第8話 お姫様の説得へ向かう

 ……レーティを説得するため3人で城にやってくる。


 レーティは超がつくほどにわがままなお姫様だ。ゲームでもフリードの説得を聞かず、決闘で勝利してようやく言うことを聞かせられた。


 今の俺ではレーティに勝てない。

 もしもスキル『G』を当てることができても、そのときはレーティを殺してしまうことになる。それはダメだ。


 つまりなんとか戦わずに説得を成功させなければならないわけだが、普通に話してあのわがままお姫様に言うことを聞かせるのは難しい。ゆえに秘策を用いるわけだが……。


「しかし姫様を説得する秘策とはなんなのだ?」

「それはその……まあ秘密で」

「秘密? はっ! も、もしかして姫様にいやらしいことをして脅迫する気だなっ! なんという奴っ! やはり噂通りの下衆クズかっ!」

「人聞きが悪いな。そんなことしないよ」

「そうなのか? じゃあ……はっ!? もしかしてわたしを自分の女にするから暗殺者をやめさせろと言うつもりだなっ! だがお前の思い通りになると思うなっ! 例えお前の女になって抱かれてスケベなことをされたとしても、決していやらしい声を上げたりはしないからなっ!」

「そ、そうですか……」


 この子の言う、思い通りにならないという基準は高過ぎるような気がする。


「まあ君みたいな美少女が側にいてくれたら嬉しいことには違いないけどね」

「わ、わたしが美少女だと? ……そうか。そういうことだったのだな」


 なにやら納得したような顔でシュリアノは頷く。


「お前、わたしに恋をしてしまったのだな」

「えっ? いや……」

「恥ずかしがらなくてもいい。わたしを美少女と崇めるお前のその声に、恋の波動を感じた」


 シュリアノはかわいらしい巨乳の女の子なので、崇めるはそれほど大袈裟ではないかもしれない。性格のほうは少し残念だけど。


「だかお前には子を宿した女がいる。それなのに他の女に恋をするとは、なんたるふしだらな奴。そんな男に恋をされたとて、わたしはお前の子供を3人しか産まないからな。わたしを側室にして4人以上を子供を産ませようと考えているようだが、思い通りにならなくて残念だったな。ふははっ」


 ……変わった子なんだな。


 ゲームでも思い込みや妄想が激しいキャラだった気がする。実際に会って話してみると、激しいどころではなかった。


「しかし説得なんてうまくいくかのう」


 アナテアは俺が手に持っている1枚の紙を見つめて唸る。


 この紙は誓約書だ。誓約書には魔法がかかっており、誓約を結ぶもの同士が心の底から納得して握手をすることで誓約が成立する。

 誓約を違えれば、誓約書にかけられた魔法が発動し、反故にしたことが誓約管理局に伝わって破った者は王族であろうと罰を受ける。

 同時に誓約を破ることは非常に恥ずかしいことであり、プライドが高い王族や貴族ほど誓約は遵守する傾向にあるのだ。


 つまりレーティとのあいだで、2度と暗殺をしようとはしないという決まりがこの紙をを介して誓約できれば、俺はもう暗殺に怯えることはなくなるのだが……。


「殺すつもりでいる男の言うことを聞くとは思えん。どうやって説得をするつもりなんじゃ? まさか決闘をする気じゃ……」

「決闘はしないよ。説得だけでなんとかする。なに、これでも長年、営業マンとして働いてきたんだ。その経験を活かしてなんとかしてみるよ」


 営業マンとしての交渉術だけで説得が可能ならいいのだが、無理ならやはりあの秘策を使わなければならないだろう。


 城の執事に取り次いでもらい、レーティの部屋へと案内される。

 部屋の前に立った俺は大きく深呼吸をし、それからアナテアとシュリアノを見下ろす。


「俺がひとりで行って話して来るよ。2人はここで待ってて」

「ひとりで大丈夫かの?」

「3人で行くと刺激しちゃうかもしれないからね。なるべく穏便に話そうと思うんだ」


 暗殺者と暗殺対象、それとこの件には無関係のアナテアの3人で行ったら変に警戒されて説得どころでは無くなってしまうかもしれない。


「そうじゃな。うむ。ではわしらは外で待っていよう」

「どのように説得するのか興味はあるが、そういう理由ならしかたないな」

「うん。じゃあ行ってくるよ」


 と、俺は扉の前に立つ。


「レーティ様、テンラーです。入ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」


 入室の許可をいただき、俺は中へ入る、

 広くて豪奢な部屋の中で、長い金髪の小柄な少女がイスに腰掛けてこちらを向いていた。


「テンラー様、急な訪問とはいかがされたのかしら? わたくしも暇ではありませんので、ご用でしたら手短にお願いいただけますか」


 横柄な態度でレーティは俺に向かって言う。


 でかい態度に比例するが如く乳もでかい。これでまだ14才なのだから、将来はそのおっぱいどうなっちゃうんだいと、お楽しみな俺である。


「? そんなにじっとわたくしを見つめて、どうかなさいましたか?」

「あ、いえ、なんでも……」


 いかんいかん。素敵なおっぱいなのでつい観賞させていただいてしまった。本題に入らなければ……。


「えっと、本日こちらへお伺いしたのはその……シュリアノのことでして」


 シュリアノの名を出した瞬間、もともと鋭いレーティの目がさらに鋭利となる。


「あれがなにか無作法を働いたかしら?」

「は、はあ」


 まさかシュリアノに暗殺をやめさせるために説得へ来たなどとは夢にも思っていないだろう。


 用件を切り出したらどんな反応をするだろうか?

 少し怖いが、俺は意を決してここへ来た目的を話すことにした。


「あー……っと、その、遠回しに言ってもしかたないので率直に申し上げます」

「なにかしら?」

「はい。シュリアノに命令した俺への暗殺を撤回してください」

「……」


 話を切り出した瞬間、レーティの表情が凍り付く。そして、


「な、ななななななんの話かしらーっ!?」


 いや、わかりやす過ぎだろ。


 あまりにわかりやすくレーティは慌てふためいていた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 決闘をせず、話し合いでレーティ姫に暗殺をやめさせようとするテンラー。前世で営業マンだった経験を生かすことができるでしょうか。


 次回は秘策で決闘を回避します。

 テンラーの秘策にわがまま姫のレーティも太刀打ちできず……。

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