第29話 魔物対策室のじーさん

 今まさに、じーさんはシュリアノの頭上に持ち上げられて投げ飛ばされそうになっている。

 慌てた俺はシュリアノを止めようと近づき、


「おわっ!?」


 ゴミにつまづく。そして、


 ポヨン。


「ほあっ!?」


 倒れないよう咄嗟に掴まったそれはとても柔らかいものだった。


「こ、この感触っ! この柔らかさっ! この大きさは……A、B、C、D、E、F、G、Hカップだっ! でかいおっぱいっ!」

「なにをするこの破廉恥男めっ!」

「ごぼぉっ!?」


 俺の頭上へじーさんを叩き落とされる。

 頭の中にスキル『G』の発動許可を聞きつつ、俺は地面へ突っ伏した。


「まったくいやらしい男めっ! 片付けをしながらわたしの胸を揉む隙を窺うとは、不届きな奴だっ! しかし残念だったなっ! わたしはJカップだっ! Hではないっ! 貴様の負けだーっ! ふははははっ!」

「じぇ、Jだとぉ……。超でかいおっぱいだった……」


 でも超でかいおっぱいに触れて嬉しい。

 この感触は一生の宝にしよう。


「なにを遊んどるんじゃ?」

「あ、遊んでないです。ちょっとした事故です……」


 俺はじーさんをどかしてその場に座る。


「なんじゃこれ? 腐った死体の標本かの?」

「わたしもそう思って捨てようとしたのだ。その隙をつかれて胸をグニグニといやらしい指の動きで揉まれてしまった。責任を取れ」

「む、胸に触っちゃったのは事実だし、それは悪いと思うから謝るけど、揉んではいないよ触っただけ。責任は……い、いやそれよりもこの人は死体じゃないよ。ちゃんと生きてる」


 じーさんはちゃんと呼吸をしているし、腐ってもいない。


「あら? そのおじいさんここの職員よ」

「えっ?」


 口元にスカーフを巻いて片付けをするレーティが、壊れたイスを外へ放り投げながら何気なく言った。


「この人ここの職員さんだったの?」


 よく見たらじーさんは寝ており、軽くいびきをかいていた。


 こんなに騒がしい中でよく眠れるものだ。


「そう。ここで唯一の職員よ」

「そうなんだ。この人がここで唯一の……えっ? ほ、他の職員は?」

「いないわ。そのおじいさんだけ」

「だって魔物対策室でしょ? 国を魔物から守る重要な機関なのに、このおじいさんだけで大丈夫だったの?」


 どうみてもよぼよぼのじーさんだし、ひとりで魔物対策なんてできるようには見えないのだが……。


「この辺は強い魔物がいないから、魔物対策ってあんまり必要無いのよね。だから魔物対策室は仕事自体がほとんどないの」

「あー」


 確かにこの辺は強い魔物がいない。そりゃそうだ。この国は主人公の故郷で、ゲームが始まる場所なので強い魔物などいるはずはなかった。


「だいたい他の国は魔物対策局か魔物対策省よ。室なんて小規模にやってるのはうちの国くらいなんだから」

「そうなんだ」


 ゲームでは各国の魔物対策なんて知ることはなかったが、遠くの国ほど魔物を恐れているのは納得できることだった。


「しかし国王様の言ってたベテランってこの人のことか」


 なんだか騙されたような気もする。

 だが同時に、それほど重責でも無いようでホッともしていた。


「すいません。ちょっと起きてください」


 強く揺さぶって声をかける。


「起きないな」


 こんだけ周りで騒いでいて起きないのだから、もう自然に目を覚ますのを待つしかないかもしれない。


「そんなんじゃ起きないわよ。ここのおじいさんは眠ったら起きなくて有名なの。ちょっとどきなさい」


 と、レーティがじーさんの胸倉を掴む。


「とっとと起きろこのじじいっ!」


 ゴンっ!


 そして額にヘッドバット。

 衝撃でじーさんの頭はうしろへ倒れ、いびきは止まった。


「ちょちょちょっ! なにやってんのっ! 起こすどころか永眠しちゃうよっ!」

「平気よ。何度かやってるけど、お父様は生きてるわ」

「国王様になにやってるんだ君は……」


 乱暴なお姫様である。


「息しとらんぞこのじじい」

「えっ?」


 言われて呼吸を確かめる。

 ……本当に息をしていない。


 3人の視線を一点に浴びたレーティは目を逸らし……


「初めから死んでたのよ」

「いや、頭突きを食らう前はいびきかいてたし……」

「だ、大丈夫よまだっ!」


 倒れているじーさんの身体をレーティはドンドンと叩く。


「こうやって叩けば治るわよっ!」

「いや、昔のテレビじゃ無いんだから……」


 しかし大変なことになったなぁ。

 とりあえず医者を呼んで……。


「ばあああああっ!!!」

「うわああああっ!!?」


 死んでいたじーさんが突然、起き上がり俺は悲鳴を上げた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 じーさんは死んでなくてとりあえずよかったです。レーティはお姫様なのに乱暴ですね……。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回はゴミだらけな魔物対策室の業務が明らかに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る