第31話:凍結酒
1年目冬
妖精狩猟団に加わっていた弱神たちは封印された。
安全のためとはいえ、少しかわいそうな気がした。
逆恨みされるのも嫌なので、弱神たちにも3食ごとに酒を捧げた。
地域神へは約束通り酒だけを捧げた。
だが、封印されている弱神たちには、食事も一緒に捧げた。
妖精狩猟団の不安がなくなったので、快適な冬ごもりができている。
家事妖精たちは、俺たちが使う細々として物を作ってくれている。
金猿獣人族も、地下街に避難させた家畜の世話をしてくれている。
キンモウコウたちは、狩りをする必要がないし護衛をする必要もない。
それでは暇だし体力も落ちてしまう。
だから長大な地下街を利用して乗犬訓練をしてくれている。
金猿獣人族は毎日練習しているので、乗犬がとても上手くなっている。
俺も毎日練習させてもらっているので、ずいぶんと乗犬が上手くなった。
マーダビーは、地下街が快適なので冬眠も冬ごもりもしなかった。
酒にしないで取っておいたサトウキビ液やビート液をハチミツにしている。
マーダビーが手を加えてくれると、元の砂糖液とは比較にならない極上の甘味に昇華され、人間世界で1杯金貨1000枚で売買される超高級品になる。
巨大蚕は、冬眠せずに地下街で絹糸を作ってくれている。
冬場に葉を取るのは、エンシェントトレントの負担になるかもしれない。
そう思って秋に最低限必要な量だけ葉を集めさせてもらった。
幸いな事に、巨大蚕は俺が成長させた牧草の葉や茎も大好きだった。
穀物やイモ類、野菜を作る時に出た葉や茎も収穫して集めてあった。
それも、ただ集めて置いておいたのではない。
乳酸発酵させて保存性を高めている。
家畜たちは好きな草を真っ先に食べ、嫌いな草はできるだけ食べない。
飢えるような状況になったら嫌いな草も食べるが、ここでは絶対に食べない。
家畜たちは、乳酸発酵させて漬物になったような葉や茎が大好きだ。
巨大蚕も、乳酸発酵させて漬物になったような葉や茎が大好きだ。
量を確保しておいたので争いになっていないが、少なかったら危なかった。
来年には家畜も巨大蚕も増える、葉や茎を大量に確保しておこう。
地下街の根に、葉や茎を乳酸発酵させる樽を造ってもらおう。
エンシェントドワーフたちはこれまで通り酒造りに熱中している。
酒造りに適した寒い冬場だからだろう、地下の蒸留所から出てドーナツハウスで醸造酒を造っている。
冬ごもりを見越して大量に備蓄していた果物と穀物。
妖精狩猟団を誘き寄せる品物1つとして用意していた果物と穀物。
それらを使って酒造りを繰り返していた。
時には自分たちで作った道具を雪の中に据えて酒を造っていた。
蒸留しないで飲むエール、ラガー、ワイン、清酒の試作を繰り返していた。
そこでふと前世の記憶がはっきりと思い出された。
若い頃、少しの間だけ企業に勤めた事がある。
そこの先輩が酒好きで、凍結酒を飲んで泥酔していた。
あの先輩の『酔っていない』は全く信用できなかった。
泥酔した状態で自動車を運転して、田んぼに落ちた。
横すべりで落ちてひっくり返り、タイヤを上にした状態で田んぼにはまった。
ゆっくりだったので、俺はケガをする事なく車の天井裏に正座していた。
別の自動車に乗っていた先輩は、俺たちが全員死んだと思ったそうだ。
血に酔った神々の愚かな行いを見たばかりでもある。
村の人たちに泥酔しないように言っておこう。
あの頃、凍結酒がはやっていたが、あれが悪かったのかもしれない。
凍結させると飲みやすくなって、飲み過ぎてしまうのだろうか?
それとも、アルコール度数が高くなるのか?
そういえば先輩、凍った日本酒をパリパリ食べていた。
だけど、ロシアのウオッカは極寒でも凍らないように高い度数になっている。
そうだった、アルコールは凍らないのだった!
「ヴァルタル、寒い外でも酒を発酵させられるか?」
「村長が言っていた、カマクラノ中は温度が一定だから、時間はかかるが、ラガーなら発酵させられた、外の吹きさらしでは発酵しなかった。
寒い冬の方が美味しい酒ができるのは以前から分かっていた。
腐ったり酢になったりする事も少なくなる。
だがそれも家や酒蔵の中で造った場合だ。
さすがに冬の野外での酒造りは無理だった」
「ラガーならカマクラの中で造れたんだな、清酒やワインはどうだ?」
「エールだけがダメだった。
他は全部だいじょうぶだが、少々時間がかかる。
村長のように一瞬で造るのは絶対無理だし、どの酒も夏よりも時間がかかる」
「清酒だと30日かかるのか?」
「そうだな、それくらいかかりそうだ」
「1つ試して欲しいのだが、完成した酒を凍らせてみて欲しい。
思い出したのだが、水は凍るが酒精は凍らない。
寒い場所で造った酒は、凍らせると水と酒精に分かれるかもしれない。
もしその通りになるなら、氷を取り除くだけで酒精の強い酒が造れる。
蒸留で燃料や時間を使う事なく、ウオッカや焼酎を造れるかもしれない」
「なんだと、そんな事が本当にできるのか?!」
「思いついただけだ、本当にできるかどうかは試してみなければ分からない。
だからこの冬の間に試してみて欲しいのだ」
「そうか、分かった、直ぐに試してみる!」
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