雑な女神と雑なスキル

「早く目を開けてください」


何やら苛ついた声が聞こえる

力が入らないんだからしょうがないだろう、そう思っているといきなり腹をつつかれた。


「やめてくれ、腹が痛いんだ」

「あなたが早く起きないからですよ」

「見てわからないのか?俺は倒れているんだ」

「何を言っているんですかあなたは」


と、ここであることに気づいた。聞こえるのは知らない苛立った女性の声。腹の痛みも嘘だったかのようにどこかへ消え去っている。目を開けてみると、そこには終わりの見えない空間が広がっていた。


「やっと起きたんですか、早くこちらへ来てください」


さっきの声がした。後ろを振り買ってみると、なんだかすごくフリフリしているドレスのようなものを着ている女性が、椅子に座ってコーヒーのようなものを飲みながら待っていた。


「そこに座ってください」


彼女は何もない空間を指さした。すると、突如光が集まり一瞬で、椅子を形作った。


「...は?」

「早く座ってください。まだあとが詰まっているんです」


ちょっと待ってくれ。今何が起こった? この椅子はどこから来た? こいつは誰だ?

頭の中には疑問符しか湧かないが、考えたところで分かるわけもない。

答えを探すためにも、いったん冷静になって椅子に座ることにした。


「ここまで物分かりのいい人は久しぶりです」


と、彼女は言った。近くで見てみると、サラサラとした白銀の髪に、青い瞳、そして美人とかわいいを両取りしたような顔立ちをしている。


「とりあえず説明してくれ、何が起こってる? お前は誰だ?」

「簡単に言うと、あなたは死んで、今からファンタジーな世界へ転生するところです」

「...は?」

「あと、私は女神です」


疑問を解消するどころか疑問が増えた。死?転生?何を言っているのかわからない。あと最後にはなんだって?


「あなたは空腹と疲労がたまって、そのままプツンと命の糸が切れてしまったんです。で、あなたはたまたま選ばれて転生できるラッキーな人間というわけです。」

「というわけで、この中から転生後の使いたいスキルを選んでください。」


自称女神は突如現れたテーブルにカードを3枚置いた。


「ちょっと待て、俺は死んで今から転生?何言ってるんだ、まだ仕事が終わってないんだ。いきなりそんなこと言われても困る。」

「とりあえず選んでください。先ほども言いましたけど、後が詰まっているんです。今日死んだのはあなただけじゃないんですよ。私も暇じゃないんです」


どうやら俺以外にも死ぬ予定の人達がいるらしい。


「私は朝からずっと働いていて疲れているんです。これ以上待たせるとひっぱたたきますよ」

「だからさっきコーヒー飲んでたのか?」


すると、自称女神は頬を赤らめ、


「コーヒーじゃありません!私が何を飲んでいおうといいじゃないですか」


と俺を睨みつけながら言った。

これ以上言及すると、本当にひっぱたかれそうなのでとりあえずテーブルに置かれたカードを見ることにした。


1枚目のカードには

スキル:掃除上手

説明:埃一つ残さず、一瞬で指定したエリアを完璧に掃除できる。


2枚目のカードには

スキル:達筆

説明:筆で描いたような、綺麗な文字を書くことが出来る。


3枚目のカードには

スキル:料理強化

説明:料理に関することが色々できる。


などと適当に着けたような名前と適当な説明が書いてある。


「なあ、これしかないのか?」

「あなたは転生できるというのにまだ文句を言うんですか?大体たまたま生き返れるという時点で~」

「全部しょぼいんだが」

「無視しないでください!いいカードは全部前の人達が取っちゃったんですよ。もっと早く死ねばいいカードが手に入ったんですがね」


何て雑なシステムと、なんてこと言う女神だ。こいつ本当に女神か?


「ちゃっちゃと選んでください、全部しょぼい死に方をしたあなたにはピッタリじゃないですか」


まあ、確かに全部マジでしょぼそうなスキルだ。なら別にどれを選んでも同じか。ん~、どうしようか。

しばらく悩んだ後、

よし、料理強化にしよう。色々できるっていうのがなんなのか気になるし、この中では一番使えそうだ。


「じゃあこれにするよ」

「はい、じゃあ決まりましたねー。いってらっしゃーい」

「!?ちょっっまっ......」


俺は反射的に女神に手を伸ばしたが、あと少しというところで目の前が眩しい光に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る