序盤に殺される悪役貴族に転生させられたアラフォーの俺。魔王になってしまう予定の巨乳美少女を守るために一瞬だけ攻撃力最強のスキルを使って戦う

渡 歩駆

第1話 寝落ちして目覚めたら悪役

 ハッと目を開けて、俺の視界に映ったのは知らない部屋の光景だった。


「えっ? な、なに……?」


 どこだここ? なんで俺はこんなところにいるんだ?


 イスに座っている俺は、部屋をぐるりと見回す。


 ぜんぜん知らない部屋だ。

 なんというかすごく古い。昔の西洋屋敷みたいな内装だった。近くの窓からは夜空が見え、今が夜だということがわかる。


「あ、これ夢か」


 確か俺は家でゲームをやっていて、それをクリアしたあとの記憶が無いからそのまま寝落ちしたんだと思う。


「明晰夢ってやつか。初めて見たな」


 夢だと思ったらなんだか楽しくなってくる。


「そういえば俺がやってたゲームは、こういう昔のヨーロッパ風な世界観のゲームだったな」


 そのゲームの印象が頭に強く残っていたから、こういう夢を見ているのだろう。


「せっかく明晰夢を見れているんだから、あっちこっち見て回ってみるか」


 イスから立ち上がった俺は、出てみることにした。


「リアルな夢だなぁ」


 まるで本当に屋敷な中を歩いているみたいだ。


 階段で1階へ下り、屋敷の裏口らしき扉を見つけて外へ出る。


 そこにあったのは広い庭だった。


 いかにも貴族屋敷の庭って感じだ。


「なんかやたらと身体が軽いな。10代のころに若返ったみたい」


 きっと夢だからだろう。


「うーん、なにしてみようかな? どうせ夢だし、現実ではできないことをやってみたいな」


 と、俺はそこで思いつく。


「俺がやってたゲームって魔物が出るやつだったし、魔物退治でもしてみようかな」


 この夢があのゲームの世界ならば、魔物もどこかにいるはずだろう。


「夢なら殺されることはないだろうしな。よーし、それじゃあ魔物退治に……」

「それはやめておいたほうがよい」

「へ?」


 不意に誰かの声がしてそちらを向く。

 そこにいたのはまさしく夢のように美しい、黒髪の少女であった。


 誰だろう? てか胸でっか。


 顔よりも胸。

 着ている薄緑色のドレスを押し上げる立派な巨乳の谷間を、俺はじっと見つめていた。


 かく言うスケベでね。巨乳が目の前にあったら見てしまうのはしかたない。


「どこを見ておる。顔を見て話さんか」

「ああ、ごめん」


 視線を上げると、呆れたような表情があった。


「まあ、そうであるからお前をこの世界へ転生させたんじゃがの」

「えっ? て、転生? なんの話?」

「お前、自分が今どんな状況になっているかわかっておらんのか?」

「どんな状況って……夢の中でしょ?」

「ふむ。まあそう考えるのもしかたないかの」

「? というか君、どっかで見たことあるような……」


 どこで見たんだろう?

 こんなに綺麗な子なんだし、テレビかなにかかな?


「わしの名はアナテアじゃ。お前がやっていたフリーゲームに出てたじゃろ」

「ああ」


 アナテア。確か魔王の魂を持つ少女で、序盤は街に住む普通の少女として登場したが、中盤あたりで魔物に攫われてのちに魔王として覚醒したんだったか。


 むちゃくちゃかわいくておっぱいが大きいからヒロインのひとりかと思っていたが、なんか魔王になってビックリというかガッカリだった記憶。


「アナテアちゃんが夢に出てくるなんて嬉しいなぁ。サインもらおうかな。あ、サインもらっても夢だから意味無いか……」

「夢ではないぞ。これは現実じゃ」

「そんな馬鹿なこと……いだだだっ!」


 頬を引っ張られる。


 むっちゃ痛い。ということは……。


「ゆ、夢じゃないっ! これって現実っ!?」

「そうじゃ。こんな古典的な方法で気付くとは、単純じゃなお前」

「そんなことよりなにっ? これってどういうことっ? てかここどこっ! なにがどうなってるのっ!?」

「落ち着け。結論から言えば、お前は転生したのじゃ。お前がやっていたフリーゲームの登場人物にの」

「フ、フリーゲーム?」


 休みで暇だったから、ネットで見つけたフリーゲームをプレイしていたのは覚えている。異世界の登場人物に転生した主人公が魔王を倒すというゲームだ。


「お、おお。つまり俺は主人公のフリードに転生したわけか」


 まさかこんなことが現実に起こるとは。しかし毎日のようにクソ上司からいじめられるアラフォーおっさんリーマンだった俺が、異世界に主人公として転生は悪くないかも。主人公は女の子にモテモテのハーレムだったし、なんか楽しみに……。


「いんや、お前が転生したのはフリードの兄のテンラーじゃ」

「えっ? テンラー? 誰それ?」


 そんな登場人物いたかな? いや、序盤にそんなキャラがいたような……。


「テンラー……テンラーって……あっ」


 思い出した俺は、楽しみな気持ちが消え失せゾッとした心地になる。


「そいつってもしかして序盤で暗殺者に殺される……」

「そのテンラーじゃ」

「うわあああっ!」


 主人公かと思ったら序盤で死ぬクソ野郎じゃねえかっ!


 テンラー・ローランエン。公爵家ローランエン家の長男で後継ぎ。

 傲慢な性格で意地が悪く、執事やメイドなど、目下の者にハラスメント行為をしまくる大勢から嫌われている下衆クズである。


 今の俺がそいつ。つまり遠くない未来に暗殺者に殺されるということである。


「な、なんで俺がそんな奴に転生を……」

「それにはふかーい理由があるのじゃ」


 深い理由。それは一体何なのか?


 真面目な表情でこちらを見るアナテアの言葉を待つ。


「その理由とはの」

「うん」

「お前がもっとも性的な興奮をしやすい男だったからじゃ」

「そうか。俺が性的な興奮をしやすい男だったから……って、は? えっ?」


 まったく意味がわからなかった。


 ――――――――――――


 あとがき


 お読みいただきありがとうございます。


 遅ればせながらカクヨムコン用に書かせていただいた作品です。

 フォロー、☆をいただけたら大変に嬉しいです。


 しばらくは毎日投稿をします。


 フリーゲームで遊んでいたおじさんがゲームの悪役貴族に転生して、一癖も二癖もある巨乳美少女たちに翻弄されつつ、異世界をスケベに生き抜きます。


 使えるスキルは最強? ではありますが、少し面倒くさいスキルのようです……。



 「かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね」という作品も連載中です。

 こちらもご覧になっていただけたら嬉しいです。

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