第22話 メインヒロインのカナンに声をかけられ……

 ……予想は当たった。

 2日後、ふたたび書斎へ呼び出された俺は、父からフリードが決闘を承諾したという話を聞く。


 俺としては目論み通りとなってホッとしているところだが、父ヤットンは複雑な表情をしていた。


「……発言の撤回はしないそうだ。残念ながらな」

「予想通りです。それで、国王様のほうは?」


 こちらもまた懸念のひとつだ。

 国王が決闘の立ち合いをしない可能性もあった。


「うん。国王様は承諾をしてくださった。それで場所だが、城の修練場を使うようにとのお達しだ。日取りは明後日。構わないか?」

「結構です」


 近いが、先延ばしにする理由も無い。

 奴の気が変わらないうちに決闘の日を迎えたほうがいいとも思った。


 話を終えて書斎を出る。と、


「よお、兄さん」


 外には待っていたようにフリードが立っていた。


「良い舞台を用意してくれて礼を言うぜ。国王の前で悪を成敗するなんて、正義の主人公な俺にはおあつらえ向きの舞台だしな」

「たいした自信だな」

「自信? 違うぜそれは」


 と、フリードは下衆な笑顔で表情を歪める。


「俺が勝つのは決定事項だ。決まっていることに自信もなにもないだろう?」

「そうかよ」

「てめえとしては俺を警戒して舞台を整えたんだろうけどよぉ、てめえなんかを殺すのにややこしいこと考える必要はねーんだわ。それくらい実力差があるからなぁ。カッカッカッ。ま、明後日までの命をせいぜい楽しめや」


 そう言い残してフリードは去って行く。


 ……これでいい。

 神付きスキルを持つ奴に俺が勝てる可能性があるとしたら、それはあの驕りだ。俺を完全に舐めたあの驕りに、俺が勝つチャンスはあると考えていた。


 ……やがて決闘の当日を迎える。


 俺は腰のベルトにメタルカイザーソードを差し、アナテア、シュリアノを伴って屋敷の外へ出る。


「……なんか腹の具合が悪い」


 決闘の日だというのに、俺は少々の腹痛に苛まれていた。


「昨日の夜にあれほどニンニクなんか食うからじゃ」

「うーん……」


 決闘に備えて精の付くものを食べようとニンニクを食べまくった。

 その結果が腹痛である。


「まあこのくらいなら大丈夫かな」

「信じられないくらい口が臭いぞお前。いくらなんでもニンニクを食べすぎ……はっ!? ま、まさかニンニクを大量に摂取してわたしに夜這いをかけるつもりだったのかっ! しかし残念だったなっ! 夜這いを想定して入念に身体は洗っておいたのだっ! 汗で蒸れた女の身体を抱きたかっただろうが、そうはさせんぞっ!」

「あ、はい」


 汗で蒸れたシュリアノの身体を想像してしまう。


 それはかなりエッチだなぁと思いながら、俺は自分の腹を撫でつつ門へ歩く。と、


「テンラー」


 俺の背へ誰かが声をかける。

 振り返ると、そこにいたのは母エイナーであった。


「母上……」


 不安そうな母エイナーの表情を俺は見つめる。


「……ご武運を」


 ただ一言そう言い、母は屋敷へと戻った。


「武運を、か」


 自分の息子同士が戦うのだ。

 勝てとは言えない母エイナーの気持ちは察するに余りあった。


 屋敷の門を出て城へ向かう。

 その道すがら、多くの民衆が俺を見るが、その目はどれも冷たかった。


「魔王の魂を持ったクズ野郎め。とっとと殺されちまえ」

「殺されるさ。神付きスキルを持ったフリード様が負けるわけはないからな。これで2度とあいつの顔を見ないで済むかと思うとせいせいするぜ」

「決闘はテンラーのほうから申し入れたそうだな。捕まって死刑になるのを恐れたんだろうけど、往生際の悪いことだぜ」


 ……散々な言われようだが、気にしてもしかたない。

 雑音は無視し、俺は先にある戦いに意識を集中した。


 町を抜け、城の修練場までやって来ると、


「うん?」


 金髪の若い女が修練場の入り口前に立っていた。

 格好からして、教会に勤めるシスターのようだが……。


「あれは……」


 見覚えがある。

 しかし会ったことがあるのではない。画面越しに見たことがあるのだ。


「あなたがテンラーですね」


 俺が入り口に近づくと、その女は穏やかな表情で声をかけてくる。


「はい。そうですけど……」

「申し遅れました。私は旅のシスターをしておりますカナンと申します」


 ……カナン・ルーレクリア。

 その名は知っている。なんせ彼女はこのゲームのメインヒロインだ。ゲームをプレイしていて知らないわけはなかった。


 確か勇者を探す旅をしているとかで、神付きスキルを得たフリードの噂を聞いてこの国へ来たんだったか。

 なんやかんやあって、魔王復活阻止の旅へフリードとともに出るのだが、ゲームの進行通りならそれはまだ少し先だったと思う。


「シスターさんですか? けれどなぜシスターさんがここへ?」


 彼女のことは知っている。しかしなぜこの場所にいるのかはわからなかった。


「ええ、それはですね」


 カナンは穏やかな表情を崩さず口を開く。


「魔王の魂を肉体に宿したゴミクズがどのような無残な姿で殺されるのか、この目に焼き付けるためにここへ来たのです」

「……左様で」


 こんなことを言うキャラだったろうか?


 言われたことよりも、そっちのほうが俺は気になった。


「やあ、兄さん」


 声を聞いて振り返ると、そこには遅れてやってきたフリードがいた。


「あ、フリーどぉっ!?」


 いきなりうしろから突き飛ばされた俺は、倒れそうになったのをシュリアノに支えられる。


「フリード様っ!」

「ああ、カナンか。カッカッ、先に来てたんだな」

「ええ。あなたの雄姿を万一にも見逃してはいけないと、先に……あっ」


 そのときフリードの手がカナンの股へと触れた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 いよいよフリードとの決闘へ向かいます。その前にゲームのメインヒロインであるカナンに会いますが、なんとも辛辣なことを言う彼女をテンラーは不審に思ったようです。どうやら先にフリードと会っていたようですが……。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は決闘直前です。

 なぜか修練場には多くの女性がおり、テンラーは疑問に思います。

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