<生徒の孤立と先生の実意>
放課後の時間、自分で努力してそれを先生に見てもらい、そこからまた新しいことを勉強する。ミスは決して悪いことじゃないと舟志先生は言ってくれた。
「先生、こんな時間まで手伝わせちゃってごめんなさい」
ただ先生にはいい所をいち早く見せたくて努力して頑張って何事にも失敗は付き物だと頭では受け流して、分からない問題をひたすら解いた。
「マコちゃん、もう休憩したら?ちょっとは頭を休めるというのも手よ!」
舟志先生はいつもこんな感じでやさしく声をかけてくれる。昨日も私がずっと悩んでいたら、そっと横に飴玉を置いてくれた。
「まだ、一か月ちょっとあるんだし、慌てなくても私はいいと思うけどな~~~先生努力する人も好きだけど余裕をもって生活できる人も大事だと思うの、マコちゃんはどうかな?」
先生っていっつもこういう事を言ってくれるから助かる。私は全然理解できていないことを面倒くさがらずに教えてくれる先生が大好きだ。もう、後のことは後でいいから定期試験に間に合うように進めなくちゃいけない。私に残された期間をしっかり有効活用して見せる。
定期試験6週間前、私はある程度の問題を把握していた。もちろん先生に教えてもらいながらだけど着実に前に進めている。
「居残りしてもいいけど、体調壊さないようにね~先生この後用事あるから先教室でるね!」
先生のいない教室、他の生徒にはどう見えているかそんなことどうでもいい。
「西紀さんって全然勉強できないらしいよ、何かかわいそうだねぇ~~~~フフッ」
「確かに、な~んでBクラスにいるんだろうねぇ?、Cクラスの方が良かったんじゃない?」
こんなヒソヒソ声が聞こえても気にしない。だって、試験に間に合えば、ここでいい点を取ればそんなことは言われなくなるんだから!
定期試験5週間前、少しは応用の問題に慣れたのかなと思うぐらいにはなっていた。解けた問題を見るとみんなが行っていた事なんて気にしなくてもいいような気がしてきた。
「明日の課題やった?結構量多いんだよね~」
「そんなの帰って1時間もあれば終わるでしょ?」
「そうだよね、この前言ってたあのお店、おいしそうだから学校終わったら寄ってみない?」
「あ、いいじゃん!これ片づけてくるから玄関のところでちょっと待ってて!」
こんなクラスについていけているだけでも良いと思える。だって、それがまだ私がこのクラスでやっていけている証明になるから……。
「よし何とか課題も半分やったし、後はゆっくり休憩しようかな~」
先生がいなくてもある程度のことはできる。これがどんどん長くなって先生にマンツーマンで教えられなくても一人でできるようになればいいんだけど。先週は自分の苦手と向き合った。私なりにできるところまではやったからこのままでいい気もする。近くのファミレスに寄って好きなチョコパフェを食べるこのゆるやか~な時間。
「そう言えば、Eクラスの生徒は何をしてるんだろう?」
みんな全く学校に残らず配達の人みたいに一瞬で帰っていく、Eクラスの生徒はやっぱりやる気がないのかも。入学初日であんなこと言われたんだもの。メンタルなんて最初からズタボロ状態だろうしね。自分だったらそうなっててもおかしくない。でも、まだこの学校に残っているという事はみんなあきらめてないってことなのかな?
