第31話 嫌みな騎士イムドラント

 名残惜しいがそっちのほうがいいかも。

 しかしこの素敵な心地に慣れるなどありえないだろうと、特に根拠も無く俺はそう思っていた。


 ……朝になり、俺はアナテア、シュリアノとともに城へ入り、魔物対策室のある部屋へと向かって歩いていると、


「おやぁ?」


 前から歩いて来た鎧姿の集団。その先頭を歩くおかっぱ男が俺を見て卑しい表情で笑う。


「これはこれはローランエン公爵の御子息、テンラー様ではないですか」

「……イムドラント」


 イムドラント・ルクセル。

 イムドラント侯爵の息子で、確かテンラーの幼馴染だったか。


「ひさしぶりですねぇ。お元気でしたか?」

「ああ」


 俺もこっちへ転生して1年は経つ。

 テンラーの人間関係はいろいろ調べて、この男とは仲良くないことを知っていた。


「騎士になったんだな」


 イムドラントの格好を見てそう思う。


「ええ。ルクセル家は武門の家柄ですので。テンラー様は……くくっ、魔物対策室でしたか。あの、くっくっくっ」


 イムドラントの言葉に呼応すかのように騎士たちが笑い出す。


「なんだ?」

「これは失礼。いやまさか公爵家の跡取りともあろうお方が、あのような役目を与えられるとは、お気の毒に思いましてね」

「……」


 周囲から魔物対策室とはこのように思われているのだろう。

 言われていることに腹は立つが、わからなくもなかった。


「しかし魔王の魂を宿しているあなたが魔物対策とは皮肉ですな」

「イムドラント様、そのお言葉は問題では?」


 と、シュリアノが横から冷たく言う。


「決闘の結果により、魔王の魂が宿っていないというテンラー様の主張は国王様がお認めになりました。イムドラント様のお言葉は国王様の決定に反します」

「……そうでしたな」


 不愉快そうに眉根を寄せてイムドラントはシュリアノを睨む。


「決闘の結果は聞き及びました。いや、たいしたものです。神付きスキルを持つ弟君を殴り殺されたとか」

「非情と非難でもしたいか?」

「いいえまさか。私はただ、どのような卑怯な手を使って勝利をされたのか、後学のためお聞きしようと思っただけですよ」

「貴様……っ」

「シュリアノ」


 前へ出たシュリアノの肩を俺は掴む。


「くくっ、まあ、騎士の私にはあなたのような卑劣極まりない戦いはできませんけどね。盗賊退治の参考にはなりそうじゃないですか」


 そう言って他の騎士とともに俺を嘲笑う。


 俺を盗賊と同等とでも言いたいのだろう。

 持って回った嫌な言い方だ。


「悪いが参考になるような話はない」

「そうですか。まあいいでしょう。では我々はこれで失礼します。ああ、なにか仕事があったらそちらへ回してあげますよ。いつもみたいに」

「いつもみたいに?」


 疑問を口にするも、イムドラントは騎士たちとともに行ってしまう。


 いつもみたいにとはどういう意味か?

 気になるが、追って聞くほどもないのでそのまま見送った。


「あんなことを言われてなぜ言い返さなかったのだ? わたしはムカついたぞ」


 シュリアノがムッと俺を見上げる。


「あんなの気にしなければいいだけだよ。というか、君が怒ることでもないだろ? 言われたのは俺なんだし」

「うん? ……うん。そうだな。でも、なぜかすごくイラだってな」

「そうなのか? うん。ありがとう」


 ポンとシュリアノの頭を撫でる。


「な、なにをするっ?」

「俺のために怒ってくれてありがとう。やさしいな」

「や、やさしくなど……」


 顔を真っ赤にして俯くシュリアノ。


 普段のおかしな言動からは想像できない女の子らしい表情を見せられると、なんだか胸のあたりがドキリと……。


「ほれ、早く行くぞ」

「おっ……」


 撫でる手を掴まれ、俺はアナテアに引かれて行く。

 そのまま魔物対策室まで連れて行かれ、扉を開くと、


「あれ?」


 すでにレーティが来てイスに座っていた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 幼馴染なら女の子がよかった……。しかし残念ながら幼馴染は嫌みで性格の悪い男の騎士でした。元のテンラーとなら相性はよかったかもしれませんね。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は魔物対策室の初仕事です。

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