第6話 妄想が激しい美少女暗殺者(シュリアノ視点)

 ……コーヒーを届けてテンラーの部屋を出たシュリアノは、彼の自分を見る目が奇妙だったことについて考えていた。


 まさか暗殺を狙っているとバレたのだろうか?


 いや、それならば即刻メイドをやめさせられるはず。

 あの奇妙な視線には別の意味が……。


「はっ! ま、まさか……」


 あの男の注視するような真剣な眼差し。

 恐らく自分に対していやらしい妄想をしていたのだろうとシュリアノは考えた。


「考えてみればあの視線、舐めるようにいやらしかったような。くっ、このわたしを目で犯すとはなんという破廉恥男っ」


 あの男は視線でこの身体を舐めまわし、穴という穴にあのいやらしい目玉を突っ込んだに違いない。


「ぬう、なんてことだ。汚されてしまった。もうお嫁にいけない」


 全身の穴を犯されて汚された。

 もしかしたら妊娠までしてしまったかもしれない。


「ゆ、許せんあの下衆男。この責任は必ず取ってもらうぞっ」


 テンラーの部屋から遠く離れた場所でひとり呟きつつ、シュリアノは怒りに身体を震わせる。


 あの評判の悪い下衆クズ男のテンラー・ローランエンを暗殺するよう、姫様から命令をされたのは3日ほど前のことだ……。


 ……


「――シュリアノ。ローランエン家のテンラーを殺しなさい」


 王女レーティの部屋に呼び出されたシュリアノは、部屋に入って跪いた直後にそう言われる。


「は、はあ。ローランエン家のテンラー様をですか? しかしローランエン家のテンラーと言えば、姫様の婚約者であらせられるお方。それを殺せとは、一体どういう理由でございましょうか?」

「婚約者だからよ。お嫁にいくなんてまっぴら。わたくしは自由に生きたいの。大人になったら剣の腕を生かして旅に出るんだから」


 一国の姫にそんなことが許されるわけはない。

 しかしそれは言わず、シュリアノは黙ってレーティの話を聞いていた。


「あんたの魔紋スキル『隠』を使えば簡単でしょ? 一定時間、自分の存在を完全に消してしまえるんだから」

「それは……はい」

「メイドとしてあんたをローランエン家に送るわ、いい? 絶対にしくじるんじゃないわよ? 賊に暗殺されたように見せかけるの。もしも暗殺を見られて捕まってもわたくしの名前は絶対に出すんじゃないわよ。あんたの個人的な恨みってことにでもしておきなさい」

「……かしこまりました」


 テンラーは誰からも嫌われている傲慢で意地悪い奴と聞く。テンラーはそんな奴なので殺すことに心は痛まないが……。


 自分とて国王の血を引く女だ。妾腹というだけで、王女レーティと雲泥とも言えるほど扱いに差をつけられるのは納得がいかなかった。


 レーティのように姫として扱われたい。綺麗なドレスを着てダンスパーティーに出て、王族や貴族の男たちから舐めるようないやらしい目で視姦されようと、姫としての生活に憧れがあった。


 きっとレーティはダンスパーティーに出席するたびに、王族や貴族の男たちからいやらしい視線を向けられて、そのまま破廉恥な行為に及んでいるに違いない。


 自分だったらそんなふしだらな姫にはならない。例え男たちから誘われて部屋に行って全裸になって行為に及んでも、決して達したりしないという自信があった。


「いやらしい男たちの思惑には屈したりしないぞぉ、えへーえへー」

「ちょっとあんたなにぶつぶつ言いながらよだれ垂らしてんのよ?」

「……ハッ、いえ、なんでもありません。必ずやテンラーのスケベでいやらしい視線に耐え抜いて暗殺を成功したします」

「ス、スケベでいやらしい視線? まあなんでもいいけど頼んだわよ」

「はい」


 返事をしたシュリアノは、立ち上がって部屋を出て行った。


 ……


 ……そして、将来レーティ王女の旦那となるテンラーの世話をするという名目でローランエン家にメイドとしてやって来た。

 来たのは3日前だ。あんまり早く殺しては疑われると、長ければ1年ほどは普通のメイドとしておとなしくしていようと思ったが、


 こんな辱めを受けては我慢ならない。


 今すぐにでも殺してやろうと、シュリアノは機会を窺うことにした。


 ……食事のあと、テンラーは誰かを連れて屋敷の外へ出て行く。

 どうやら屋敷の裏手にある林へ向かったようだが……。


 これはチャンスかもしれない。


 誰となにをしに出て行ったかは知らないが、裏手の林なら人目に付かない。一緒にいる誰かの存在は邪魔だが、とりあえずは追ってみることにした。


「いや待て」


 もしかすれば油断をした隙に押し倒されて淫らな行為をされてしまうかもしれない。そうなったときのために下着を変えておこうと、シュリアノは一度、自室へと戻った。


 下着を綺麗なものに変えて屋敷の裏にある林へ向かう。


「むう、下着を選んでいたら時間がかかってしまった。テンラーめどこへ行ったんだ?」


 それほど広くは無い林だ。すぐに見つかるはず……。


「――はあ……はあ……」


 どこからか誰かの荒い息遣いが聞こえる。

 そちらのほうへ歩いて行くと、林の開けた場所で仰向けに倒れてゼエゼエ言ってるテンラーと、誰だか知らない若い女がいた。


「あいつらこんなとこでなにを……はっ!? ま、まさか……」


 ゼエゼエと荒く息をつく男。そして女。

 男女が2人きりになって、人目の無い場所ですることなどひとつしかなかった。


「も、もう無理……ぜえはあ。疲れた……はあぜえ」

「10分でそれとは情けない男じゃのう。ほれ、立ってもっとがんばらんかい」

「むりーっ。もう立てないーっ」


 ……会話の内容からも間違いない。


「あ、あの2人、こんなところで淫らな行為に及ぶとは……。しかも勃つとか勃てないとか大きな声で破廉恥なことを……くっ」


 いやらしい雰囲気に全身が犯される。


 あの男から漂ってくる淫靡でいやらしい雄の汗が空気に乗って自分を犯すが、シュリアノは決して淫らな攻撃には屈しないと意識を強く持つ。


「ぐうう……っ。あの男め、わたしを視姦で孕ませておいてすぐに他の女へ手を出して、そのいやらしい雰囲気でさらにわたしを犯すとは。噂通りの下衆クズ男のようだな……」


 誰か知らないがテンラーは女と一緒だ。今ここで出て行って殺すことはできない。


 今夜、寝込みを襲って始末しよう。


 あんなクズ男は絶対に殺してやると、そう意気込みつつ身体を小刻みに震わせてシュリアノはその場を離れた。


―――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 行き過ぎた妄想を繰り返すシュリアノは、テンラーに目で犯されたと激怒し、予定を繰り上げてすぐに暗殺を実行するようです。

 身体を鍛え始めたばかりのテンラーは、はたして身を守ることができるのでしょうか?

 ちなみに王女様も巨乳の美少女です。巨乳ばっかりですね(汗)


 次回は暗殺実行編です。

 早くも主人公、退場か……。


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