第3話 暗殺者の巨乳美少女シュリアノ

 屋敷戻って朝を迎えた俺は、自室にある鏡で自分の顔を見た。


 鏡に映っているのはもちろんテンラーの顔だ。年齢は17歳だったか。どうりでおっさんの俺には身体が軽く感じるはずである。


「イケメンだけど垂れ目の軽薄そうな顔だなぁ。繁華街でチャラい連中と一緒にウエーイって騒いでそうな顔」


 元の俺とは似ても似つかない。いかにも貴族の悪役って顔であった。


「この顔って誰かに似てるな……。あっ!」


 誰かに似てると思ったら、俺がこの世でもっとも嫌いなあの顔だ。


 転生前に勤めていた会社のクソ上司。

 軽薄そうで意地の悪い表情があいつにそっくりであった。


「あいつに2度と会わなくていいのは、転生してよかったことのひとつだな」


 しかしどうせ死んで転生するならあのクソ上司に仕返しくらいしとけばよかった。


「あのゴミカスにはだいぶいじめられたからな……」


 親会社の社長の息子とかで、パワハラモラハラセクハラアルハラと、だいたいのハラスメント行為を行うというやりたい放題だった。


 上には徹底的に媚びて、下はいじめても大丈夫な奴を見極めて徹底的にいじめ抜く、ゴミとクソを煮詰めて抽出したようなクソオブクソな野郎だった。


 ハラスメント行為をしまくるボンボン野郎なので、社内でついたあだ名がハラボン。あの悪魔超人のような下衆い笑い声は今も嫌な記憶として頭に残っている。


「クッソ、あの野郎、せめて一発でも殴っときゃよかったな」


 当然、遺書もなにも無く死んだわけだが、願わくばあいつのハラスメント行為が原因で身体を壊して死んだってことになってくれればいいのだが……。


 しかし鏡を見るたびにあいつを思い出す。

 怒りで鏡をぶん殴ってしまいそうだった。


「んがーんがー」


 俺のベッドではアナテアが女の子とは思えないようないびきをかいて寝ている。俺は床で寝かされたので背中が痛い。


「俺の部屋なのになんで俺が床で寝るんだよ」


 とはいえ、一緒に寝るわけにはいかないし、かわいい女の子を床で寝させるわけにもいかなかった。


「しかし……」


 寝相悪く寝ているアナテアをじっと見下ろす。


 おっぱいでかい。


 昨日は暗くてはっきりとは見えなかったが、明るいところで見ると本当に大きくて素晴らしい。死ぬ運命のキャラに転生させられたのはひどく不幸だが、このおっぱいを間近で見れたことは良かったと思う。


「良いおっぱいをありがとう」


 アナテアのおっぱいに向かって手を合わせてお辞儀する。


 美女の巨乳は世界の宝。神様より偉大。

 存在することに最大の感謝と敬意を払うのは男として当然のことだった。


 ……アナテア自身に対して敬意はないが。


「っと、さーてこれからどうしようかな?」


 おっぱいから目を離してこれからのことを考える。


 魔王の復活を目論む魔物たちからアナテアを守るというのもあるが、俺自身……つまりテンラーの殺される未来も変えなければいけないのだ。のんびりと異世界の生活を堪能しているわけにはいかなかった。


 トントン


 と、そのとき部屋の扉を叩く音がする。


「テンラー様、起きておいでですか? コーヒーをお持ちしましたが」

「あ、やっべ」


 小声でそう言った俺は慌ててアナテアをシーツで覆って、うるさくいびきを鳴らす口へ布を突っ込んだ。


「む、むぐー?」

「しっ、誰か来たからしばらく黙って隠れてろ」


 テンラーは非常に評判の悪いキャラクターだ。部屋に女性を連れ込んでいるなんて知られたら、どんな噂を立てられるかわかったものじゃない。


 シーツでくるんだアナテアを隠した俺は、


「あ、ああ。今起きた。入ってよいぞ」


 少しぎこちなくセリフを吐きながら、訪問者へ入室を促す。


「失礼いたします」

「うむ。……げっ」


 入ってきたのは栗色髪のおっぱいでっかい若いメイド、シュリアノであった。

 年齢は15歳とテンラーよりも若いが、表情の変化がほとんどなく、クールで達観した印象の巨乳美少女だ。


「? どうかされましたか?」


 コーヒーを机に置いたシュリアノは吊り上がった冷たい目で俺へ問う。


「い、いや、なんでもないぞよ」


 焦りつつ、シュリアノの巨乳へ向かって答える。


 アナテアも良い乳だが、これもまた良い乳。

 

