第30話:平身低頭

1年目秋


「申し訳ございません、もう2度とこのような事はいたしません。

 どうかお許しください。

 それと……厚かましいお願いなのですが、これからも毎日お酒を飲ませていただきませんか?

 私たちにできる事なら何でもさせていただきます。

 あいた、何をするんですか?」


 ワイルドハント、妖精狩猟団に参加していた弱神たちが土下座して謝っている。

 上司に当たる中間管理職の神が、余計な事を言った弱神の頭を叩いた。


「何をではありません、本気で謝っているのですか?! 

 それでは酒をせびっているのと一緒でしょう!」


「申し訳ありません、ですが魔境神さまもお酒が欲しいですよね?」


「余計な事を言うは止めなさい!」


 ぱーん!


 大魔境を担当しているという、一定の地域を管理する神さまが、どこからかハリセンを取り出して余計な事を言った弱神の頭を叩いた。


 魔境神さま、そのハリセンは自分で作ったのですか?

 この世界にボール紙があるのですか?

 それとも地球のような世界で買ったのですか?


「人間、大魔境を任されている神として正式に謝る、申し訳なかった」


「魔境神さま、謝る必要などありません。

 妖精狩猟団はこの世界の正常な働きなのでしょう?

 だったら謝る必要はありません。

 ただ、地域神さまが介入した事には正式に抗議します。

 殺す者には殺される覚悟が必要です。

 こちらが殺す前に、そこにいる神たちを解放したのは、この世界の理にあっているのですか、反しているのですか?!」


 俺は地域神に殺されるのを覚悟で抗議した。

 ここで抗議しなければ、また弱神たちが襲ってくる。


 今回と同じように酒に釣られて酔い潰れてくれれば助かる。

 だが腐っても神だ、同じ罠にはまるとは考えられない。


 次の妖精狩猟団では、大切な仲間が殺されてしまう可能性がとても高い。

 後で殺される可能性が高いのなら、今が命の賭け時だ!

 ここで魔境神に殺されるのを覚悟で強く抗議した。


「……反している、妖精狩猟団の被害は、愚かな神たち行いではあるが、この世界の者に神を畏れされるのに必要だと認められている。

 だが同時に、この世界の者が神を超える機会でもある。

 神殺しの英雄を見出す大切な行いなのだが……」


「弱神さまとはいえ、あまりにも多くの神が1度に殺されてしまうと、神々の威信が地に落ちてしまうから、理に反して介入したのですね?

 同じ神を助けるために、次の妖精狩猟団で多くの者が弱神たちに殺されるのが分かっていて、理に反したのですね?!」


「私の力の権限において、もう2度と大魔境には妖精狩猟団を入れない。

 無理に入って来ようとしたら、私の手で滅殺する。

 先ほど口にしていたような、酒をせびるような事もさせない」


「弱神さまたちが、妖精狩猟団ではなく、1柱の神として酒をせびりに来たらどうするのですか、地域神さまの力で完全に防げるのですか?」


「……隠れ潜むのが得意な神もいるからなぁ~。

 絶対と約束できるかと言われれば、できない」


「その時に俺が殺されたら、どう責任を取ってくれるのですか?

 来訪神様の御厚意でこの世界に転生させていただいたのに、1年も経たずにこの世界の神に殺されてしまうのでは、死んでも死に切れません!」


「来訪神様だと、イチロウ殿、来訪神様に転生させられたのか?!」


「はい、地球という世界からこの世界に転生させていただきました。

 何か不都合があるのですか?

 来訪神様に敵意を持っているから、弱神さまたちが、私を殺すように仕向けているのですか?!」


「違う、そんな気はない、来訪神様に敵意を持つなど、そんな命知らずなマネは絶対にやらん、魔境を預かる神として誓う」


 やっぱり来訪神様はこの世界の神々を圧倒しているようだ。

 虎の威を借りる狐のような言動をするのは嫌だが、みんなの命には代えられない。

 来訪神様のご厚意に応えるためにも、この世界で幸せに長生きする。


「だったら妖精狩猟団に参加していた神たちを幽閉してください。

 殺させろとも殺してくれとも言いません。

 神殺しの英雄になりたい訳ではありません。

 来訪神さまのご好意をムダにしたくないだけです。

 俺が殺されないように、キッチリと幽閉してください」


「分かった、私の全能力を使ってこいつらを封印する。

 大魔境の地下、奥深くに封印する。

 イチロウが生きている間は絶対にでられないようにする。

 ただ、その為にはかなり多くの魔力と命力が永続的に必要になる。

 多くは望まんが、毎日三食の時間に酒を捧げてくれ。

 イチロウの造った酒は神々に力を与えるのだ。

 そのせいで、こいつらを取り押さえるのが大変だった」


 俺の造った酒が神々に力を与えるだと?!

 そんな厄介な力はいらない、今直ぐ捨ててしまいたいが……いただいたギフトだ。

 三柱の神々がくださったギフトを捨てるなんて罰当たりな事はできない。


 一瞬でも厄介な力だと思ってしまった事が、俺の思い上がりだ。

 そんな力があるからこそ、今の幸せな生活ができているのだ。

 三柱の神さま、思い上がっていた事を心から反省します。


「分かりました、毎食大盃1杯か大酒杯1杯の醸造酒を捧げます。

 今から弱神たちを封じるのにも酒が必要でしょう。

 醸造酒1樽、1石(100升180リトル)分差し上げます。

 お土産に1石の酒樽を5つ差し上げます。

 ですから、今直ぐ、そこにいる弱神たちを封じてください」


「「「「「いやだ!」」」」」

「「「「「許してくれ」」」」」

「「「「「助けてくれ」」」」」

「「「「「逃げろ!」」」」」」

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