すごく緻密に作られた作品だー! と思いながら読んでいました。
いつまで経っても来ない彼氏を延々と待ち続けるお話です。それが比喩や象徴、シュルレアリスム的な技法をふんだんに使った複雑な文体で語られていくのですが、全体的に文章がきれいなので、あまり頭で理解できなくても、楽しんで読むことができます。
読み返して二周目くらいになると、ゆったりとした舞踊のような、ポテトマトさん特有のリズムに乗ってすらすらと小説を読み進めることができるようになります。それがまあ楽しいこと! ポテトマトさんの文体って、確かなリズムがあるんですけど、騒がしくはないんですよね。ゆったりと、揺蕩うようなリズムなんです。ページを開いた瞬間、各センテンスがかなり短いのと、頻繁な行分けが真っ先に目に付きますが、それがちゃんと意味があって効果を発揮している。作品の内容に呼応するような文体の音楽が作り上げられているのです。
『アラビアータの夢』は、こういう作品の中でも特に洗練されている印象がありました。ひーんめちゃくちゃ力作だよー頭の良いひとが存分に良い頭活用して書いたみたいな上手さがあるよーと、つまりは「私では到底マネできないなあ」と羨ましい思いをしながら読んだのです。
読書体験と味覚の描写が混然一体と混ざり合ってリンクしていく様とか、丁寧に読めばちゃんと情報が出てくるように計算された語りとか、作中に出てくるアイテムの扱いの上手さとか、言葉のカラーが巧みに塗り重ねられていく様とか、もうとにかく、上手い人がめちゃくちゃ丹念に上手いこと書いている、という地力の強さのある作品です。
エンタメとか分かりやすい物語とか、そういうジャンルではないんですけど、でも読んでてすっごい楽しかったんです。それは作者様がすごい緻密に「どうすれば読むひとにとって魅力的な作品になるか」を考えて書いてくれているからではないでしょうか。ほんとにすらすら読めるんです。ぱっと見では全体像が分からないなりに、ちゃんと謎解きや解釈をする楽しさを与えてくれているという安心感がありますし、ただいたずらに入り組んでいるのではなく作品世界を最大まで魅力的に切り取ったがゆえの複雑さというのがちゃんと伝わってくる面白さがありますし、うわー! 深夜テンションでレビューを書いているので支離滅裂になってしまうのですが、とにかく信じて波に乗ればその分素敵なものを見せてくれる小説でした。それだけは確実に言えます。
文体がめちゃくちゃ力が入っていて見物で……読書とアラビアータパスタの味と時計のコントラストや接続が巧みに書かれていて……終盤の盛り上がりとかもう圧巻でぇ……そもそも第一文からめちゃくちゃ良くってぇ……と、言っているときりがないのでここらでこのレビューを切り上げましょう。
とっても素敵な小説でした! 作者様に感謝を! このレビューを読んでいるあなたにオススメを!