第24話 先手の一撃を与えるが……

 ……国王アレルコンドロ・モラリオン。

 この国でもっとも偉い人が俺の背後に立っていた。


「こ、国王様っ!」


 俺を含めてその場にいる全員が膝を地面へつく。


「こ、国王様。この度は私ども兄弟の決闘へ立ち合っていただき、誠にありがとうございます」

「いや、お前はレーティの婚約者だ。わしが立ち会うのは当然だろう」

「はっ、しかしこのようなことになって申し訳ありません」

「うん。いろいろ聞きたいことはあるが、それは決闘のあとにしよう。生き残れたらの話だが……」


 表情から察するに、国王も俺が勝つとは思っていないようだ。

 まあしかたのないことだが。


「兄さん、国王様もいらしたことだ。そろそろ始めようか」

「ああ」


 跪いた状態から立ち上がり、俺とフリードは修練場の中心へ向かう。


「まさか勝てると思ってる、ってことはねーよなぁ?」


 俺の前に立ったフリードがニヤけた表情で言う。


「少なくとも死ぬつもりは無い」

「だったら得意の土下座をするか? あれをやればこの場は生きて帰れるかもしれねーぜ? カッカッカッ」

「俺は二度とお前に頭を下げない」


 そう言い放って俺は剣を構える。


「ならここでお別れだ。後悔すんなよ無能」


 フリードも剣を構える。


 しかし構えは隙だらけだ。

 こちらへ転生してから、奴が剣術など学んでこなかったことが窺えた。


「カカッ、レディーファーストだ。お先にどうぞお嬢さん」

「……っ」


 審判などがいるわけじゃない。

 開始の合図などは無く、すでに戦いは始まっていた。


「フリード様、そんな奴とっととぶっ殺しちゃってーっ!」

「終わったらまた遊びましょうっ! だから早くそいつ殺しちゃってっ!」


 ……フリードの応援がうるさい。

 大勢の見物人を連れて来たのは、俺の集中を乱すためか?


「どうした? かかって来ないのか? 俺が怖いか無能。それならほら。こうやって両手を上げてやるぜ。カカカッ」


 フリードは馬鹿にしたように笑って両手を上げる。


 煽りに乗るのは馬鹿だ。

 ただ、こうしていても埒が明かない。


 まずは様子見だ。


 俺は剣を振り上げ、フリードへ斬りかかる。……が、


「……っ」


 剣を振り下ろした先にフリードの姿は無い。

 そして背後を振り返った俺は、突き伸びてくる剣をギリギリで横へかわす。


「は? 避けやがった?」

「残念だったな」


 レーティとくらべれば全然遅い。


 突きをはずしてバランスを崩したフリードの胸へ、逆に突きを返す。


「がはっ!?」

「キャーっ! フリード様っ!」


 女のひとりが悲鳴を叫ぶ。


 左胸を狙ったつもりだが、フリードはわずかに動いて剣先は肩へ刺さる。


「ちっ」


 追撃をしようとするも、フリードは高速移動で俺から離れた。


「や、やるじゃねーの。はっ、上司をぶっ刺すなんてクビだなてめえは」

「いつまでも上司のつもりでいるな」


 俺は剣を構え直して、フリードの動きを警戒する。


 刺したところは致命傷でもなんでもない。

 奴はまだ……。


「なにっ!?」


 肩の傷が淡く緑色に光り、治癒されていく。


 回復魔法? いや、魔法を使っている様子は無いが。


「カッカッ、聖女の加護ってのは便利だなぁ。これくらいならすぐ治る」

「……聖女の加護? そうか。カナンのスキルだな」


 カナンのスキルは『聖神』。

 一定時間、味方全体に体力回復効果を継続的に与えるスキルだ。

 1回の戦闘で1度しか使えないスキルだが、レベルとともに回復量が増えていくので、終盤まで使える強力なスキルである。


「ああ。事前に他人からスキルの効果を受けちゃいけねーなんてルールはねーよな? カカッ、ずっとじゃねーけど、これくらいの傷ならすぐに治るぜ。勝ちたきゃ俺を即死させんだな」

「くっ……」


 俺を侮って油断をしてくると思いきや、しっかりと準備もしてきやがった。


 こいつを侮っていたのは俺か。


 国王や見物人を周囲に置けば卑怯なことはできないと俺は考えた。だがそれは間違いだ。卑怯なことができなければ、ルール内でやれる限りの優位を得て戦う。こいつをただの下衆野郎と考えていた俺が甘かった。


「カッカッカッ、さっきので終わりだと思ってたんだけどなぁ。しかたねぇ。本気出してとっとと終わらすかぁ」

「本気だと?」

「おいおいまさか俺がもう武神スキルを使っていたと思ったのか?」

「な、なに?」


 奴の動きは明らかに速かった。

 すでに武神のスキルは使っているものと思っていたが。


「お前はやっぱり無能だな。俺の足をよーく見てみな」

「足……? はっ!?」


 フリードの穿いている靴。

 あの形には見覚えがあった。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 先手の一撃で有利になるかと思いきや、まさかの回復をされてしまいました。テンラーが鍛えていたように、相手も決闘には備えていたようですね。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回はフリードの猛攻にテンラーが耐えます。

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