17 優等生は夜と真昼と

 遊園地に行く日は、あっという間に近づいてきた。その日は、デートの時と同じくらい緊張していたかもしれない。2人のことだから、大丈夫だってことはわかっているんだけどな。


「さて、行きますか」


 待ち合わせ場所を駅前に設定して、俺はホテルから駅まで歩いて行った。予定よりも少し早く着いた。


 駅前に着き、あたりをキョロキョロとすると、ベンチに小日向さんが座っているのが見えた。やっぱり小日向さんは、早く来ていたようだ。


「小日向さん」


 俺が声を掛けると、小日向さんはパッと後ろを振り返った。今日の小日向さんの格好はいつもと違っていた。フリルのついたピンク色のワンピースを着ていた。髪にはクルッとカールになっていて、とっても可愛かった。


「た、多田くん、おはよう」

「お、おはよう小日向さん。その」

「に、似合うかな?」


 クルッとその場で一周した小日向さん。ヒラヒラとワンピースがなびく。


「うん! すごく可愛いよ。前とは雰囲気ぐ違う服だね」

「あ、ありがとう。前、教室で多田くんに聞いた服を買ってみた。だから、いつもと雰囲気が違う」

「なるほど!」


 たしかに教室で、小日向さんから服の好みを聞かれたことがあった。まさかその時の服を着てくるとは思わなかったので驚いた。

 小日向さんは俺の感想が恥ずかしかったのか、顔を赤らめてうつむいている。

 小日向さんの手には俺があげたブレスレットがつけられている。小日向さんは毎日のようにつけてくれていた。


 なんだか嬉しさと恥ずかしさでごちゃまぜになってしまい、小日向さんを直視することができなかった。


 お互い上手く話せず、黙ってしまう。


「(ど、どうしよう。夜が来るまで気まずいんだけど! 早く夜来てくれ!!)」


 祈るような気持ちで待っていると、奥の方から歩いてくる人が見えた。


 長い黒髪をハーフアップにし、肩を出した黒いフリルの服とフリルのスカートを着て、ピンク色のメイクをしている……所謂、地雷系のファッション。

 その少女が横を通っただけで、周りは少女の方を二度見していた。見惚れる人、顔を赤らめる人と反応はさまざまだった。


「わぁ、すごくキレイな子」


 小日向さんも少女に見惚れているのか、視線が少女に釘付けだった。

 俺はというと、少女に向かって手を上げた。


「夜! こっち」


 すると、夜はこちらに気がついて笑顔を浮かべた。


「お待たせ、正人くん。君、来るの早かったみたいだね」

「いや、さっき着いたばかりだよ」

「またまた、よくそうやって言う人が居るけど、君もその部類じゃないの?」

「違うって」


 俺と夜が話をしていると、隣にいた小日向さんがクイッと俺の袖を引いた。


「た、多田くん。多田くんの親友って女の子だったの!?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「言ってない。てっきり私、男の人かと。すごくキレイな子が来た」


 どうやら小日向さんは、俺の親友を男性だと勘違いをしていて、キレイな女の子が来たもんだから混乱しているようだ。

まぁ、たしかに性別を話したことはなかったから、勘違いするのも無理はない。


「君が噂の小日向さんだね。正人くんから"色々"と話は聞いているよ。私は、夜。よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」

「ふふっ敬語は使わなくていいよ。私も敬語を使っていないからね。気軽に夜って言ってくれると嬉しいな」

「うん、わかりま……わかったよ。夜ちゃん、よろしくね。私のことは真昼って呼んで」

「……あぁ、こちらこそよろしく真昼」


 2人は握手を交わし、緊張していたようだけど笑顔を浮かべていた。どうやら上手くいきそうで安心した。まぁ、2人なら大丈夫だって分かっていたんだけどな。

 チラリと時計を確認する。時計の針は7時になっていた。


「2人とも、そろそろ行かないと遊園地始まっちゃうぞ」

「それもそうだね、じゃあ行こうか真昼」

「うん!」


 俺たちは遊園地に行くために、電車の切符を買って電車に乗った。電車に乗った俺たちは40分かけて、遊園地へと向かう。



 遊園地には7時50分ごろに着き、なんとか開園前に間に合うことができた。


「遊園地久しぶり。だから、すごく楽しみ」

「そうなんだ。私もすごく今日が楽しみだったんだ。実は私は遊園地行ったことなくてね」

「俺も遊園地行ったことないから、小日向さんに案内任せてもいいかな?」

「うん、任せて。私、2人が楽しめるように案内頑張る」


 両手を握りしめて、小日向さんは高らかに手を上げた。やる気が十分みたいだった。その姿が健気で可愛らしかった。


「2人は乗ってみたいアトラクションある?」

「私は、ジェットコースターに乗ってみたいかな。この遊園地にはすごいジェットコースターがあるんだよね?」

「うん! 水の中に突っ込むやつがある。すごく楽しい」

「へぇーそうなんだ。すごく楽しみだな」


 ジェットコースターって乗ったことないけど、一体どんな感じなんだろうか?


 俺たちは話し合い、まずは小日向さんが教えてくれたジェットコースターに向かうことにした……のだが、


「うぅ」

「多田くん、大丈夫?」

「め、面目ない」

「まさか君がジェットコースターダメだったなんてな」


 心配そうに俺を看病してくれる小日向さんと、興味深そうな顔をしながら笑う夜。俺はベンチに座りながら、体を休めていた。結論から言うと、俺はジェットコースター系がダメなようだ。高いところから落ちた時のフワッとした感覚がとにかくダメだった。


「うぅ(思い出しただけで、気分最悪だ)」

「なにか、飲み物買ってくる!」

「あ、ありがとう」


 小日向さんはそういうと、近くのお店に走って行った。俺はそれを見届けた後、夜の方を見た。


「夜、初っ端からごめん。せっかくの遊園地だったのに」

「そんなこと気にしなくていいよ。君も遊園地が初めてだったんだから、こうなるってわからなくて当然だよ。それより今は少し休んで、休んだ後に楽しめるようにしないと」

「た、たしかに」


 夜の言うことは一理あった。とにかく今は休まないとな。


「お待たせ! コーラ買ってきた。ゆっくり休んで!」

「小日向さん、ありがとう。お金は……」

「気にしなくていい。私の奢り」

「……ありがとう」


 俺は小日向さんからコーラを受け取ると、早速飲んだ。気持ち悪かったけど、炭酸のパワーのおかげか気持ちが大分楽になった。


「(これならすぐに、遊びに行けそうだな)」

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