26 優等生は、決心する
*
俺は走りながらスマホで小日向さんに連絡した。
『今から話したいことがあるんだけど、会って話せないかな?』
すると数十分後に連絡がきた。
『いいよ。でも、どこで待ち合わせをするの?』
俺はすぐに返信をした。
『小日向さんの家の近くまで行くよ。話せる場所、近くにないかな?』
小日向さんからすぐに返信がきた。
『うちの近くに公園がある』
ということで小日向さんから公園の場所を聞き、そこで待ち合わせをすることになった。
なんて言おう。なんて話せばいいんだろう。
ぐるぐると頭の中で考えたけど、なかなか解決策は見つからなかった。ただ一つ言えることは、小日向さんに謝ることだ。
「(小日向さんにしっかり謝ろう)」
俺はスマホを見ながら、公園へ向かったのだった。
*
公園は住宅街にある小さな公園だった。公園にはブランコや滑り台などが置いてあった。ベンチが1箇所にあり、そこに小日向さんが座っていた。
「小日向さん!」
俺が声をかけると小日向さんは、パッと顔を上げた。その顔はムスッとしていて、もしかすると小日向さんは緊張しているかもしれない。
俺は小日向さんの前に行く。小日向さんはジッと俺の顔を見ていた。
俺はその瞳をジッと見つめ返し、大きな声で言った。
「小日向さん、本当にごめん」
そして頭を深く下げ、小日向さんに謝罪をした。
「えっ」
小日向さんの驚いてくる声が聞こえてくる。まさか俺が、謝ってくるとは思わなかったのだろう。
「本当にごめん、俺が悪かった」
「た、多田くん、頭を上げて。下げなくていいから」
小日向さんに言われて頭を上げた。小日向さんの表情はさっきと違って慌てているようだった。
「び、びっくりした。まさか謝罪をするとは思わなかったから」
「ごめん。すぐにでも今日のことを謝りたかったから」
「……どうして、別に多田くんは悪くないよ」
今日のことを思い出したのか、小日向さんは悲しげな表情を浮かべた。その表情を見ていると俺の胸がズキリと痛んだ。だって、小日向さんにそんな表情をさせてるのが俺だからだ。
「悪いよ。小日向さんにあんな話をして、小日向さんを泣かせて、俺はすごく最低なやつだ」
「多田くん」
「謝って済む話じゃないってことも分かってる。小日向さんの気が済むまで謝るし、もし嫌なら小日向さんに二度と近寄らな……」
「っ! やだ!!」
俺がそう言うと小日向さんは声を上げた。驚いていると小日向さんは泣きそうな顔をしながら俺の顔を見つめてきた。
「多田くんバカ! 近寄らないだなんて言わらないで! 私はそんなこと望んでない!!」
「で、でも、俺はそれだけのことをしたし」
「私は多田くんに振られても、多田くんと仲良くしたいって思ってる。多田くんのこと、今でも好きだし、今更離れるなんてできない!!」
「えっと」
「多田くん私と別れた後、夜ちゃんの所にいって付き合ったんでしょ? 私、応援する。だから、これからは友人として……」
「小日向さんストップ! 話を聞いてほしい。それに第一俺は夜と付き合ってないよ!!」
「えっ?」
俺はさっきまでの話を小日向さんに聞かせた。
夜が相談に乗ってくれたこと。
俺の夜に対する気持ちは依存心だったこと。
夜に背中を押されたこと。
好きなのは小日向さんだということ。
すべて話し終えると、なぜかうつむく小日向さん。
「小日向さんどうかした?」
「うっうっ」
「こ、小日向さん!?」
まさか泣き出したので俺は慌ててポケットティッシュを取り出し、小日向さんの涙を拭いた。
「小日向さん大丈夫?」
「多田くんの、バカ」
「えっ」
「さらっと告白してきた。好きなのは小日向さんだって」
「ぁ」
「多田くんようやく私を選んでくれた、すごくうれうぅ」
小日向さんの涙は止まらなかった。止まらなくて、俺は何度も何度も小日向さんの涙を拭いた。
数十分後、俺たちはベンチに座りながら話すことにした。小日向さんは泣いているところを見られるのが恥ずかしかったのかうつむいてしまっている。耳は真っ赤になっていた。
「多田くん」
「何かな小日向さん」
「多田くんは私を好きだって言ってくれたけど、本当に私でいいの?」
「不安にさせてごめん。君がいいんだ。というか俺なんかがそんなこと今更言って申し訳ないけどさ」
「そんなことない! 俺なんかじゃない!」
「でも俺はいくら付き合ってなかったとはいえ、夜とそう言うことを」
「……気にしないってのは嘘になる。嫉妬でどうにかなりそう。けど、多田くんたちにとってそれは必要だったんでしょ」
「そう、だね」
「だから、これからは私以外とはそういうこと禁止する。これでこの話はお終い」
「小日向さん……ありがとう」
「どういたしまして」
俺が小日向さんの方を向くと、小日向さんはこちらを向いていた。目を赤くさせ、少し恥ずかしそうに笑う小日向さんはとても可愛かった。
俺は決意をした。
「ねぇ、小日向さん」
「何?」
俺はゆっくり小日向さんの手に触れた。小日向さんは初めびくっと体を揺らしたけど、ジッと俺の言葉を待ってくれている。
「遠回りしちゃったけど、俺が好きなのは小日向さんなんだ。俺と付き合ってくれませんか?」
「……はい! よろこんて」
また泣き出した小日向さんを慰めながら、俺は嬉しさを噛み締めていた。
夜が居なければ俺は迷ったままで、どちらも失っていたかもしれない。
夜が居たからこそ、こうして前に進めたのだ。
「(ありがとう、夜)」
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