早くも絶体絶命

ダンジョンの中はまるで洞窟のようだった。いたるところに穴が開いていて、水の流れる音が奥から聞こえる。川でも流れているのだろうか?

水が流れているからなのか、かなり涼しい。まるでクーラーを全開にしているかのようだ。

エルナに


「なんでこんなに涼しいんだ?ダンジョンはいつもこんなに涼しいのか?」


と聞くと、


「うん。前に来た時もこんな感じで涼しかったよ。なんでだろうね」


知らねえよ。俺が聞いたのに聞き返された。なんで俺が知ってると思う。もしかして、こいつ馬鹿か?

そんなことを考えていると、前を歩いていた男が答えてくれた。


「ここは地上より低い洞窟だからな、暖かい空気は外に逃げて、冷たい空気だけ残るんだ。他にも魔物の影響とかもあるけどな」

「すごいね、なんでそんなこと知ってるんだい?」

「なんでと言われても、知ってるから知ってるだけだ」


と、男たちは困ったように答えた。まあ確かに何で知ってるのか聞かれても困るよな。

っていうかこいつらの名前は何だろう?一緒に飯も食ったのに知らない。


「そういえばお前らの名前はなんだ?」

「言ってなかったか?」


としばらく考えるそぶりを見せた後、


「......確かに言ってなかったな。俺の名前はレイデンと」

「アルデンだ。俺たちは兄弟なんだ」


兄弟だったのか。確かに顔を見ると似ているような気もしなくはない。そういえば俺たちの名前も言ってなかったような気がする。


「もう知ってるかもしれないけど、俺はリュウマでこいつはエルナだ。よろしく、レイデンとアルデン」

「ああ、よろしく」


俺達はしばらくの間、会話しながら進んでいった。洞窟の中にはかなりの数の分かれ道があり、俺達は結構適当に進んでいたので、戻れるのか心配になる。


「...なあ、結構進んできたが、どうやって戻るんだ?」

「心配するな。ダンジョンの所々にはポータルがある、それを使って入り口に戻れる。逆に言うと、そこまでいかないと戻れないんだがな」

「次に来るときはそこから再開できるんだ!」


セーブポイントみたいなものか?便利そうに聞こえるが、ポータルを探さないといけないのは困る。

それだと


「歩けないほど負傷したらどうするんだ?」

「一人だと、終わるな」


...えー...


「だからダンジョンに挑むときはパーティーを組んでいることが推奨されているんだ。あくまで推奨だけどな」

「ちなみにね、下層に行くほどポータルの数は少なくなっていくんだよ!確か、ポータルは冒険者が置いてるもので、後から来る人が楽に入り口まで戻れるようになってるんだ」


エルナがそんな情報を知っていることに驚いていると、


「エルナ、お前よく知ってるじゃないか」


と、レイデンがいった。

エルナは頬を膨らませながら


「僕が何も知らないとでも思っているのかい??」


と言い、レイデンの腹に軽くパンチをした。


「ゔっ......」


すると、アルデンが


「俺たちが今いるのは、最上層。そして、ポータルの量は一番多い。今年最上層で死亡した人数は0人。だから安心しろリュウマ、よっぽどのことがあっても死にはしない」


と、レイデンがうめいてる横で言った。アルデンが言うからには大丈夫なのだろう。


「だが一つ気になるのが、ここまで来てまだ一体も魔物を見ていないことだ。普通、ここまで奥に来たら十体ぐらいには出くわしているんだが」


フラグを立てないでくれ。と言いたかったが、どうせフラグってなんだ?って言われそうなのでやめた。

だがエルナが


「やめてくれよアルデン、フラグを立ててるじゃないか」


と言ったので、

知ってるんかい。と一人でつっこみをした。

すると、急に奥のほうから崩壊音とともに、耳をつんざくような高い咆哮が聞こえてきた。


「ギィーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」


その瞬間アルデンとレイデンは、表情を引き締め、武器を手に取りすっと身構えた。


「......まさかっ!、この鳴き声は!!いや、そんなはずは...」

「兄貴!お、落ち着いて、ここは最上層だ。あれがいるはずない」


どうしたんだ?これは何の鳴き声だ?

周囲の空気が張り詰めていくのが分かる。

しばらく崩落で生じた埃に目を凝らしていると、急にギラリとした赤い眼光がこちらをにらんだ。

ちょっとまて......なんなんだ、目の高さがおかしい。最上層なのにそんなにでかい魔物がいるものなのか?

横を見ると、エルナも口をポカンと開けながら上を見ている。

そして、それは突如姿を現した。


「おいおいおいっ、ふざけてるだろっっ...なんでっ、なんでフェルノックがこの階層にいるんだよ!?」

「ありえねえ...おい!お前ら、今すぐ逃げろ!!こいつとは戦うな!!間違いなく死ぬぞ!」


俺とエルナは、我に返り、後ろに振り返った。その瞬間、


「ギィ―――――――――――ッッッ!!!」


再び高い方向が洞窟内に響き、フェルノックらしい奴の口が急に光ったかと思うと、どでかい火の玉が頭の上を驚異的な速さで通り抜けて行った。


「ドゴォォォォーン!!!」


そして、轟音とともに目の前にあった通路が塞がれた。

しまった!退路が塞がれた!

残っているのは、後ろにある通路のみ、だがそこはフェルノックが塞いでいる。

ここから生き残るにはあそこを通るしかない、だがどうすればいいんだ!?


「ギィ――――――――――ッッッ!!!」


フェルノックはまた金切り声を張り上げ、俺たちを睨んだ。

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