第23話 修練場には多数の見物人

「寝起きに相手をしてやろうと思ったのによぉ。無断で先に行くなんて躾が足りなかったか? あん?」

「も、申し訳ありません……あ、あう……」


 なるほど。そういうことか。


 すでにメインヒロインはフリードの手に落ちていたようである。


「終わったらまた躾けてやるからな。楽しみに待ってろよ」

「は、はい……あん」


 カナンは喜びに満ちた表情で頷く。


 これがのちに大聖女と呼ばれる女の姿か。

 なんとも無残なものである。


「うん? へーてめえもまあまあ良い剣を持ってんじゃねーか」


 と、フリードは自らの腰に差している剣の柄に触れる。


「っ!? その剣は……っ」


 フリードが腰に差している剣を目にして俺は驚く。


 あの仰々しい柄は……間違いない。


「カッカッカッ、ああ。良い剣だろう?」

「その剣をどこで……」


 あれはレクイエムソードだ。

 ラスボスの第二形態から『盗』のスキルで稀に盗める超レア武器。攻撃力は剣でゲーム内最大。それだけではなく、傷つけた相手を50%の確率で絶命させるという効果がついた最強の剣だ。


「俺は女神様に愛されてるからなぁ。こういう贈り物も楽にいただけるんだぜ」


 ……女神から手に入れたか。

 しかしまさかレクイエムソードを持って来るとは……。これは想定外であった。


「じゃあ先に行ってるぜ。遺言は用意しとけよ、兄さん。カッカッカッ」

「あん、私を置いて行かないでくださいフリード様っ!」

「いたっ!」


 わざとかどうか知らないが、カナンは俺の足を思い切り踏んでからフリードを追って修練場へ入って行った。


「ひどい女じゃ」

「ああ」


 俺はカナンが入って行った修練場の入り口を見つめる。


「メインヒロインなのにおっぱいが小さいなんて、ほんとひどい」

「そこではない」


 アナテアは呆れたように肩をすくめる。


「いや、重要だよ。メインヒロインはゲームの顔なんだしさ。おっぱいは大きいほうがいいに決まってる」


 このゲーム、シュリアノやレーティなどのサブヒロインは巨乳なのに、肝心のメインヒロインは貧乳なのだ。


 意味がわからない。ヒロインはみんな巨乳にしろ。

 そっちのほうがエッチで、ゲームにもやる気が出る。俺がゲーム大臣なら、ゲームのヒロインを貧乳にするのは禁止にしてやるのに。


「なんだおっぱいおっぱいと連呼して、相変わらず破廉恥な男め。はっ!? ま、まさか胸のでかいわたしを自分の人生のメインヒロインにしたいと言っているのかっ? そうしてわたしの乳を毎日のように吸い上げる気だなっ! だが思い通りになると思うなっ! 例えそうなっても、日曜日だけは吸わせてやらないからなっ! 休日を設けてやるっ! ふははっ! 残念だったなっ!」

「な、なんだと? くそう。結婚したら、毎日、嫁の巨乳を吸って生活するのが俺の夢だったのに……」


 がっくしうな垂れる。


「アホなこと言っとらんで、決闘に集中しろ。レクイエムソードとスキル『武神』を持った奴に対して勝算はあるのかの?」

「しょ、勝算は……そうだな。武神のクールタイムに入ったときがチャンスか」


 武神の効果は一定時間。正確には5分くらいだ。そして使用後は3分のクールタイムがある。そのときが奴を倒す絶好の機会になるだろう。


「しかし5分を耐えきれるか?」

「そこはまあ、がんばるしか」

「耐えきれれば修練した剣術だけでも勝てるじゃろう。そうなればよいが……。だが、卑劣な手を使えない場に1対1で戦える状況を作ったのはよいが、どうやってスキルを使う気じゃ? スキル『G』の使用は考えておらんのか?」

「いや、クールタイムで倒せればいいけど、やっぱり万一のために考えてあるよ」


 どんなに劣勢でも、あれを使って当てれば一発で形勢は逆転できる。

 だから使用できるようになる方法は考えていた。


「アナテアに習った魔法を使ってなんとかね」

「わしの教えた魔法で?」


 レーティとの修練に加えて、俺はアナテアから魔法も習っていた。いくつかの属性を習って使えるようにはなったが、どれも初級なので威力は低い。


「確かにスキル『武神』には魔法防御力上昇は無い。しかしあんな初級魔法じゃ、雑魚敵を倒すのでやっとじゃぞ?」

「だろうな。けど、ちょっと考えがあるんだ」

「考えのう……?」


 心配そうなアナテアを見下ろして、俺は笑顔で親指を立てる。


 しかし笑えるだけの余裕があるわけではない。少しでもアナテアの不安を取り除ければと、無理をした笑顔であった。


 修練場に入ると、そこには大勢の女性がいた。

 興味本位で見物に来たのだろう。王族や貴族らしい身なりの良い女性たちであった。


「なんじゃわらわらおるのう。見物は自由なのかの?」

「さあ?」


 まあ見物人は多いほうが、正々堂々と戦えるからいいが。


「いいえ自由じゃないわ」

「えっ? あ、姫様」


 そこへレーティがやって来る。


 彼女も決闘を見物に来たのだろう。


「決闘の見物は決闘者が許した者だけ。それがルールよ」

「ではあの女性たちは?」

「フリードの許可した付き添い」

「えっ? あ、あれ全部がフリードの付き添い?」


 30人はいるんじゃないか?


「らしいわよ。女にモテるのね」


 よく見れば女性らの中心にはフリードがいた。


 女に自分の雄姿でも見せつけるために呼んだか?


 ……いや、なにか企んでいるような気がした。


「けど残念ね」

「えっ? なにがですか?」

「あんたとのこと、ちょっとは見直して認めてたんだけど、今日でお別れね。一応の婚約者としてお葬式には出てあげるわ」

「ちょっとまだ死んでないですよ……」

「あら? 勝つ気でいるの? あんたが強いことはここで剣を交えたわたくしが一番に知っているけど、さすがに神付きスキルに勝つのは無理よ。諦めることね」


 まあレーティがこう考えるのはしかたない。

 それほどにこの決闘は俺に不利と思われているのだ。


「万が一にでも勝つことができたら……そうね。ため口でわたくしと話すことを許してあげるわ。ありえないだろうけど」


 万が一なのに、もらえるものがショボい。

 まあでも、王女のレーティにとっては自分とため口で話す権利は大層なものなのかもしれなかった。


「うん? なんだレーティ、先に来ていたのか」

「あらお父様」

「お父様……ってっ?」


 振り返ってうしろを向くと、そこには立派な髭をたくわえた大柄な男性が立っていた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 修練場にはフリードのファンである女性が多数……。女性を大勢呼んだことにはなにか思惑があるのかもしれません。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回はいよいよ決闘が始まります。

 出足は好調なテンラーだったが……。

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