 こんな素晴らしい巨乳を間近で見れている瞬間だけは、転生してよかったと思えた。


「……そうですか。では失礼いたします」


 無表情でシュリアノは頭を下げて部屋を出て行く。

 扉を閉めてシュリアノが去ったことで俺はホッと胸を撫で下ろす。


 シュリアノ・セルメカッサ。ローランエン家でメイドとして働いている彼女だが、身分は一応、国王の娘で王女と言えば王女ではある。とはいえ側室の子で、王女としての扱いは受けていない。

 そんな彼女がなぜ公爵家であるローランエン家でメイドなどしているかと言うと、それは妹で王女であるレーティ・モラリオンの命令だからである。

 レーティはテンラーの婚約者だ。将来、旦那となる男の世話をさせるという理由でシュリアノをローランエン家にメイドとして送ってきたのだが、本当の目的は違う。テンラーと結婚をしたくないレーティは、テンラーを殺させるためにシュリアノを送り込んできたのだ。

 テンラーは主人公であるフリードの身体に転生者が宿ったのち、序盤でシュリアノに殺されてゲームからは退場させられる。そしてローランエン家の後継ぎがフリードとなり、ゲームは進んで行くわけだ。


 つまりこのままなにもしなければ俺はシュリアノに殺される。なんとかしてそれを回避しなければならなかった。


「もうよいか?」


 くるまっていたシーツからアナテアが出てくる。


「う、うん。けどどうしよう? このままだと俺、シュリアノに殺されちゃうんだけど」

「わかっておるのならば先に殺せばよいじゃろう。簡単なことじゃ」

「そ、それは……」


 その通りなのだが。


「ネズミも殺したことないのに、簡単に人間なんて殺せないよ。それにシュリアノは悪い子じゃないんだ」


 暗殺は王女の命令であって、シュリアノの意志ではない。

 ゲームではテンラーを殺したのち、新たに王女レーティの婚約者となったフリードも殺すよう命令されるが失敗した。兄であるテンラーが殺された件から事情を察したフリードは、勝てば暗殺の命令を撤回するという条件でレーティと決闘をし、見事に勝利して暗殺を撤回させたのだ。

 そののち、なんやかんやあってシュリアノもレーティも主人公を慕うヒロインになるのだが、それはともかくである。


「ならばレーティと決闘して、シュリアノに出されている暗殺命令を撤回させるか? 主人公のフリードがやったようにの」

「レーティは剣の達人だ。俺じゃ勝てないよ」


 この世界ではなにかしら揉め事が発生した場合、お互いの同意があれば決闘を持って解決することができる。

 本来、決闘は真剣で行われるのだが、さすがに王女様相手に真剣はダメということでゲームでは先端を丸めて刃引きした安全な剣で行われた。俺が彼女と決闘を行った場合もそうなると思うが、いずれにしろ俺は剣術のド素人だ。死の危険が無いとしても、勝てる見込みなどあるはずはなかった。


「それに女の子と決闘するのもなぁ……」


 レーティもまた巨乳の美少女だ。安全な剣を使うとはいえ、巨乳美少女をそれで叩くなど、世界遺産にロケットランチャーをぶっ放すような暴挙である。

 ちなみにこのゲームのヒロインはほとんどが巨乳だ。そうだったおかげでスケベな俺はこんな目に遭っているんだけどねチクショー。


「ならばシュリアノに襲われても殺されないように身体能力や剣技でも鍛えておくのがよいじゃろう」

「それがいいな」


 身を守れるほどの強さを得るのが無難な対策だろう。


「スキル『G』の使い方も学んでおくがよい。のちのちのことも考えての」

「うん」


 とりあえずは身体を鍛えてシュリアノの暗殺に備える。

 暗殺回避に向けてやることが決まったことで、俺は少し安心できた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 巨乳美少女がいっぱいで喜びつつも、迫る暗殺の恐怖にビビるテンラー。殺される未来を回避できるのか……。

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