第6話:自己紹介

 どうやったら、焼け焦げて食べられなくなる部分をなくせるだろう?

 食べ物をムダにするのは嫌なのだ。


 高い物を食べるのは贅沢じゃない。

 安い物でも残してムダにするのが贅沢なのだ。

 焼き芋もできれば皮まで美味しく食べられるようにしたい。


「そんなに悩まなくても、皮ごと生で食べても美味しいって言っているだろ」


 金猿獣人族のサ・リはそう言うが……


「そうですね、この子たちなら生でも美味しく食べられますね。

 ただ、私は料理してもらえるとありがたいです」


 聖女ジャンヌは人間だから、生のサツマイモは苦手のようだ。

 俺も同じだから安心した。


 この世界の人間が生のサツマイモをボリボリ食べるとしたら。

 仲良くなる自信はない。


 そうだ、思い出した、アフリカやアジアの古典的な料理法があった!

 地面を掘り、石を入れて焚火をして、石に熱を込める。

 その上にバナナの葉に包んだ食材を入れて上から土をかける。


 2時間は待たなければいけなかったはずだ。

 今から始めたら、モモとリンゴで満腹になった子たちも食べられるか?

 それとも満腹になって寝てしまうかな?


「聖女ジャンヌ、サ・リ、料理法を思い出した。

 サツマイモを包める大きな葉。

 拳より大きくて楽に運べる石を10個くらい。

 それと焚火ができるだけの枯れ枝はあるかい?」


「大きな葉なら、少し離れた場所にあるわ」


「拳くらいの石ならカマドを造った時に集めました。

 この辺でも少し探せばあると思います。

 料理に使う枯れ枝はそこら中に落ちています」


 聖女ジャンヌたちの家にはカマドがあるのか。

 それを使わせてもらえると1番楽なのだが。


 幼い子供たちを養っている少女2人に、家の場所は聞けない。

 やましい気持ちはないが、そう思われるのは嫌だ。


「聖女ジャンヌは子供たちを見ていてくれ。

 俺は石と枯れ枝を探してくる」


 俺はそう言うとすばやくその場を離れた。

 聖女ジャンヌが言っていた通り、そこら中に石と枯れ枝があった。


 慎重な性格なので、どうしても必要以上に集めてしまう。

 カマドが造れるくらいの石があるなら、1度に集めてしまおう。

 石長姫様が若返らせてくれた身体は、とんでもなく力持ちだった!


 石と枯れ枝を両腕一杯に抱きかかえて何度も運んだ。

 10回は運んだと思う。

 途中で足らなくなって、もう1度集めるのは嫌なのだ。


 大きな葉は樹の上なので、俺には取れない。

 サ・リがモモとリンゴを取るのを後回しにして取ってきてくれた。

 何度も使えるくらいたくさん取ってきてくれた。


「ありがとう、助かった。

 お礼にはならないけれど、焼けたら1番に食べてもらうよ」


「楽しみにしているわ」


「無理に今日中に取らなくてもいいぞ。

 リンゴはともかく、モモは取っても腐るだろう?」


「モモをお酒にできるのでしょ?

 だったら私たちの分もお酒にしてよ」


「お酒を飲むには若すぎないか?」


「何を言っているの?

 水をそのまま飲んだら病気になってしまうでしょ?

 乳離れしたらエールを飲むに決まっているでしょう?」


 神様、そうなのですか?

 俺に与えている常識に偏りがあるのではありませんか?

 それとも、地方や種族によって違うから、常識ではないのですか?


「そうなのか、俺の生まれ育った国では違っていた。

 成人、20歳にならないと酒が飲めなかった。

 国によって違うから、俺の考えを押し付ける気はないが……」


「ふ~ん、そうなの、だったら私たちは大丈夫よ。

 物心ついた時からエールを飲んでいるから飲めるわ。

 自分の考えを押し付ける気もないのでしょう?」


 もの凄く圧を感じるのは、俺の思い違いだろうか?

 モモやリンゴの時はそれほどでもなかったのに。

 金猿獣人族は酒に執着してしまう種族なのか?


「失礼かもしれないが、確認しておく。

 酒を飲んで暴れたりしないだろうな?」


「少なくとも私はないわ、両親から酔って暴れると言われた事はないわ」


「私も酔って暴れたりしませんわ。

 教会ではエールよりも酒精の強いワインをブドウで造っていました。

 モモのお酒はワインと同じ方法で造ると言っていましたね?

 酒精が強くなるかもしれませんが、その時は水で薄めてあげます」


「さっき水はそのまま飲めないと言っていなかったか?

 酒と混ぜれば飲めるのか?」


「あんた、いや、え~と、何て呼べば良い?」


 サ・リが名前を聞いて来た。

 聖女ジャンヌに注意されたのを素直に聞いている。

 良い子だな、両親からたくさんの愛情を注がれて育ったのだろう。


「俺の名前はイチロウ・タナカだ、イチロウと呼んでくれ」


「イチロウは聖女を知っているのに、聖女の能力を知らないのか?」


「ああ、聖女という敬称は知っているが、能力は知らない」


「私たちの国と離れた国の人なのか?」


「それが良く分からないんだ。

 来訪神様にここに連れられてきたんだ」


「まあ、来訪神様ですって?!」


「聖女ジャンヌは来訪神様を知っているのかい?」


「はい、教会の古い記録にありました。

 遠く離れた国に年に1度現れる異世界の神様だと書いてありました。

 イチロウさんは異世界から来られたのですか?」


「多分そうだと思うが、気がついたらここにいたので断言できないんだ」


「そうなのですね、なら私たちの事や魔境の事を知らなくて当然です。

 先ず私の事を話しますね。

 聖女には穢れを清浄にするギフトが与えられています。

 だから穢れた水や食べ物をそのまま飲み食いできるようにできます。

 そうでなければ魔境で1日も生きていられません」


 来訪神様、何でそんな所に転生させるの?!

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