「あんまり気にしない方がいいのかも………………」
こんな時間をゆったりと過ごしている間に定期試験はちょっとずつ迫ってくる。私はこのままじゃ、Eクラスの事なんて言ってる場合じゃないと思って試験勉強に戻った。
定期試験1ヵ月前、今日は今後の実力を測る大事な確認テストだった。これまでもテストっぽいことはやっていたけれど、この時になって一層周りの空気感が変わった気がする。
「成績には関係ないけど、しっかり取り組んでね、これが定期試験の参考にもなるから~~~でも、そこまで難しくもないからリラックスして解いてね!」
テストが始まって数分が経つと4,5人がう~んという唸り声をあげていた。それもそのはずで半分が応用問題なこともあってとても時間通りに解けず、何よりそれがいろんな形式の問題で出されている事である。私こんなのやってない。しかもその量がざっと20問、このまま解いてたら確実に半分解けなくなる!急いで次のページをめくるがどこも応用編でその文字を読むだけで疲れてくる。
結果5教科のテストが終わった直後、みんなの話し声が聞こえた。でも、そこまで難しい問題が出ていたのに解けなかったという声があんまりなかった。そこで初めて自分は発展問題の割合がとてつもなく少ないことに気付いた。解けない理由が分かったけど、これはどうやって解決するか分からない。発展問題はひらめきでやるか必ずそれに沿ったやり方がある。私は後者の方でしかできないため、非常に今苦しんでいる。
「そうか、また舟志先生に頼めばいいんだ!そしたらまた問題も少しずつ解けて解決していく………………後はどこまでいけるか、定期試験までに間に合うといいけど」
そうやって進んでいくにつれどんなやり方ですれば、自分の理解につながるか段々と分からなくなっていった。先生にも聞こうとはしたけど、あまり長い時間一緒にいてくれず、定期試験についての会議があるからとかで30分ほどでいってしまう。
「まだ、そんなに教えてもらっていないのに………………」
ここ最近の授業も確認テストがあったからかいつもより発展の問題をたくさん解かされるようになった。その分、生徒には今までと同じ量の課題が出される。当然、それに不満を感じたのか1人の生徒が先生に疑問をぶつけに教室を出た舟志先生の後を追った。私も数学の応用問題で分からないところがあったからその子の後を追った。
「あなた、この量の課題が多いと?このままだとBクラスには残れませんよ、それじゃあまた明日ねっ‼」
こんな声が聞こえてハッと歩くのをやめた。これは誰の声?先生がいつも喋っているトーンでそんな言葉が聞こえてきた。今まで一度も聞いたことのない答えが返ってきた時、さらにここから先どっと波のように心配事のあれこれが飛んできた。こんなに心配になったのは生まれて初めてだった。教室に戻ると私の悪口を言っていた子も勉強に追われていてそれどころじゃなかった。
家に帰ってから先生に聞きたかったことをまとめてそれ以外のテスト勉強をすることにした。と言っても何から手が付けられるか分からず、ひたすら教科書に載っている問題集をノートに書き、どうやって解くのか数式を書いてじっと考えてみる。1時間後…………。
「あ~全く分からない、何でこことここが繋がるのここの文どういう意味なの?」
疑問の嵐が頭の中で渦巻いている。1問見れば、また1つ不安が募っていく。ここままじゃ、らちが明かないと思い、寝ることにした。
次の日の授業はそこまで難しくもなく、昼までで終わっと言った年に数回しかない時間割だった。またいつも通り、先生に質問を投げかける。私のノートを先生に見せると、赤のペンでいろいろ書き足してくれた。それから参考に応用が良く乗っている参考書で説明もしてくれた。
「先生は何でもできて凄いですね、私まだ頑張れそうです!」
舟志先生はにっこりとこっちを見て、引き続き説明してくれた。この間の聞こえてきた言葉を考える必要もなく、ただ教えてくれているだけで、こっちはすごく安心した。
「これで以上かな?そう言えば、今度面談したいし、2日後の放課後、この教室で待っていてくれない?」
先生からはこれだけが伝えられ、私の中では何かと迷っていることもあるし、ちょうどいい機会だと思った。
「先生?私、勉強ついて行けてますかね~~~?もし、金曜日の面談で時間があったら勉強以外でも話したいことがあって……」
「わかったわ、ただし勉強面を主に聞くからその心づもりだけはしておいてね」
