18 優等生、真昼、夜、今日を楽しむ
コーラを飲み、少し休憩した俺たちは他のアトラクションを楽しむことにした。
ジェットコースターに乗る場合は、2人で乗ってもらうことにして、俺はベンチでその様子を眺めていた。
2人に遠慮されるのは、申し訳なかったからな。そのことを伝えると、2人は頷いてくれた。俺の気持ちを汲み取ってくれたみたいだ。
「じゃあ、次は真昼が乗りたいって言ってたジェットコースターに行こうか」
「うん! 乗る」
「なら俺はここで待ってるから」
「正人くん、寂しくて泣かないようにね。ハンカチいる?」
「泣くかよ!?」
「ふふっ、2人はとっても仲良し。どこで2人は出会ったの?」
「えっと、夜の……」
「よ、夜の友だちの紹介なんだよ! それで意気投合して仲良くなったんだ」
「そうだったんだー!」
危ない、危ない。危うく夜が深夜の繁華街で出会ったことを言いそうになった。さすがに、深夜の繁華街で出会ったはやばそうだったので慌てて嘘をついてしまった。あまり小日向さんには、嘘をつきたくなかったんだけどな……恨めしい目で夜を見ると、夜はすごく楽しそうに笑っていた。どうやら確信犯みたいだ。
「(くそー夜め! 後で覚えてろよ!)」
なんて考えていると、小日向さんが俺の手をツンツンっと人差し指で触ってきた。
「多田くん、夜ちゃんと行ってくるね。ここで、待ってて」
「了解。楽しんできてね」
「うん! 後で感想を一杯喋るね」
「……」
小日向さんはニコッと笑顔を浮かべながらそう言った。俺も小日向さんの笑顔に釣られたのか、いつの間にか笑顔を浮かべていた。
そんな俺たちを見た夜が一言。
「君たちは、付き合わないの?」
「は」
「え」
まさかの発言に、俺たちは固まってしまう。
「いやだって、そんな付き合っているような雰囲気を出してるのに付き合ってないだなんて。詐欺みたいなもんだよ」
「よ、夜さん!?」
「いっそ、今日付き合っちゃ……どうしたの、真昼?」
「よ、夜ちゃん早くアトラクションに並ぼ! 私、乗りたい!」
「わわっ」
夜を引きずるように、小日向さんは夜の手をとって行ってしまった。俺は呆然とその場に立った後、我に返りベンチに座った。
そして、先ほどの夜の言葉を思い出していた。
『いやだって、そんな付き合っているような雰囲気を出してるのに付き合ってないだなんて。詐欺みたいなもんだよ』
夜から見たら俺たちは付き合っているように見えたのだろうか? いや、見えたからこそ夜はあの発言をしたのだろう。正直、その言葉を言われて驚きはしたけど、嬉しかった自分もいた。気になっている女の子と、恋人の関係に見られたからだ。
「(このままって訳にも行かないよな)」
小日向さんに告白されてから、月日が経った。あの日の告白を俺は断ったけど、小日向さんはこんな俺なんかにアタックし続けてくれている。そんな小日向さんに惹かれている自分がいた。本当は行けないって分かっていた。俺なんかが小日向さんを好きになることも、彼女と付き合うことも。
でも、小日向さんの隣に居たいって思っていた。小日向さんと離れたくないと思っていた。これが恋なのかなんなのかは分からないけど……俺はこれを恋だって信じたかった。
もしも小日向さんと付き合うなら、小日向さんに言わなくてはいけないことがある。
父親と父親の恋人とのこと。
俺が繁華街のホテルで暮らしていること。
そして、夜とのことーー。
嘘はつきたくないから。彼女には、ありのままの俺を晒したかったから。自分勝手な考えなんだけどさ。
もしこれで嫌気がさしたのなら、俺は小日向さんを引き止めはしない。いやっ、本当は引き止めたいんだけどな。
ずっと本当のことを話すことに決心がつかなかった。この関係が崩れてしまうのが、嫌だったから。このままを続けていたかったけど、そうはいかないだろう。あの告白から月日が経ったように、あっという間に時間というものは過ぎていくんだ。
