第25話 フリードの攻撃を避け続けるが……

 あれは速徒の靴。

 装備した者の素早さを30上げる装備品だ。


「そんなものまで……」

「カッカッカッ、てめえは俺との戦いに備えて剣の修練とかやってたみただけどよぉ。そんなのは無駄なんだよ。てめえにはいつも言ってただろ。必要なのは努力じゃねーんだ。結果なんだよ。営業でいくら歩き回っても意味ねーの。契約取るためなら担当者を脅してでも取ってこいってな。努力なんかより結果を得るための行動をしろよなバーカ。カッカッカーッ!」

「こ、この……っ」


 俺が努力という準備をしていたのに対し、こいつは装備を整えたり、カナンを味方にするという準備をしてきた。


 スキルに頼って油断した状態でこいつが決闘に来るなどと考えていた俺の完全な誤算だ。油断していたのは完全に俺だったと、認めざるを得ない。


「さぁて、こっからが本番だ。行くぜ。……武神だ」

「っ!?」


 消えた。フリードが目の前から……。


「はっ!?」


 俺は勘で右へと大きく跳ぶ。

 と、その瞬間、さっきまでいた場所へ左から斬り降ろしが降る。


「お、よく避けやがったな。けど見えてるはずはねぇ。勘で避けたか」


 余裕の笑みを見せるフリードへ俺は剣を構え直す。


 見えなかった。しかし勘ではない


「はっ、勘は2度も当たらないぜっ!」


 ふたたびフリードが視界から姿を消す。――瞬間、俺は上を見上げた。


「なにっ!? 見えてやがるっ!?

「見えてはいない」


 振り下ろされる一撃を剣で受けずにかわす。

 と、剣に打たれた地面が大きく割れた。


「たいした攻撃力だ」


 武神で攻撃力も上がっている。

 こんなのを剣で受けていたら、この剣は無事でも俺の腕が持たない。


「……勘じゃねーな。てめえどうやって避けてやがる? 装備か?」

「違う。気配だ」

「け、気配だと?」

「ああ」


 気配を鋭く読む力。これはレーティとの修練で得たものだ。最初は目で追っていた彼女の動きだが、気付けば気配を追うようになっていた。あの修練が無ければ、今ごろ死んでいただろう。


「……そうかよ。けどギリギリだ。疲労が溜まって動きが鈍くなっても、避けることができるか?」

「武神の効果が切れるまでは避け続けてやるさ」

「カッカッ……ならやってみろっ!」


 フリードが姿を消す。

 そして俺は気配を読んでギリギリでかわす。


 ……それが何度か続き、疲労で俺は息を荒げていた。


「カッカッカッ、どうした兄さん? お疲れのようじゃねーか?」

「はあ……はあ……」


 しかしフリードのほうに疲労した様子は無い。

 微塵も息を荒げず、余裕の表情で俺を嘲笑っていた。


「ど、どういうことだ? なぜお前は疲れない?」

「カッカッカッ。俺は疲れんのが嫌いなんだわ」


 と、フリードは俺へ向かって人差し指を立てて見せる。

 そこにはなにか指輪が嵌っており……。


「それは……赤鷲の指輪」


 赤鷲の指輪は行動力を2倍にする装備品だ。

 つまり他のキャラが1回動くあいだに、指輪の装備者は2回行動ができるようになるというものなのだが……。


「これをつけていれば、てめえが1回行動するのに対して俺は2回行動できる。どういうことかわかるか? 無能のてめえにもわかりやすく言ってやるとよぉ。俺は半分の行動で攻撃して、てめえは1回の行動で避けてんだ。つまり俺の疲労は半分。ばてるのはてめえが先ってことだ」

「そ、そういうことか……」


 ゲームでの行動力増加とは、現実になるとそのような効果が出るのか。


「このまま攻撃と回避を続けりゃあ、不利になっていくのはてめえだ。けど俺に武神の効果が無くなればチャンスだとてめえは考えてる。けどそれは甘いぜ」


 フリードは剣を持つほうの人差し指もこちらへ見せる。


「そ、その指輪は……っ」

「献上の指輪。これは一定時間毎に仲間の体力を減らす代わりに、スキルの効果時間を伸ばす指輪だ。仲間が多いほど、俺のスキルは長持ちするぜ」

「な、仲間……はっ!?」


 フリードの見物人として来た大勢の女たち。

 あれは俺の集中を乱すためではない。あの指輪の効果を高めるためだったのか。


「カッカッカッ、この戦いは始まる前から勝敗は決まってんだよ。それなのに勝つつもりでいたてめえは滑稽だったぜ」

「くっ……」


 武神の時間切れはもう狙えない。

 武神を使った状態の奴を倒すしかなくなった。


「その目はまだ諦めてねーな。カッカッ、だったらてめえの勝利がいかに絶望的か、もっと詳しく教えてやるよ」


 と、フリードは両手を左右へ開く。


「ハンデをやるぜ。1度だけてめえの攻撃を受けてやる」

「な、なんだと?」


 なにを考えているのか?


 俺は警戒して動向を注視する。


「なんだビビってんのか? だったら剣も地面へ置いてやるよ。ほら」


 本当にフリードは剣を地面へ置き、そして無防備を俺へ晒す。


「ほら来いよ」


 そう言ってフリードは無手のまま俺へ近づく。


「できねえのか? 簡単だろ? その剣でよぉ」

「ぐっ!? う……っ」


 フリードは俺の持つ剣の白刃は素手で掴み、その刃を自分の首へと押し当てた。


「な……っ!?」


 しかしそこから血は流れない。

 わずかな傷跡も無かった。


 武神のスキルで防御力が上がっているとはいえ、メタルカイザーソードの刃を肌へ押し込んで無傷などありえないはず……。


「このネックレスがなにかわかるか?」

「っ!? それは……がっ!?」


 装備品の名を言おうとした俺の腹へ拳の一撃が沈み込み、衝撃で身体が後方へと飛ばされる。


「鉄巨人のネックレス。これは防御力を100増やすゲーム終盤で手に入る装備品だぜ」

「そ、そんなものまで……」


 こちらの通常攻撃は一切通じない。

 これは本当に絶望的かもと、俺は殴られた腹を押さえて前屈みとなる。


「腹に穴を空けてやるつもりだったんだがなぁ。咄嗟にうしろへ跳んでダメージを軽減しやがったか。しぶといやろーだ」

「ぐうう……っ」


 とはいえ、このダメージは大きい。

 どのくらい大きいかと言うと、腹が殴られたことでおならが出そうなのだ。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 装備品を整えて万全に備えてきたフリードとテンラーはなんとか戦えていますが、かなり追い詰められてしまっている様子です。勝つチャンスは訪れるのか……。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は逆転の一撃をかます……。

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