先生とはここでさよならを言って帰った。
その後も、机に座りノートを広げ問題を見返して、応用を解きながらベッドに寝転んでお菓子を食べる。このままの生活でテストも行けると思っていた。
面談の今日、私はゆっくりと荷物を片付け、いつも通りみんなの下校を見ながら先生を待った。やけに静かな教室に何か変な感覚に陥った。
「先生遅いな~~~まだ事務処理終わっていないのかな?」
部活を行っている姿を眺めながら、運動部の人はどうやって両立しているのか気になった。私よりずっと大変なはずなのにみんな面白そうに活動してる。私も何か入った方が良かったのかなと考える時もある。そんなことを考えている内に先生は来た。
「ちょっと、資料整頓しててごめんね!今からあっちの教室に行くんだけど、荷物も持ってきて、ここの教室は閉めるから」
先生はちょっとせかすように急がせた。廊下に出てからまた部活動の声が聞こえてきた。
「先生は部活動の顧問顧問など、やっておられるんですか?」
先生が首を横に振り、「できたらいいけど担任してると忙しいからね~スポーツはだいたいそれ担当の先生がいるのよ!」なんて返されて、初めてこの学校の凄さに驚いた。やっぱりいろんなところでしっかりとした先生や備品があるってことに改めて知れた。
「この教室よ、入って!」
奥まで歩いていくとBクラスの教室とは全く違う狭い部屋に入った。だからここが相談や面談の部屋だという事に関しておかしいと思う事はなかった。
「早速、今の学習状況はどう?」
椅子に座ってからすぐに聞かれたことが、勉強の事?もっと、日常的な事から入ると思っていた。
「別に普通です。でも、最近試験があったのでそこのところの問題があやふやでまだ数回しかできていません」
先生の笑顔が一瞬不気味に見えた。さっきの感じといい、いつもの先生とはどこか違う。
「先生は勉強でつまずいたことはないんですか?」
「私はずっと昔に勉強が得意ではなかった時期があったけれど、すぐに上に追いつけるようになったわ。あなたはどうかしら?」
先生の質問にどう答えていいか分からない。努力しても次にテストを行った時には違うところが苦難となって自分の重しになるから。でも、先生には正直なことを伝えたい。もし、今がダメでもきっとよくなるから、そこにかけるしかないの。
「え、え~と私は今は基礎が9割方解けるだけで応用は3,4割ですけど、何も今焦らなくても後で仕上げたらきっとほとんど解けるようになると思うので先生にそこら辺をもうちょっと手伝って欲しいと思います」
言い終えると、何かの冊子を机の上に出してきてとあるページを先生は開いた。
「これは何だと思う?」
それは何かの点数が書かれた表であって、自分の欄である場所にはみんなと違った印が書かれていた。
「それは前回受けた確認テストの結果なんだけど、あなたの結果が案外悪かったの。それも応用の部分じゃなくてここなんだけど…………」
先生はそう言って私のテストの回答を見せてきた。どの教科もある程度解けてはいるが、基礎で5から10問ほど落としていたことに気付き、少し焦った。
「そう応用はまだできていないって言っていたけれど、基礎もいくつか足りていないんじゃない?あなたは頑張っているつもりでももう結果は見えてる。疲れたと休んでいるけれど、肝心なところを抑えられていない。それじゃあダメなのよね~~~」
私は先生が何を言いたいか少しわかってしまった。つまりはあなたの努力量じゃ足りなかったってことで、私に忠告しているのだと。ここから自分のやり方を変える訳にもいかず、先生にもう一度どうするか自分の意思を伝えることにした。
「先生は………………もっと、努力すべきで心配してくれているのは分かります、でもここのところ調子が出ないのでできる限り勉強時間を確保してみんなに追いついていくのでもう少し見ていてくれませんか?」
すると舟志先生は大きく首を振り、こんなことを私に言った。
「違うわ、もう手遅れだと言ったのよ。あなたは努力しても点数が取れない。あれだけ努力したのに言うほど、取れることろを落としてしまっている。自分のミスを認められないのわ分かるけれど、このままじゃBクラスからCクラスに降格よ」
