第29話:ワイルドハント

1年目秋


 30日などあっという間だった。

 ワイルドハントの対策をするには短すぎる日数だった。


 だが、俺のギフトはとても役に立つ優れ物だった。

 巨樹たちが頑張ってくれたのもあるが、1日で地下街が完成した。


 ここで地中熱と樹木内熱の違い、疑問が解決した。

 雪深い北海道の地中熱は冬でも10度だった。

 いっぽう、樹木の内部温度は外気温より2度3度高い。


 樹木の表面は日差しの影響を多少は受ける。

 だが樹木の中心部は日差しの影響を受けにくい。

 エンシェントトレント、巨樹たちなら普通の樹木よりも影響が少ない。


 巨樹たちの根を使って造った地下街の温度は常に一定だった。

 最初に造った夏の終わりから常に17度だった。


 地下街は日差しが無いので、同じ気温の外よりは少し寒く感じるが、ほんの少し温かな服装をするだけでとても過ごしやすい場所になる。

 

 真冬でもこの温度なら安心して暮らす事ができる。

 金猿獣人族とキンモウコウを中心にそんな話になった。


 巨大蚕やマーダビーも地下街に避難すると言っている。

 普通なら冬眠や冬ごもりするのだが、地下街なら普通に活動できるそうだ。

 巨樹の葉をせっせと地下街に運ぶ巨大蚕はかわいかった。


 エンシェントドワーフと妖精族は、大魔境の冬くらい平気なのだそうだ。

 妖精たちは、冬に動きが悪くなる俺たちのお世話をすると言ってくれている。

 冷凍した肉や魚、果物や野菜で美味しい料理を作ると張り切っている。


 ワイルドハント、妖精狩猟団が来る前に完全に地上を引き払う。

 そう思っていたのだが、1日違いで間に合わなかった。


 転移できる妖精や飛べるマーダビー、動きの早い金猿獣人族は、妖精狩猟団の気配を感じて直ぐに地下街に避難した。


 だが、巨樹の外周部を守っていたキンモウコウが逃げ遅れた。

 動きの遅い巨大蚕も逃げ遅れた。

 形だけとはいえ村長と持ち上げられている身だ、村民を見捨てて逃げられない。


 空の上には、武骨な防具に装備し恐ろしい武器を手にした人間がいる。

 狩猟妖精は弓を持って空を駆けている。

 神々であろう連中は後光のようなオーラのようなモノを放っている。


「逃げ込め、近くのドーナツハウスに逃げ込め」


 俺は声がかれるほど大きな声で叫んだ。

 全員を地下街に逃がすまではここに残る!

 最悪の状況に備える策は考えてある!


「大地よ、俺を助けてくれる全ての巨樹が必要とする豊かな地となれ!

 俺を助けてくれる巨樹たちよ、逃げ遅れた者を守る盾となってくれ!」


 俺は心の中で巨樹たちに謝った。

 狩猟妖精や人間の妖精など簡単に倒すと言ってくれていた。

 だが、血に酔った神々には分が悪いと言っていた。


 そんな神々から村民を守ってくれと無茶な願いをしたのだ。

 少しでも巨樹が受けるダメージを少なくしなければいけない。


 これまで俺たちを守ってくれていたのは巨樹の根だった。

 だが根は巨樹を支え栄養と水を吸い上げるとても大切な身体だ。

 

 大切ではないとは言わないが、枝葉は季節や状況に応じて落としている。

 だから俺たちを守るのは巨樹の枝葉に限定してもらった。


「大地よ、俺を助けてくれる全ての巨樹が必要とする豊かな地となれ!

 俺を助けてくれる巨樹たちよ、蓄えていた酒を外に出せ!

 妖精狩猟団を酔い潰してしまえ!」


 俺にギフトを授けてくれたのはとても強力な神々だと思う。

 特に来訪神は、365もの異世界を股にかける大神だ。

 来訪神が弱かったら、とっくの昔にどこかの神に殺されている。


 そんな大神が、宇迦之御魂神が授けてくれたギフトでだいじょうぶだと言った。

 石長姫が授けてくださった不老長寿を楽しめると言ったのだ。

 血に酔ってしまうような弱神に通用しないはずがない。


 あのヤマタノオロチさえ、酒に酔ったせいでスサノオに殺されている。

 弱神程度な必ず酔いつぶせる、酔いつぶせたら殺せる。

 神を殺すのは気が引けるが、村人の命には代えられない!


 この時の為に巨樹の高い所にたくわえておいた、蒸留酒を解放した。

 ブランデーなどを再現するために、巨樹で香り付けしていた特別な酒だ。

 かなり離れた地上にいる俺の所にまで、濃密な酒の香りがただ寄ってくる。


 亡霊、人間の英雄が真っ先に酒に吸い寄せられた。

 続いて狩猟妖精が酒の入った樽に突っ込んでいった。

 これまで一直線に獲物を探していた妖精狩猟団が勝手な動きをした。


 事もあろうに、亡霊と狩猟妖精が血に酔った神々の前をさえぎった。

 狂気におちいっている神々は、さっきまで一緒に狩りをしていた仲間をおそった!

 神具であろう武器を振り回して亡霊と狩猟妖精を殺そうとした!


 亡霊の半数が神々に瞬殺された。

 死んでいる者に瞬殺の表現がおかしいのなら、消滅させられたとのだ。

 

 弱神なら殺せるほどの英雄とはいえ、ただの人間で、すでに死んだ身だ。

 神にひきょうな罠を仕掛けて殺す知恵も残っていない。


「何しやがる、死ねや!」


 最初の一刀をかわした亡霊が神々に襲い掛かる。

 血に酔った神々は全く逃げる事なく攻撃を受ける。

 受けながら襲って来た亡霊に反撃する。


 ヴァルタルが言っていたように、亡霊に神々を傷つける力はなかった。

 神々による一方的な虐殺になった。

 

 だが、転移魔術が使える狩猟妖精は1人も殺されなかった。

 上手く神々の攻撃を逃れて遠くから亡霊が殺されるのを見ていた。


「村長、蚕とキンモウコウは助けました、村長も逃げてください!」


 俺は村民全員を逃がすまでは絶対に逃げないと言った。

 それを聞いた妖精族は逃げ遅れた村民を転移魔術で逃がしてくれた。


 完全に密封された巨樹の中には入れないが、ドアや窓が開いていれば中に入れる。

 俺は弱神と狩猟妖精が酒樽の蒸留を飲むのを見ながら、シェイマシーナの転移魔術で地下街に跳んだ。

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