第28話 魔物対策室
修練場を出た俺は3人とともに玉座の間へ向かう。
その道中、城にいる人間らとすれ違ったが、皆なにやら奇妙なものでも見るような視線で俺を眺めていた。
「なんかすごい見られてる……」
「もう知れ渡ってるんでしょ。あんたが神付きスキルを持った人間を決闘で倒したって話が。みんなあんたが負けるって思ってたんだもの。そりゃ不気味なものでも見るような目になるわよ」
「そ、そうか」
神付きスキル持ちは世界でも5人しかいない。
それを倒したとなれば、すごいと思われるより不気味と思われるようだ。
「加えて魔王の魂が宿っているって疑惑も晴れたわけじゃないしね。あくまでお父様があんたの主張を肯定したから、表立っては糾弾できなくなったってだけ。腹の内じゃみんなまだあんたを疑っているわ」
「まあそうだろうな……」
それはもうしかたない。
しかしとりあえず捕まったりすることはないだろう。
そこは安心だが、街へ出るたびに疑惑の視線を向けられるのは辛そうだった。
「というか、むしろ決闘に勝ったことで魔王の魂が宿っているって疑惑が深まったかもしれないわね」
「えっ? それってどういうこと?」
「神付きスキル持ちに勝ったのよ。魔王の魂を持ってるから勝てたなんて考える連中も出てくるんじゃないかしら」
「そ、それは……そうかも」
俺を見る周囲の人間へ目を向ける。
この目はそういう目なんだろうか?
みんながレーティの言うようなことを思っているとしたら、今後もいろいろ大変そう……。
「尻から魔法を放ったらしいぞ」
「魔法って尻から出るんだ」
「やべえな」
……いや、そうでもないかもしれなかった。
やがて玉座の間へやってきた俺は、国王の前で跪く。
「申し訳ありませんでした」
そしてまずは頭を下げて謝罪する。
「決闘後にお見苦しいところをお見せしてしまい、大変に申し訳なく思っております。罰は甘んじてお受けしましょう」
罰など受けたくはないが、これはもうしかたない。
記憶には無いが、国王の前で喚き散らすなどあまりに不敬な行為だ。
指摘されることを予見した俺は、少しでも罪を軽くするため自ら謝罪をして罰の受け入れを言葉にした。
「いや、そのことはよい。そこの者から聞いたことによると、そなたはスキルの使用後に錯乱状態となるらしいではないか。ならばしかたのないことだ」
「は、寛大なお心でお許しいただきありがとうございます」
アナテアがこちらを横目て見てウインクする。
スキル使用後の状態を国王へ話しておいてくれたようだ。
錯乱状態というのが正しいのかはわからないが。
「さて、ここへお前を呼んだのは決闘後のことを話しておこうと思ってな」
「はい」
「お前は決闘に勝利した。魔王の魂が宿っていないというお前の主張は正しいと認められ、私もそれを肯定した。以後、お前に対して魔王の魂が宿っているなどという話をした者は厳罰に処す。そのように触れも出しておこう」
「ありがとうございます」
国王の言葉で俺の主張が認められた。
これで少なくとも、表立って俺が糾弾されることはない。
「そしてもうひとつ、お前に頼みたいことがある」
「はい? 頼みたいことですか?」
「うん。これは魔王の魂が宿っているなどという虚言によって傷つけられたお前の名誉を回復するためでもあることだ」
「私の名誉を……」
なにをさせる気だろうか?