先生からのこんな話、信じられるわけがない。ずっと舟志先生が味方だと思って先生にいろいろ聞いて問題に何十時間も突き合わせて先生には自分の事をもっとできる人間だって言って欲しかったのに、これじゃあまるで、私の努力そのものが無駄だったってこと?体温が一気に下がっていくのを感じてその後は、心から何か抜けたような気がした。先生の顔を見てその時ハッと気付いた。この顔はあきれている時の顔だ、私に興味をなくしたっていうのが正しいんだろうか、先生の見たくない顔がどんどん自分を分からなくさせていく。
「マコちゃんは………………西紀さんはどうしたい?これからもう一度試験を受けることはできないけれど、明日から自分を変えていくことをできるわ…………例えば………………学習方法を変えてみてもっと応用編で頭を慣れさせるとか、もしくは分からなくなったら無理やりにでも頭に入れる方法もあるし、なんなら……………………………………学校をやめて一つランクの低い高校に行くってなるのも手だわ。あなたが自分を見出すにはその方法が手っ取り早くて一番ね!西紀さん、どうするのがいいのかしら?あなたにはそうすることを強くおススメするわ!」
私は考えることができなくなっていた。何を言っているのか全く分からなくなって次第に、その時初めてもう何もしたくないと思えた。この先、先生と同じクラスじゃなくなるという可能性よりも先生が私の見方じゃなくなり、挙句の果てに私を見捨ててこんなことを先生はしてもいいの?と感じながらも、先生の表情は一向に変わらないまま私は自分の言葉が出せなくなっていった。
そして呼吸が途切れていくのを感じそのまま目の前が真っ暗になった。私の心がそんな酷いギャップに耐えきれるはずがなかった………………。
「あ~あ、この子はもっと使えると思っていたのに心が弱すぎて使い物にならないわ~~~私に頼りすぎちゃって、期待されず離されていくってことに執着しすぎなのよ……………………………………あらら、こんなことで耐え切れなくなっちゃったのかしら?もうちょっと、メンタルを鍛えてもらおうと思ったのに残念だわ~~~もう、この子は保健室に連れて行って…………後はいじめのようなものもこれで解決!ここに残って生活するかは彼女次第だわ、ここで生き残れるかは…………………………」
そう、舟志薪音が担当するこのクラスはBクラス上に立つものはいずれ限られていく。彼女の性格もまた裏表のはっきりしたもので生徒を気にするが反面、もう成長が見込めないと実感した相手を自分勝手な判断で理不尽に蹴落とす。
そんな人間なことを生徒を人形のように扱う彼女の事を今の2,3年生は少数だが知っている。彼女が優しいのは確実に能力のある生徒だけと言う限定的なもの。この学校にはそう言った人間がふさわしいとされているが、学生からしたらただの悪魔でしかない。舟志先生が西紀を保健室に運んだ後、職員室に戻って事務の仕事を片付ける。
………………………………………………………………………………………………彼女は何とも思っていなかった。
「……………………あれ?ここ家じゃないの?」
起きてからとてつもなく頭痛がした。保健室の周りを見渡しても誰もいず、机の引き出しから頭痛薬を取り出してそれを口に運んだ。
もう、だいたい意識が戻ったとこから先生に何かを言われてというところまで覚えてはいる。とてつもなく、夢に近いこと私は夢だと思い込みたかったけど、手の震えがそれを現実だと表していた。
「もう、学校になんていっても意味あるのかな、誰も何も信じるなんてできないよ!あぁ、あれ?何か暗いなあ」
外はもう、すっかり夕方の空になっていた。このまま保健室で放置され、起きたら頭痛に襲われる。彼女の精神は極限状態を通り越して不安定になっていた。
「ん~~~、家、家に帰ってゆっくりしたい、あれ何をしたいんだっけ、もう何もわからない………………グフフ、フフッ」
誰からも相手にされないとわかったら、精神的におかしくなりこのまま家に帰ろうとすると、急に奥に詰まったものが勢いよく出てきた。
「フフッ、うっ、ゔえぇぇぇぇぇ~~ッ。もう無理気持ち悪い。こんな場所いたくない!このまま帰ろぅ………………」
必死に歩いて帰るが、全然前が見えない。いつもは20分かけていっている通りを今日は2時間かけて帰ることになった。
家についてから、ベッドに倒れこんだ。そこから何をするにも体も心も反応せず、彼女はこのまま2週間ほど学校に来ることはなかった………………。
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