第21話 フリードと正々堂々1対1で戦える方法

 ……しばらくして民衆がいなくなり、俺たちはようやく屋敷へ入ることができる。


 屋敷へ帰った俺は、予想通りというか父であるヤットンに呼ばれ、彼のいる書斎へと向かう。そして扉の前に立つとノックをした。


「父上、テンラーです」

「入れ」

「失礼します」


 許しを得て入室をする。


「呼ばれた理由はわかっていると思うが」

「はい。フリードが民衆へ吹聴した件ですね」

「うん。フリードに依れば、そのようなことを言ったのは女神のお告げを聞いたからとのことだ」

「女神ですか」


 奴は女神と繋がっている。

 俺に魔王の魂がというのは真っ赤なウソだが、女神の告げというのはまるっきり嘘でもないか。


「お前はどうなんだ? なにか言い分はあるか?」

「率直に申し上げますと、魂が魔王であるかの自覚は私にありません。ゆえに。私のこの魂が魔王でないと証明することはできません」

「……」


 父の目が鋭くなった気がするも、俺は気にせず言葉を続ける。


「しかしそれはフリードも同じです」

「フリードも同じ?」

「はい。女神の告げを聞いたというフリードの言葉が真実であると、フリード以外の誰が証明できましょう? 奴が嘘を吐いている可能性は否定できません」

「女神の寵愛を受けたフリードの言葉が嘘だと?」

「それはわかりません。しかし真実である証明もできないでしょう。神付きスキル持ちが女神の告げを聞けるとしても、フリードが真実を言っているとは限りませんから」

「……」


 父は黙り、何事かを考えているような難しい表情をして俯く。

 ……やがて顔を上げ、俺の目をじっと見つめた。


「どちらも私の息子だ。どちらかを贔屓したりはしない。だが1年ほど前ならば、私はお前よりもフリードを信用しただろう」

「それは……どういうことでしょうか?」

「うん。以前のお前はひどく粗暴で、わがままなどうしようもない息子だった。だが最近はずいぶんとおとなしくなり、ローランエン家の次期当主として自覚が出てきたのだと安心をしているのだ」

「……」


 俺は普通に過ごしているだけだが、元のテンラーがひどすぎるので、今が素行良く見えるのだろう。


「以前にフリードへ剣を向けたのもなにか事情があるのだろう。最近、フリードの素行が悪くなったと執事やメイドたちから聞くこともあるしな」

「ええまあ」


 おとなしくしているように振舞っていても、そもそも中身は傍若無人なハラボンなのだ。元のフリードを演じるにも限界があるとは思っていたが、やはりその通りで素行の悪さが目立ってきたようである。


「お前が以前のままならば、フリードに神付きスキルが発現したことを理由に、後継ぎを変えていたかもしれん。しかし今のお前ならばそうする必要も無いだろう」

「ありがとうございます」


 後継ぎになど興味は無いが、このように評価をされるのは嬉しかった。


「うん。私としては今のままで現状を維持したい。だが多くの民衆はフリードの言葉を受け入れて、お前に魔王の魂が宿っていると信じている。今は民衆と一部の貴族だけのようだが、いずれ国王様の耳にも入るだろう。そうなればお前を後継ぎにするのは難しくなるかもしれん」

「もちろんです。最悪、私は捕らえられて死刑になるでしょう。それを回避するには、自分に魔王の魂が宿っていないと証明する必要があります」

「しかしそれを証明することはできないのだろう?」

「できません。しかし私の身体に魔王の魂が宿っていないという主張を世間に肯定させることはできます」

「どうする気だ?」

「フリードに決闘を申し込みます」

「け、決闘?」


 ここで初めて父が表情を歪める。


「はい。もちろん決闘のルールはご存じでしょう。互いの主張が対立した場合、決闘を持って決着をつける。私が勝った場合は、魔王の魂が宿ってはいないという主張が肯定されます」

「お前が負けた場合はどうなる」

「私が負けた場合はそのまま殺されるだけです」


 決闘となれば、奴は間違いなく俺を殺しにくるだろう。

 負けとはそれすなわち、俺の死なのである。


「そこまでの覚悟を持って決闘をする気か……」

「それしか証明の方法はありません」


 きっぱりとそう言い放つ。


「そこでこの決闘に関して、父上にお願いしたいことがあります」

「私に願いだと?」

「はい。私とフリードの決闘を、国王様にも拝見していただけるようお願いしていただけないでしょうか?」

「こ、国王様に? いや、しかし兄弟での決闘など、我がローランエン家の恥になることを国王様に見ていただくなど……」

「いずれ耳に入ることです。それに、ローランエン家の者から魔王の魂を宿す者が生まれたという話が真実になってしまうほうが、よほど恥でしょう。国王様の御前で私が勝利をし、国王様によって私の主張が肯定されれば実際はどうあれ世間は納得せざるを得ません」

「むう……」


 大袈裟にこんなことを言っているが、ここで重要なのは世間がどう思うかではない。重要なのは、フリードに卑怯なことをやらせないということなのだ。


 国王の前ならば、戦いに卑劣な手段を使うのは難しいだろう。『武神』のスキルがあれば俺など圧倒できると高を括っているだろうが、中身はあの下衆クズのハラボンだ。劣勢となればなにをしてくるかわからないゆえ、念のためこういう対策は必要だった。


「……わかった。決闘のことは国王様に頼んでみる。しかしこの件についてもう一度、フリードと話してみようと思う。説得をすれば発言を撤回するかもしれんからな」

「民衆の前で大々的に発言をしたのです。撤回させるのは難しいと思いますが」

「うん。しかし兄弟での決闘など避けれるものならな……。しかしテンラーよ。フリードは神付きスキルを持っている。息子のどちらかに肩入れはできないが、お前の力で勝てるのか?」

「……それは結果でお答えしましょう」


 そして父との会話を終えた俺は書斎を出て、大きくため息を吐く。


 ……緊張した。

 なるべく貴族の息子っぽく話したけど、変に思われていないだろうか?


 まあともかく、これで布石は打った。

 あとはフリードが決闘を承諾するかだが……。


 あいつからすれば俺の寝込みでも襲ったほうが確実だ。決闘を拒否する可能性もある。しかしあいつは自分が正義であることに拘っていた。魔王の魂を持っているということになっている俺を国王の前で殺せるなど、自分が正義だと見せつけるこれ以上無い舞台だろう。


 奴は真っ当に戦っても俺を殺せると考えているはず。

 だからこの舞台には上がってくるはずと、俺は予想していた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 決闘にて決着をつけることになりました。国王の御前で行うことになれば、ハラボンも卑怯な手段はとれないだろうと考えてのことですが、はたしてテンラーの思惑通りにいくかどうか……。


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 感想もお待ちしております。


 次回はゲームのメインヒロインが登場です。

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