22 優等生と真昼はその意味を知る

*真昼視点


 多田くんの背中に赤い痕がついていた。キスマークじゃないか?っと冗談で言った私に対して、多田くんはひどく狼狽えているようだった。


まさか、そんなという気持ちがどんどん渦巻いていく。


 もしも、多田くんにキスマークがついているのだとしたら"そういうこと"なのではないかと思った。つまり、多田くんは体を合わせる相手が居るのではないかということだ。


 だって、背中にキスマークだなんて多田くんが服を脱がない限り難しいのだ。服を脱ぐシチュエーションなんてそうそうない。


 胸がツキリと痛んだ。


 もしかして、多田くんと体を合わせた相手は夜ちゃんなのではないかって思ったからだ。夜ちゃんと遊園地に行った時のことを思い出していた。


 夜ちゃんが多田くんを見つめる瞳は、紛れもなく恋をしている人の眼だったから。


 考えすぎだって、自分自身に言いたかった。でも、言えなかった。だって言ってしまったら、本当のことになりそうだったから。


 ふとキスマークについて、友だちが話していたことを思い出した。なんでも、キスマークをした場所には意味があるらしい。


 私はスマホを掴むと、スマホで検索をしてしまった。


『キスマーク 背中 意味』って。


 調べて後悔した。もし、これが本当ならこれはきっと夜ちゃんの思いだと思ったから。


「多田くんを渡したくない、多田くんと一緒にいたい」


 モヤモヤとしたものが、胸を覆い尽くす。多田くんと付き合うためにはどうしたらいいんだろう。


 どうやったら、彼は私に目を向けてくれるんだろう。




 授業が終わった。顔面にボールをぶつけたり、鼻血が出たりと散々だったけど、なんとか授業を終えることができた。

 まぁ保健室に小日向さんと行って、帰ってくるのが遅くてからかわれたけど……体操服を洗っていたことを話すと、みんながったりしていた。何故?


 とりあえず授業が終わり、1人だけ制服に着替えていた俺は、みんなが制服に着替えている間、屋上まで行き、スマホであることを調べることにした。

 誰もいないことを確認してから、階段に腰をおろし、スマホで検索する。


『キスマーク 背中 意味』


 すると、すぐに検索結果が表示された。内容はこうだ。


『好きでいさせてほしいという意味がある』


 俺はスマホを落としそうになった。が、なんとか踏みとどまった。まさか、そういう意味があるとは思わなかったのだ。


「うーん、いやでも、本当に夜がそう思ってるのか分からないしな」


 夜が俺に好意を持っている? そんなわけない。そんなことは、わかりきっている。

 だって今まで夜が俺に行為を見せてきたことなんて一度もない。


「(ただキスマークをつけただけか? なんの意味で)」


 もしかして夜はキスマークの意味を知っていてやってきたのか?


 その考えに至ると、「けど」「だって」という言葉が頭の中を埋め尽くした。


 揺れ動く気持ちがあった。あの夢を見てから俺の気持ちは可笑しくなっている。


「(もし、それがそうなのだとしてどうなるんだよ)」


 けど、何故か俺はもしその気持ちが本当なのだとしたら嬉しいと感じていた。

 その気持ちを持ったらいけないのに、そう考えちゃいけないのに!


 まるで俺はグラグラと揺れ動く岩の上に乗っているような気分だった。少しの振動で谷底に落ちてしまいそうなそんな危険な岩。


「(ダメだ、これ以上考えちゃいけない。俺には小日向さんが居るんだ)」


 俺は頭を横に振り、考えを打ち消した。そして、考えを打ち消すとそのまま教室へと戻っていった。


 グラグラ揺れる。揺れ動く。


 もし、この気持ちが本当だとしたら、俺は最低な人間だった。

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