だから俺は決心しないといけなかった。
「多田くん!」
ふとどこからか声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、ジェットコースターに乗った小日向さんと夜が俺に向かって手を振っていた。
俺は2人に向かって手を振りながら、そして笑顔で手を振る小日向さんを見ながら俺は決心をした。今度、小日向さんに告白しようって。
*
*真昼視点
ジェットコースターに乗り終わった後、私と夜ちゃんは多田くんのところに向かった。多田くんはベンチに座って、何かを考えているようだった。何を考えているんだろう? なんて思っていると、夜ちゃんが多田くんに声をかけた。
「正人くんどうしたんだい。そんなに考えて」
「夜!? それに小日向さんも、もうジェットコースターに乗り終わったのか!?」
「それは、そうでしょ? そんなに長くジェットコースターに乗るわけじゃないんだからさ」
「た、たしかにそうだな」
「ふふっ、君は一体何を考えていたのかな」
「あ、いや、その」
2人は仲良さげに、話をしていた。2人の会話を少し遠くで聞きながら私は仲の良い2人を羨ましく感じていた。
「(多田くん、私の前じゃあんな感じじゃない)」
多田くんは私の前だと、どこか線を引いているようなそんな感じがした。最近は少し距離が近づけているかもだけど、私の前ではあんなに親しげに話してはくれない。
「(夜ちゃんが親友だから? それとも……)」
その先を考えるだけで、不安になってしまう。もしかすると、多田くんは私ではなく夜ちゃんが好きではないのかなって考えてしまうから。
「(私、多田くんに少し近づけているかな)」
不意に夜ちゃんを見つめる。多田くんを愛おしそうに見つめる瞳に気がついた。その瞳を私は見たことがあった。友人たちと恋愛話をしている時、恋愛話をしている友人たちがそんな瞳をしていたからだ。
もしかして夜ちゃんは……。
「小日向さんどうかしたの? そんなところで立ち止まって?」
不意に多田くんに呼ばれた。私は驚き、ビクッと背中が動いてしまう。
「こっちにおいで、真昼」
「う、うん」
夜ちゃんが手招きをする。私は夜ちゃんに呼ばれるまま夜ちゃんの隣にいた。
まるで自分が二人の異物のように感じた。私は2人にとって邪魔者じゃないかと考えてしまう。2人は誰が見ても、きっとお似合いだから。
「(でも……)」
「(私は、多田くんを諦めたくない。多田くんと付き合いたい)」
私は頑固なのかもしれない。負けだと分かっていても認めたくなくて、諦めきれなくて……私は多田くんが大好きで。
恋ってそういうものなのかもしれない。なんて、考えちゃったりして。
私は夜ちゃんのさっきの瞳を見ないことにした。触れてはいけないような気がしたから。
それとも、私は見なかったことにしたいのかもしれない。私って性格最悪なのかもしれない。
モヤモヤを抱えたまま、私は2人の会話に加わる。
そして思った。
「(私は、やっぱり多田くんが好きだ)」
*
*夜視点
「よし、次はあっちに行こう」
「そうだね。このアトラクションは楽しそうだ」
楽しげに話す2人は、どこからどう見ても恋人のようだった。
「(付き合うのも時間の問題かな)」
そんな感じに見えた。正人くんは真昼が好きだし、真昼は正人くんを諦めきれていない。
真昼と今日過ごして、私は真昼が正人くんの言う通り、太陽な女の子だと思った。名は体を表すって言葉があるけど、まさしくそんな感じ。
明るく、笑顔がまるで太陽のような可愛い女の子。
「(私とはまるで正反対の子だな)」
素直にそう思った。そして、正人くんが彼女に惹かれるのも無理はないと思った。正人くんと話をしていて、彼の話によくでてきたのは彼のお母さんだった。彼にとっての幸せはお母さんが居た時だったみたいだ。
『お母さんの笑顔が眩しくってさ、太陽みたいだったんだよ』