「神付きスキル持ちを倒した強さを見込んで、お前を魔物対策大臣に任命したいと思うのだ」
「魔物対策大臣ですか? それはどのようなことをする役職でしょうか?」
「読んで字の如く。我が国に害を為す魔物に対応してもらいたい。例えば我が国へ魔物が攻めてこようとする動きがあった場合、それを事前に阻止するか、攻めて来るという情報を素早く手に入れて報告するとかな」
「は、はあ。しかし私はまだ10代の若輩者です。そのような大役をいただいて満足にこなせるかどうか自信がありません」
中身はおっさんだが、いずれにしろ自信はない。
要は魔物限定で国防を任されるということじゃないか。元サラリーマンのおっさんができることじゃない。
「安心しろ。すでにある魔物対策室のリーダーを任せるだけだ。熟練のメンバーがいるから、彼らのアドバイスを聞きつつやればいい」
「そ、そういうことでしたら」
「うん。頼んだぞ。おお、そうだ。レーティにも手伝わせるといい」
「ええっ!? ちょ、お父様っ!?」
驚きにレーティが声を上げる。
「将来の夫を助けてやるとよい」
「しょ、将来の夫って……」
国王の隣に立つレーティは、困ったような表情でチラと俺を見て、すぐに俯いた。
「既存のメンバーもおるが、必要なら新しく追加するとよい。責任者はお前だ。考える通り自由にやって構わん」
「かしこまりました」
俺は深く頭を下げる。
不安はあるが、とりあえずやってみよう。魔物対策ならば、アナテアを守ることにも繋がるし。
……とは考えつつも、想定害に重大な役目を与えられて辟易とする俺だった。
玉座の間を出てさっそく魔物対策室へ向かう。
「なんでわたくしがこんな面倒なことを手伝わなきゃならないのよっ! あんたのせいよっ!」
「えっ? お、俺のせいなの?」
俺を手伝うようレーティに言ったのは国王なので、俺のせいにされるのは理不尽である。
「そうよっ! あんたがわたくしの許婚なのが悪いんだわっ!」
「そんなこと言われても、どっちも俺が決めたわけじゃないし」
「うるさいっ! あんたが悪いっ!」
「なんじゃ怖いのか? 冒険に出たいというわりに臆病じゃの」
「姫様、ビビってるんですか? 小便をチビってるんですか? ダッサいっすね」
「なんなのこいつらっ! 不敬過ぎないっ! わたくしお姫様なんだけどっ! まあわたくしは器がでけーから気にしないけどっ!」
いや、ムチャクチャにキレてんじゃん……。
言葉遣いも乱暴になってるし。
「と言うか、怖いんじゃないわよっ! 面倒なのっ! そう言ってるでしょっ!」
そういえばこの姫様、ものすごく怠惰という設定だった気がする。
「あーもうっ! お父様の命令だからやるけど、休日はちゃんともらうわよ。残業は月に60時間までしかしないからそのつもりでいなさいよね」
「う、うん……」
怠惰だけど、仕事を与えられるときっちりこなさずにはいられない少々、難儀な性格のお姫様であった。
やがて魔物対策室のある部屋へとやって来る。
「ここ?」
指差す先にはちゃんと開くのかどうか怪しいボロボロの扉があった。
「そうよ。ここに書いてあるでしょ」
と、レーティが扉を擦ると、埃が取れて文字が見える。
そこには確かに魔物対策室とあった。
「あ、ここって魔物対策室だったんですね。姫様がひとりでいやらしいことをしている部屋だと思ってました。ここでなければ姫様はどこでいやらしいことをしてるんですか? トイレですか? トイレですね。わかりました」
「勝手なこと言って勝手に答え出してんじゃないわよっ! と言うか、いやらしいことなんかしてないしっ! 喧嘩売ってんのかコノヤローっ!」
「ま、まあまあ。とりあえず入ろうか」
仲悪いなこの2人と思いながら、俺は扉を開けて中へ入る。
「うわぁ……」
予想はしていたが、中もボロボロで埃だらけだ。やたら物が置いてあって、部屋はひどく狭くなっている。
「これはひどいのう。汚くて仕事どころではない」
「はあ……。面倒だけどまずは片付けね。とりあえずいらないものを外へ出して掃除するスペースを作りましょうか」
「そうだね」
レーティの提案でまずは物を外へ出すことから始める。
そういえば魔物対策室にはベテランの人がいると聞いたけど、まだ来ていないのだろうか?
そもそも本当にこんなところで仕事をしているのか疑問だが。
まあなんにしてもそのうち来るだろうと思いつつ、俺は片付けを始める。
「なんだこれ? これってゴミじゃないのか?」
ボロボロの盾とか錆びた剣とか……他にもあるのは古くて汚い、どう考えてもゴミとしか言いようのないものばかりが置いてあった。
「これじゃまるでいらないものを放り込んでるでかいゴミ箱だな」
ここの職員はずいぶんとだらしないようだ。
「これもいらない。これも……これも……これパンツか?」
本当にゴミばかりだ。全部捨ててもいい気がしてきた。
「いらないものばっかりねぇ」
「本当だよ。みんな捨てちゃおう」
「捨てるなら窓から外に出したほうがいいぞ。ゴミ捨て場が近いからな」
「わかった」
シュリアノに言われてどんどん窓の外へ放り出す。
「これもいらないな。腐っている」
「腐ってる? 食べ物でも……って、おおいっ!?」
振り返ると、窓の外を目掛けてよぼよぼのじーさんを投げ飛ばそうとしているシュリアノの姿が見えた。
――――――――――――
魔物対策大臣に任命させられたものの、部屋の中はゴミだらけ。まずは片付けを始めますが、先行きは不安ですね。
フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。
感想もお待ちしております。
次回はじーさんをレーティが乱暴に起こす……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます