第9話:レプラコーンとクルーラホーン

「おい、だいじょうぶか、無理をするな、酔いがさめてからで好いぞ」


 子供たちのお世話が終わったサ・リは、モモとリンゴを取り始めた。

 4人の幼子もサ・リと同じようにモモとリンゴを取り出した。


 4人の幼子は良い、さっき働けるのを見た。

 だがサ・リは、ほんの少し前まで酔い潰れていた。

 

「だいじょうぶ、これくらい酔ったうちに入らない。

 どんどん取るから、全部お酒にして」


 金猿獣人族は酒に強いのか?

 言葉も動きも酔っているようには見えない。

 これなら働いてもらっても大丈夫だろう。


「だったら2度手間は嫌だから、酒樽に直接入れてくれ」


 俺はサ・リにそう言ってから巨木に頼んだ。


「酒を造る樽になってくれ。

 家の中で安心して飲めるように、家の壁を酒樽にしてくれ」


 俺は1つ目の巨木に手をついて願ってみた。

 何でもかんでも1つ目の巨木にお願いするのは悪い気がする。

 でも、1つ目の巨木が安心できる家なのだ。


 ドーナツ型の家が更に厚くなった。

 家の中に入って確かめると、願い通り内壁が酒樽になっている。

 根でできた縄ばしごを登って2階3階4階を確かめると、そこの壁も酒樽だった。


 上から下まで、きれいに並んだ酒樽は凄い見た目になっている。

 有名な神社に奉納された日本酒の樽が並ぶ状況が、壁一面に巨木を巡っている。


 聖女ジャンヌが俺の側に残っている。

 俺と同じように木登りが苦手なのだろうか?


「聖女ジャンヌ、あなたが眠っている間に小人がやってきた。

 酒を飲ませろと言うので、あなたが言っていた金貨20枚で売ってやった」


「え、たった20枚で売ってしまったのですか?!

 あれは最低の値段で、上手く貴族に売れば30枚にも40枚にもなります」


「それは悪かったね、でもだいじょうぶ、売ったのはシードルの方だ。

 それに、小人の事を知らなくて、危険な奴だったら困るので、言う通りに売ってやったのだよ」


「そうでしたか、申し訳ありません、私が酔い潰れてしまったからですね」


「いや、それは良いんだけれど、これからの為に小人の事を教えくれ」


 聖女ジャンヌの話では、酒を寄こせと言ったのはクルーラホーンと呼ばれている妖精だった。


 ただこの妖精、元はレプラコーンと呼ばれる妖精だとも言う。

 妖精はほとんど人の前に現れないので、名前や性格に多くの説があるそうだ。

 ただ、俺と話した妖精の服装はレプラコーンそのものだそうだ。


 そのレプラコーンが酒を欲しがり、100杯も飲んだのなら、レプラコーンがお酒に引き寄せられた姿をクルーラホーンと呼ぶのだろう。


 聖女ジャンヌは興奮しながらそう言っていた。

 ジャンヌは研究者のような性格をしているのかもしれない。


「2000枚の金貨ですか、街なら一生遊んで暮らせるお金です。

 それどころか、貴族のような一生を送れるでしょう。

 魔境の中では何の意味もありませんが……」


 聖女ジャンヌの声が小さくなる。

 街に戻りたいのだろうか?


 聖女の位までもらったジャンヌだ、金猿獣人族を見捨てたら、何の問題もなく人間の国に戻れるだろう。


 いや、そんな事をするような人間なら、最初から一緒には逃げない。

 何か別の理由でこんな言い方になっているはずだ。


「何か欲しい物があるのか?」


「聖属性の魔術が使えますから、服は洗わなくてもいいのですが、子供たちは直ぐに大きくなります。

 このままでは子供たちが着られる服がなくなってしまいます」


 服か、服は確かに大切だ。

 魔境を出て買いに行ければいいのだが、2人が街に入るのは危険なのだろう?

 俺なら魔境を出て街に行ってもだいじょうぶなのだろうか?


「俺が魔境から出て買ってくるのは危険か?」


「その服装は、私の国ではもの凄く奇妙です。

 普通とは違うので、門番や警備の者に捕らえられると思います」


 だとすると、自分で作るしかない。

 武力が無いから狩りで毛皮を手に入れるのは不可能だ。

 それに、毛皮から服を作る技術もない。


 神様からいただいたギフトなら、服に使える草を作れるだろう。

 思いつくのはメン、アサ、バショウ、クズなどの草。


「聖女ジャンヌ、服の原料になる草なら育てられると思う。

 原料を糸にして、服をつくれないか?」


「ごめんなさい、私、針仕事は全くできないのです」


 聖女ジャンヌが即答した。


「私も無理、針仕事は苦手」


 モモとリンゴを取っては運ぶサ・リも即答だった。


「私たちが服を作る、その代わり酒をくれ」


 誰もいなかったはずの、直ぐ横から声がした。

 思わず跳びはねてしまうくらい驚いた!


「ビックリさすな!」


「すまん、すまん、どうしても聞き逃せなかった。

 私たちは服を作るのが得意だ。

 メンからでもアサからでも服を作れる。

 羊毛があるなら毛糸の服を編んでやるぞ」


 昨日の小人が胸をはって言う。


「私が知っているレプラコーンは靴の職人のはずです。

 服を作れるなんて聞いた事がありません」


「それは私たちの事を知らなすぎだ。

 妖精にも得意な仕事がある。

 人間は妖精をレプラコーンやクルーラホーン、ブラウニーやビリー・ブラインドなどと分けて呼ぶが、全部同じ妖精なのだ」


 なるほど、妖精と言うのが種族全体の名前で、レプラコーンやクルーラホーンと言うのが職業を表す呼び方なのだな。


「ではあなたが私たちの服を作ってくれるのですね?」


「私たち妖精族が服を作ってやる。

 だから妖精族全員に酒を寄こせ」


「私をそんな言い方でだませると思っているのですか?

 私たちに必要なのは服を作る妖精だけです。

 クツを作る人や酒を飲んでゴロゴロするだけの妖精はいりません。

 さっさと帰らないと、戦神聖女の力を見せてあげますよ!」


「ヒィイイイイイ、ごめんなさい!」


 そう言うと妖精は消えていなくなった。

 戦神の聖女はいたずら好きの妖精さえ恐れさせる猛者なんだ。


 言葉使いに気をつけないといけない。

 モーニングスターで頭を割られるのは嫌だからな。

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