きっと正人くんはお母さんの笑顔と真昼の笑顔を重ねているのかもしれない。だからこそ、彼にとって真昼は"幸せの象徴"で、そこから惹かれたのかもしれない。
お母さんと重ねていたからって、それは恋のキッカケに過ぎない。"確実に正人くんは、真昼に恋をしている"。揺るぎのない事実だ。
そして推測するに、彼は真昼に近々告白するのではないかと考えている。そう仕向けたのは私、アドバイスをしたのも私だ。なぜなら、私は正人くんの話を聞いて、正人くんには幸せになって欲しいってそう思ったからだ。
そして正人くんは私の恩人でもある。2度も私を救ってくれて、幸せになっていいんだと声をかけてくれた。
私は正人くんと似ていると思っていた。闇を抱えていて、自分は幸せにはなれないんだって思ってるところとか。
だからこそ私たちはあの日に出会い、関係を続けていたのかもしれない。
私たちにとって少しでも人と繋がるには、これしかなかったから。
けど最近、正人くんは日の光が当たる場所の人じゃないかって思うようになっていた。彼は元々父親との関係がこじれなければ、日の光の下に居ただろうから。そして彼にとって、日の光の下に連れて行ってくれるのが真昼だ。
「(分かってる、分かってるさ)」
私を助けてくれた彼の1番の幸せを、彼にできる私の恩返しは彼の背中を押すことだって。
『夜、君が言ってくれた言葉だよ。君は悪くないんだから。君はもう幸せになっていいんだよ』
不意に正人くんが言ってくれた言葉を思い出した。正人くんの言葉に救われた、正人くんの優しさに救われた。
救われたことのない人間が、人の温かさを知ってしまった。それを知って縋りたくなるのは、愚かなのだろうか。
「(私は……)」
「(あの日から正人くんのことが好き、好きになってしまった)」
今の私たちの関係は"親友"で収まっている。でも、私は親友以上の感情を抱いてしまっていた。
正人くんから真昼の話を聞くのが嫌になった。
真昼のことで嬉しそうに笑う、正人くんを見るのが嫌になった。
真昼にどんどん惹かれていく正人くんを見るのが嫌になった。
「(正人くん、私はどうしたらいいんだろう)」
楽しそうに真昼と話す正人くんに、心の中で問いかける。
「(私は、君無しじゃ生きていけないかもしれない)」
知ってしまった快楽に、人は簡単に溺れるものだ。
*
*正人視点
あっという間に今日という日が終わった。寂しくもあるけど、とても楽しむことができた。
俺たちはいくつかのアトラクションに乗り、満足できたと思う。これも小日向さんの案内があったからこそだろう。
「夜のパレードが始まる! 見に行こう」
「夜のパレードか、どんな感じなんだろ。ワクワクするな」
「よし、特等席をとらないとな」
3人肩を並べて、パレードの始まる場所に向かって歩いていく。手にはポップコーンやジュースなんかを持って。
こんなにワクワクしたのは久しぶりだった。これも3人で来れたからこそ楽しめたのかもしれない。好きな人と、そして親友と。
俺たちは場所をとり、夜のパレードが始まるまで3人で話をした。俺の隣には小日向さんと夜がいる。あのアトラクションが楽しかったとか、あのアトラクションが怖ったなんて話が尽きることはない。
「あっ、パレードが始まる!」
話をしているうちに、あっという間に夜のパレードの時間になった。綺麗に装飾が飾り付けられたキラキラと輝くパレードの車が何台も目の前を通っていく。
まるでそれは夢のような景色で、俺はすっかり視線を奪われていた。
「また、来たいね」
っと隣にいた小日向さんが言う。
「また来たいな」
って隣にいる夜が言う。
「また、3人で来よう」
俺がそう言うと、数秒経ってから2人が返事をした。
この3人で見た景色を俺は忘れることはないし、2人もそれは同じだったと思う。
このままもっと見ていたい。
だって、君と同じ景色を共有できるから。
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