第7話:新しい家、母屋

 試食用のサツマイモを10個焼きながら話をした。

 聖女ジャンヌとサ・リからこの世界の事をいろいろ聞いた。


 たき火で石を焼き、その後で2時間蒸し焼きにするのだ。

 話して聞く時間はたくさんあった。


 魔境には、とてつもなく強いエンシェント種と凶暴な魔獣しかいないと言う。

 そんな魔境で出会って俺に、あんなにフレンドリーだったのはおかしい。

 サ・リがとてつもなく能天気だったとしても、聖女ジャンヌが止めるはずだ。


「そんな恐ろしい魔境で会った俺に、どうして平気いられたんだ?」


「私たちは神様から神託をいただいていたの。

 人間に襲撃されて散り散りに逃げている時に、魔境に逃げれば助かる。

 そう戦神様から神託をいただいていたの。

 イチロウは神様が使わしてくれた人かもしれないと思ったの」


 サ・リが真剣な表情で言った。

 神様に言いたい事が結構あると言っていた理由が分かった。


 逃げる場所を教えてくれたのはありがたい。

 だが、逃げる場所を教えるのではなく、敵を撃退してくれ。

 せめて襲われる前に教えてくれと思っているのだろう。


「私もそうです、イチロウは神の使いかもしれないと思っていました。

 ですが話していて違うと分かりました。

 私たちと同じで、神様に助けていただいたのですね」


 3人で色々話し合っているうちに、4人の幼子が寝てしまった。

 

「久しぶりにお腹一杯食べられたから……」


 サ・リがぽつりと言う。

 信託で逃げる先は教えてもらえても、食べる物が手に入る場所までは教えてもらえなかったのだろう。


「男の人がいるのも大きいでしょう。

 私たちは女で、まだ大人とは言い切れない微妙な歳ですから」


 聖女ジャンヌも少し悲しげに言う。

 酒の話をしている時は大人だと言い張っていたが、内心では分かっているのだな。

 自分たちが大人とも子供とも言い切れない思春期だと言うのを。


 俺から見たらまだ子供にしか見えない少女が、たった2人で4人もの幼子を守りながら敵から逃げ隠れする、どれほど辛く心細かっただろう。


 神託をもらえたかと思ったら、魔境に逃げろと言われる。

 まだ小さな胸は不安で一杯だっただろう。

 この世界の神様は不親切だな!


「今日くらいは2人も安心して寝たらいい」


 俺はそう言うと、最初の巨木に近づいた。

 この子たちに安心して眠れる家を与えてあげたい。


 住んでいると言うカマドのある家は、安心できる家とは思えない。

 急いで確保した、夜営場所でしかないのだろう。


 自分の寝床を造った時と同じように、この子たちの家を造ってやりたい。

 母屋と言えるような、心から安心できる場所を創ってやりたい!

 ただ、最初の巨木に大きな負担をかけているのも分かっている。


「大地よ、巨木が必要とする豊かな地となれ!」


 俺が地面に手をついて命じると、凄まじい気配がやってきた。

 空気から大地に何かが入っていくのが分かる。

 地の底から力が湧き上がってくるのが分かる。


「巨木よ、幼い子たちと少女たちが安心できる場所を造ってやってくれ。

 無理な負担がかからない範囲で、安らげる家となる場所を造ってやってくれ」


 俺の願いにこたえるように、地面から根がボコボコと生えてきた!

 先に造った4斗樽と根板塀が家を守り囲むように移動する。


 これまでは俺の腰当たりの高さだった4斗樽と根板塀が高くなる。

 5メートルくらいの高さになったかと思ったら、厚みもでてきた。

 4斗樽の厚みどころか、1メートルくらいの厚みになった!


「何をしているの?!」

「信じられません、何をしているのですか?!」


 サ・リと聖女ジャンヌが一斉に驚きの声を上げた。


「子供たちが起きてしまうから静かに。

 安心して眠っているのなら、このまま眠らせてあげよう。

 神様からいただいたギフトで家も造れるようだから」


 地面から生えた根の一部は、城壁のような根板塀になっただけではない。

 巨木と一体になるように育ち、屋根まで造っている。


 ドーナツのように巨木を巡る、四階建てくらいの家ができてしまった!

 どうやったらできるのか分からないが、ちゃんと樹の窓がある。

 木の根が集まって板状になった所を上げ下げする窓だ。


「お酒、飲ませてくれ、飲まないとやっていられない!」


「私もお酒が飲みたいです、飲まないと心が落ち着きません」


「ああ、いいよ、ただ、先の子供たちを家に入れてあげよう」


 俺がそう言うと、サ・リと聖女ジャンヌが直ぐに動いてくれた。

 

「中は安全だと思うが、先に確認してくる」


 中に入ると、上にあげられた根の戸から光が入っていて暗くない。

 巨木を巡る家なので、厚みはなく左右に広い。

 とんでもなく広いドーナツ型のワンルームだ。


 想像していた通り、ちゃんと4階建てになっていた。

 窓と同じように、根が集まって2階3階4階の床になっていた。


 根には柔らかなヒゲが密生していて、ジュウタンのように柔らかい。

 これなら子供たちが寝ても大丈夫だ。


 俺が確認した後で、サ・リと聖女ジャンヌが交互に家を確かめた。

 安心できたのか、驚きと不安を浮かべていた表情が穏やかになった。


 それでも、子供を1人で置いて行くのは心配だ。

 俺が子供を2人同時に抱いて移動できればいいが、無理だ、起こしてしまう。

 子供たちが起きていたら抱き着いてくれるが、熟睡しているから無理だ。


 俺1人が子供を抱いて家に行くのは、サ・リと聖女ジャンヌが心配する。

 俺の側にも子供の側にも、サ・リか聖女ジャンヌがいないと心配する。


 俺を信用していない訳ではない。

 俺から見ればまだまだ幼い、少女と言ってもおかしくない2人だ。


 4人の幼子を守る責任感が必要以上に警戒させる。

 もしかしたら、この世界には、人が見ていても平気で子供を連れ去る悪人がいるのかもしれない。


 俺と子供だけにならないように運んであげた。


「これで子供たちは安心だ、できたばかりの酒を飲んでみよう」

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