第2話 一瞬だけ攻撃力最強のスキル、その名は『G』

 ……しばらく考えたがやっぱり意味がわからない。


 なぜ性的な興奮をしやすいという理由で転生させられたのか。


「意味がわからないんだけど……」

「そうじゃろうな」

「というかアナテアって、序盤は普通の少女だろ? なんでいきなりそんな魔王みたいな話し方になってるの?」

「それはわしが未来から過去に戻って来た魔王だからじゃ」

「それってどういうこと?」

「うむ。ゲームをクリアしたならばわかっているじゃろう。魔王は主人公のフリードに討伐されて死ぬ。しかしわしは残った最後の力を使って、フリーゲームをプレイする者の中からお前を選んで過去へ戻ったんじゃ」

「なるほど」


 いや、なるほどでいいのか? なんか理解しがたい話をしてるんだけど。


「俺を転生させた理由が性的な興奮をしやすいからって言うのはどういう意味なの?」

「それはテンラーの持つ特殊なスキルが理由なんじゃ」

「スキル?」


 このゲームには魔法の他に、15歳になったときに発現するスキルというものが存在する。紋章には女神の力によって与えられる神紋と、魔王の力によって与えられる魔紋があり、例えば主人公であるフリードは武神という神紋スキルを使用し、これは一定時間だけ攻撃力、防御力、あと素早さが高く上昇するというものだ。


 ちなみに紋章は人間だけでなく、人間並みの知能を持った魔物にも神紋魔紋のどちらかが発現する。


 テンラーのスキルについてはゲーム内で知らされてはいない。そもそも仲間になるキャラでもないので、スキルを知る必要性も無かった。


「テンラーのスキルは『G』。これを使いこなすのにお前の魂が必要だったんじゃ」

「『G』……」


 なんかすごそうなスキルだが。


「手の甲を見よ。そこに紋章があるじゃろ。それがスキル『G』じゃ」


 手の甲を見ると、魔紋であることを示す色である黒で一文字、Gとあった。


「あ、これ魔紋。ゲームやってるときから不思議だったんだけど、魔王は封印されてるのに、どうして魔王の力によって与えられる魔紋が得られるんだ?」

「魔王そのものは封印されていても、その力は世界へ影響を及ぼすのじゃ。魔王がいなくても魔物が活動してるのはそういうことじゃな」

「へー」


 所詮ゲームなのでその辺の設定はいいかげんになってるのかと思いきや、ちゃんと理由はあったようだ。


「あ、で、これって強いスキルなんでしょ? なんでこのスキルを持っていたのにテンラーはあっさり殺されたんだ?」

「奴には『G』を使いこなす才能がなかった。しかしお前にはある。だからわしはお前を選んでテンラーの身体に転生させたんじゃ」

「お、俺にそんな才能が……」


 今まで生きてきて、これといった才能を感じることも無かった。しかしまさか、異世界でこそ発揮できる才能があったとは……。


「ふっふっふ、スキル『G』か。きっとチートで無双して、女の子にモテまくっちゃうような、格好良くて強いスキルなんだろうなぁ」

「モテまくるかは知らんけど、強くはある。弱ければお前を転生させるなんて面倒なことはせんからのう」

「ふふん。それでその『G』ってどんなスキルなんだ?」


 なんか山を吹っ飛ばせるようなレーザーを撃てるとか、もしくはどんな魔物でも手懐けることができるとか。それとも相手を確実に即死させるスキルとかか?


 Gという名前からは効果を想像できないが、ともかくなんかすごいスキルなんだろうと思った。


「うむ。性的な興奮が最高潮に達したとき、一瞬だけ攻撃力が最強クラスまで爆発的に上昇するスキルじゃ」

「……えっ?」


 一瞬だけ攻撃力が爆発的に上昇して最強クラスへ。うん。ここだけ聞けば確かに強いスキルだ。問題はその前である。


「せ、性的な興奮が最高潮に達するって……どういうこと?」

「言葉通りじゃ。スケベなことで最大まで興奮すればスキルを発動させられる。お前はスケベな気持ちが最高値に達しやすいんじゃ。ちなみにスキル使用後は、一時的にスケベなことに関心を持たなくなる」

