」

「うちの先生は部活を強制しないから、楽で本当に助かるよ、ハ~」

「僕も強制はしたくないけど、何かやってみた方がいいと思うな~」

 先生の言葉に耳を傾ける生徒がほとんどいない状態で次の話題に切り替えた。

「そう言えば、最近先生に教えに行ってもらっていた生徒っている?ほら、Bクラスの舟志先生に放課後勉強を聞いてもらっている他クラスの生徒とか」

「あ~何かそんな人いたような気がする。ちなみに先生に放課後聞きに行くっていう事は僕らのクラスではよくあることだよ」

「その他クラスの子がどうかしたんですか?」


 先生に向けられた生徒の目は純粋に知りたい人の目だった。だから僕は少し先生として生徒に知りたそうな情報をを与える。


「そうなんだよ~~~僕のクラスの生徒が少し学校休んでいるんだけど、その理由が全く分からなくて、君たち何か見てないかなって、どうかな?」

「そう言えばなんだけど、僕たちのクラスでも1週間ぐらい来ていない子いるよね?」

「確か………………西紀さん、だったっけ?なんか物静かそうな子だったわよ。あの子も一時期、先生によく質問していたんじゃなかったっけ?」


 生徒に寄り添う形で聞き込みを行うと意外なところからの情報があふれていくる。これはもう少し、聞いた方がよさそうだと思った亜白木はもう少し踏み込んだ形で質問を続ける。


「へ~~~Bクラスもいろいろあるんだね。最近舟志先生に変わった様子とかなかった?」

「何で?先生はいつも元気だよ」

「自分たちが眠たい時間帯もけっこう当ててくし、ね!」

「もしかして先生、舟志先生のこと、狙っているの⁉」


 途端に変なことを言い出し、勝手に騒ぎ始めたと思ったら、後ろの方から本人がやって来た。


「みんなこんなところで何してるの、何も用がないなら、家に帰ってテストも近いんだし、だらけてちゃダメよ!」


 みんな舟志先生から逃げるような形で去って行った。後ろの子は僕の方をチラ見して帰った。全く………………とんだ誤解だ。


「もう~~~今の若い子たちってよくわからないわ!」


 舟志先生はため息をついて少し困った様子だった。


「舟志先生………………あの………………今の話、聞かれていました?」 


 亜白木が聞きにくいであろう話題を最初に触れると、先生は振り返って少し微笑していた。


「何のことかわからないな~~~そうそう、明日からまた忙しくなりそうだから早く亜白木くんも準備してきた方がいいよ」


 少し話を誤魔化されたが再び聞き直す。今度は直接話題に触れる。


「あの雨音理沙って子、知ってますか?先生とよく一緒にいるのを見かけ

 たんですが………………」

「なんだ、私の事じゃなくて、その子の話題?」

「そうです、何か知らないですかね?」


 先生の顔が一瞬膨れて元に戻る。何か知っているのかもしれないし、ただの面倒くさいという顔なのかもしれない。亜白木は少し黙っていた。


「なんで、そんなに彼女にこだわるの?」

「それは自分のクラスの生徒ですから、なぜ来なくなったかは気になります」

「ただの気疲れじゃないの?テスト前のストレスで休んでるとか」

「僕もそう信じたいのですが、何にも連絡がないので少し困ってます。先生なら少し関りがあるので何か知ってるかと思ったのですが、見当違いだったみたいですね。」

「そうね~~~生徒が大事って言うのもまあわかるけど、今回の件でテストに受からなかった生徒はどっち道、気にする必要が無くなるわよ」


 舟志先生からの一言に違和感を覚えた亜白木は丁寧な口調で問い正す。


「雨音理沙は受かるはずがないと踏んでおられるのですか?」

「そんなことは言っていないけれど、見ていてそういう風には感じたわね」

「先生として………………いや、Eクラスの担任として、彼女の補助をしてあげるのが本来の役目だと思っているので、僕も完全に諦めている人間は無理にでも助けようとは思いません」

「私は好きにしたらいいと思うわ。ただし、あまり深追いはしてはいけないわよ!この学校がどんなところかよく理解していると思うけれど私はできる人間とできない人間はきっちり分けるタイプだからあなたも先生をやっていく上でそういう部分はよく決めておいた方がいいわよ、亜白木くん………………じゃあね……………………あなたの生徒も残れる人数が多いことを祈っているわ」


 雨音理沙に何かしらの気づきをあたえ、学校に来ない状況を作ったのが舟志薪音だという確信が取れた気がする。先生として生徒を見捨てるという事はできないが、舟志先生のさっきの口調からしてそう言ったことをしてもおかしくわないと思い、舟志薪音は亜白木の注意対象リストにチェックを入れられる。雨音理沙についてだが、明後日が土曜日という事からも何かできることはないかと策を考えた。

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