俺冒険者になる

ゴン!

勢いのあり余った手が鈍い物音と共に壁にぶつかり、指先に鋭い痛みが走った。


「!......」


痛い。突き指をしたかもしれない。

とりあえず状況を把握しよう。周りには、ベッドしかない。どうやら俺は何かの建物の一室にいるようだ。

あの女神...説明もしないで俺を転生させやがって...

大体、転生できるということ自体信じられない。人は死んだら終わりじゃないのか?

そう思いながら、とりあえずセルフボディーチェックをする


「持ってるものは無し。と...」


正直どうしたらいいのかわからない、何の説明もなしに飛ばすなんて女神としてどうなのだろうか。

ただ突っ立っているのも意味がないので、とりあえず外に出てみることにした。

キィと音のなるドアを開けると、眩しい光が差し込んできた。

これから異世界生活が始まるのかと考えると、少しワクワクする。

外から流れ組んでくる眩しい光に目を凝らすと、まさかの屋外だった。


「部屋......小さくね?」


ベッドしかない家なんてあるのか。これが異世界なのか?

まあ、色々なことは外に出てから考えよう。とりあえず周りを探索して情報を集めるか。

大通りと思わしきところを歩いていると、正面に 『冒険者ギルド』 と書かれている看板を見つけた。

それ以外に面白そうなとこもないので入るとするか。

建物の中は意外と広く、男たちが真昼間から酒を飲んでいた。右には 『受付』 と書かれた看板とともに、何人かのそれはまあ美しいお姉さんたちが談笑を交わしていた。

談笑を中断させるのは悪いが、とりあえず話しかけてみる。


「あのぉ、すみません」


すると、一人のお姉さんがこちらを向いて


「はい、冒険者になりたいんですね、契約書を読んで、ここにサインを」


そういいながら、彼女は羽ペンと、なんかいろいろ書いてある洋紙をもってきた。

俺がポカンとしていると


「早くしてください、なに突っ立っているんですか?」


俺はまだ何も言ってないのに、あの女神といい、このお姉さんといい、なぜ異世界人はこんなにせっかちなんだろうか。


「いえ、あの、初めてここに来たんですけど、何をしたらいいのかわかんなくて。」

「?冒険者になりたいんじゃないんですか?」

「はい...」

「はぁ。なら早くいってください。では手をここにかざしてください、あなたのことを自動で鑑定してくれます。」


と、彼女は石をカウンターの上に置いた。

冒険者になりたいとは一言も言っていないんだが... それにこの人今ため息つかなかったか?

そう思いながら石に手をかざすと急に光りだした。


「鑑定結果が出ました。あなたのスキルは料理強化、ステータスは...平均ですね。器用さは人よりもあるようですが」

「適正職業は、料理人と...冒険者?」


彼女は眉をひそめ怪訝な表情をしながらこう言った。


「スキルは料理強化なのに冒険者?どういうことでしょう... まあいいです、とりあえずあなたの適正職業は料理人、冒険者です。これ以上質問はありますか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。何を言ってるのか全然わからない。」

「え?」

「ユニークスキルって? ステータスって? 色々説明してくれ」


そういうと、彼女はまたもや不思議な表情を浮かべながらこう言った。


「知らないんですか?」


どうやらこの世界では知っているのが常識らしい。

彼女はため息を吐きながら


「ユニークスキルは皆が生まれ持っているその人だけのスキルです。ステータスはあなたの生命力やなんやかんやのことです」


と言った。

適当な説明だ


「どうやって見るんだ?」

「そんなことも知らないんですか? 思い浮かべれば見られるじゃないですか」


試しに思い浮かべて見ようと、ステータス、ステータス、と頭の中で唱えていると、目の前に数字の書いてある画面のようなものが浮かんだ。


体力:100

魔力:100


など、数字が延々と書いてある。

下のほうには、ユニークスキル:料理強化とある。


「...見えましたか?」

「はい、なんかいろいろ書いてあります」

「では、次は職業の説明をします」

「料理人はそのまんま、料理する人で、冒険者は冒険する人です。今一番人気のある職業で、死者も一番多いです」


相変わらず適当な説明をした彼女は、こう続けた。


「冒険者が一番稼げますよ」


冒険者か、ロマンの溢れる職業だな。一度はやってみたい。


「じゃあ冒険者になります」

「では先ほどのこの契約書を読んで、サインをしてください。」


契約書には死んでも責任は負わないやら、自己責任だやら、何やら物騒な内容が書いてあったが、どうせ一度は死んだ身なのでいいとしよう。

契約書にサインすると、文字が浮かび上がり、体の中に入っていった。


「これであなたは正式に冒険者になりました。こちらはガイドです。これを読めば大半のことが書いてあるので参考にしてください」


そして彼女は俺の手のひらに分厚いガイドを乗せた。

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