「それって……なんか」


 あ、スキル『G』ってそういう……。


「けど本当にそんな変なスキルあるの?」

「疑うんじゃったら、紋章のある手の甲を額につけてみよ。スキルの説明が頭の中に流れるはずじゃ。


 言われて俺は紋章を額へ触れさせる。と、頭の中に音声が流れる。


「スキル『G』。所持者の性的な興奮が最高潮に高まったとき、発動の許可を求めます。許可をされたのち、攻撃力が爆発的に上昇」


 ……本当でした。


「お前、スケベなことばかり考えとるじゃろ?」

「そ、そそそそそんなことねーしっ」


 アナテアの谷間をガン見しながら否定する。


「わかっとるから隠さんでいい。スキル『G』は一瞬じゃが、発動すればレベルマックスの主人公や魔王をも一撃で倒せるほど攻撃力が上昇する強力なスキルなんじゃ」

「それを聞けば確かに強いスキルかもしれないけど……」


 想像とは違ってなんか格好悪かった。


「テンラーは傲慢で権力欲は強かったが、性欲はそれほどでもなかった。しかしお前は違う。度を超えてスケベじゃ。パソコンのフォルダはエロ画像だらけ。部屋はエロゲとAVだらけ。小学校のときの作文に将来の夢は巨乳美女のブラジャーと書いて親を呼び出されたこともあるほどにスケベじゃ」

「ちょっとなんでそんなことまで知ってんのっ! やめてよっ!」

「お前のことは調べたからのう。だいたい知っておる。スケベなくせに初めては恋人としたいからと風俗にも行かず、今だに童貞なことものう」

「うおんっ! もうなにも言わないでっ! わかったからっ!」


 魔王からの精神攻撃に、俺はもはや瀕死であった。


「そ、それで、スケベな俺をこの世界へ転生させて、スキル『G』で主人公のフリードを倒してほしいってわけか?」


 まあそれしかないので、聞く必要も無いことだが……。


「いや、違う。お前にはわしが魔王として復活するのを防いでほしいのじゃ」

「復活を防ぐ?」


 記憶に依れば、どこかにある魔王の像に人間の魂をたくさん集め、最後にアナテアの魂をその像に込めれば魔王が復活するんだったか。

 魔王が復活すれば魔物は強化されて人々は平和な生活を脅かされる。だから人々は魔王の復活を阻止し、復活をすれば全力で討伐に尽力するのだが……。


「なんで復活したくないの? 復活して人間を滅ぼすのが魔王の目的でしょ?」

「人間を滅ぼすか。それは魔物たちの目的であって、わしの目的ではないのじゃ」

「どういうこと? 魔王のために魔物が動いてるんじゃないの?」

「正確には魔物ためにわしが力を貸してやってたんじゃ。しかしあいつらにはほとほと愛想が尽きた。まあ、すべてわしの撒いた種ではあるんじゃが……」


 思い悩むような表情を見せるアナテア。


 よくはわからないが、なにやら深い事情がありそうだった。


「だからお前には魔王の復活を目論む魔物どもからスキルでわしを守ってほしいのじゃ。この身体にある魂が無ければ、魔王が復活することはないからのう」

「けど守れって言われても……」


 スキルは強いのかもしれない。しかし俺は戦いなど無縁の凡庸な人生を送ってきた男だ。魔王の魂を狙う魔物たちからこの子を守るのは難しいかもしれない。


「せめてフリードに転生していればなんとかなったかもしれないけど……」

「フリードの紋章は神紋じゃ。わしは魔紋を持つ者にしか転生させられん」

「あ、そう……。じゃあ魔物の説得とかはどう? 魔王様の言うことなら聞くんじゃないかなぁ?」

「中には言うことを聞く連中もいるかもしれん。しかしほんの一部じゃ。ほとんどわしの言うことなど聞かん、人間を滅ぼすことしか考えておらん奴ばかりじゃ」

「そ、そっか……」


 まあ説得が可能ならそもそも俺が転生させられてないかぁ……。


「お前には迷惑をかけたとそこは深く反省しておる、しかしわしがアナテアとして生き続けるにはお前を頼るしかないんじゃ……」


 悲しそうに俯くアナテア。

 巨乳の美少女にこんな顔をされたら俺は……。


「わ、わかったよ。まあいろいろと文句を言いたいところだけど、君みたいなかわいい女の子に頼まれたら男は断れないからね」

「おお、やってくれるか。頼んだわしが言うのもなんじゃが、そんな性格じゃとお前いつか女から酷い目に遭わされるぞ」

「もう遭わされてるんですけどっ!」


 きっと前の人生ではありえなかった巨乳の美少女に頼られるという状況。先を考えると不安はいっぱいだが、この状況を嬉しく思う気持ちもあった。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 スケベな気持ちが最高潮まで高まったときに発動できる、一瞬だけ攻撃力が最強になるスキル『G』。使用後はスケベなことから関心が無くなる賢者モードへ……。

 Gとはつまりあれですね。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。


 明日も投稿いたします。

 悪役貴族テンラーになってしまったおじさんに暗殺の手が迫る……。


 

 

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