16 優等生は夜を誘う
「よし、私の勝ちだね」
「な、なんだと」
「ふふ、オセロってすごく面白いんだね」
夜は口元に笑みを浮かべながら、黒いオセロを置いていく。黒いオセロは盤上を埋め尽くし、白は1.2個しかない。
「ということで、私の勝ちだね」
「夜、もう1回! もう1回だけ勝負をしてくれないか!」
「正人くんは、負けず嫌いだね。さっきからもう10回もやってるよ。まぁ、楽しいからいいけど」
さっき夜にオセロのやり方を教えてから、夜はすぐにオセロのやり方をマスターした。1回目は俺に負けたが、2回目からはずっと俺に勝ち続けていた。しかも、盤上をすべて黒に染めて。まさかこんなに負けるとは思わなくて、俺は悔しさから夜に勝負を挑みまくっていた。
「うーん、でもそろそろ勝ったご褒美が欲しいかな。商品があった方が、燃えない?」
「まぁ、たしかに燃えるな。よし、商品を決めるか。何に……」
「ねぇ、正人くん。私が勝ったら抱いてくれない?」
「えっ?」
一瞬、夜が何を言っているのか理解できなかった。最近はしてなかったのに、今日はどうしたんだろうか?
「いきなりどうしたんだ? それを商品に持ってくるなんて」
「何となく欲しくなっただけだよ、君が。まぁ、このモヤモヤを消せるかもしれないしね」
「えっ?」
「何でもない。もしかして、好きな女の子がいるから私を抱きたくない?」
「まぁ、たしかにそれはあるかな。なんだか、うしろめたい気持ちもあるし」
俺は本心を口にした。だが夜は首を振って、それを拒んだ。
「……でも今回は、引き下がれないかな。私が勝ったら抱いてもらうよ。勝負だよ正人くん」
「そんなに抱いてもらいたいのか?」
「かもしれない。その気持ちがすごく強いみたい。私が負けたら、君は私を抱かなくていいよ」
「そんな罰ゲームみたいな言い方するなって」
「頼むよ、正人くん。この通り!」
夜に頼まれて悩みに悩んだ結果、俺は夜の勝負を受けることに決めた。
夜が真剣に頼んでくるとは思わなかったことと、夜には助けられたことがあるから拒むことができなかったというのもある。
「(惨敗だけど、俺が勝てばいいんだしな)」
「よし、じゃあ早速始めようか」
結果は……
*
俺はベッドに横たわり、さっきまでのことを考えていた。夜とのオセロ勝負は変わらず惨敗だった。ということで、勝った夜は意気揚々とベッドを叩いた。
『さぁ、始めようか』って。
そのまま俺たちは、ベッドで交じり合った。しかし夜を抱く時、いつもは浮かんでこない小日向さんの顔が浮かんできた。小日向さんのことを考えてしまい、夜と小日向さんを重ねてしまう。
『多田くん』
ベッドに横たわりながら、淫らな姿で何度も俺の名前を呼ぶ小日向さん。
俺は首を横に振ると、その想像を打ち消した。罪悪感で胸がいっぱいだった。
「どうか、した?」
「いや、なんでもない」
そして俺たちはそのまま交わり、疲れ果ててベッドに横になっていた。俺の背中に、ピタリと裸の夜がくっついている。夜はなぜかさっきからはぁーっとため息ばかりついていた。
「どうかしたのか? さっきからため息ついて?」
「……いや、私は最低だって思ってね」
「どうして?」
「それは、秘密。言ってしまったら、さらに止まらなくなっちゃうからね」
「?」
夜の言いたいことは、よく分からなかった。けど、俺は深くは聞かなかった。無理に聞いても、しょうがないと思ったからだ。
温かな夜の体が、俺の背中に触れている。俺は人の温もりを感じて、気持ちよくなっていた。気がつけば俺はそのまま眠っていた。久しぶりに行為をして、疲れたのかもしれない。
「正人くん、私」
意識が遠のいていく中、夜の声が聞こえてきた。その声はとても沈んでいて、いつもの夜の声と違っていた。
「ごめん、ごめんね正人くん。私、もう無理かもしれない」
どうして夜はこんなに謝っているんだろうか?
しかし、聞きたくても口が開かなかった。そのまま俺の意識は落ちてしまい、眠ってしまった。
*
「おはよう、正人くん」
「えっ?」
「今日もいい朝だねー」
目が覚めると目の前に夜の顔があった。夜はニコッと笑いながら、俺の顔を覗き込んでいる。
「お、おはよう夜。それにしても、なんで近いんだ?」
「ありゃ、驚かないんだね。驚くと思ったんだけど」
「いや、寝ぼけてていまいち驚けなかったんだよ。で、なんでこんなことしてるんだ? さては、俺を驚かそうとしたな」
ジッと疑いの目を向けると、夜はさらに笑った。
「違うよ。私は君の顔を見ていただけだよ」
「俺の顔を?」
「そう、君の顔を見ているととっても元気になれるんだ。だから、こっそり見てたんだよ」
「なんかめっちゃ恥ずかしいな。いつから見てたんだよ」
「うーん、2時間くらい?」
「に、2時間!??」
適当に考えた質問だったけど、まさか2時間と答えられるとは思わなかった。そのときの俺は、2時間もよく見れるな〜という感想しか出てこなかった。
「ま、まぁ、今回はいいけど、今度からはやめてくれ。めっちゃ恥ずかしいから」
「えー、君を見るのは楽しかったのにな」
「めっちゃ見られるの、恥ずかしいからね!」
「わかったよ。まぁ、こっそり見ればいいし」
「何か言ったか?」
「ううん、何も言ってないよ」
何か言った気がしたが、あまり深くは追求しなかった。逆に寝ている夜の顔を眺めてやろうと、決意したのだった。
俺はベッドから起き上がると、持ってきたバックから服を取り出した。持ってきた服を持って風呂場で着替えながら、俺は今思い出した話を夜に言った。
「そうだ夜。今週日曜日って暇だったりする?」
「なになに、デート?」
「違うって。実は小日向さんに夜の話をしたんだけど、小日向さん夜に会ってみたいんだって。だから、3人でどこかに遊びに行かないか?」
「なるほど、そうきたか」
夜は悩んでいるのか、なかなか返事をしなかった。俺は夜の判断に任せることにした。夜が嫌なら断るし、大丈夫ならそれを小日向さんに伝えようと思ったからだ。
「君は私に、来て欲しい?」
「うーん、好きにしたらいいと思うよ。嫌なら断ってくれて大丈夫だし! それに急だったからな」
「もし私が断ったとして、その日曜日君はどうするの?」
「そうだな、小日向さんを誘って遊びに行ってもいいかもな」
「……」
「ん? どうしたんだ、夜。そんな顔をしかめて」
「別に」
「そうか? で、どうする」
「わかった、その日は空けておくよ」
「あぁ、ありがとう!」
俺は嬉しくて、夜に感謝の言葉を伝えた。夜はというと、複雑な顔をしながら俺を見ていた。
「なんで、君がそんなに嬉しそうなんだい?」
「あははっ、だって小日向さんに友だちを紹介できるのが嬉しくってさ。友だちを紹介するのってこんなに嬉しいんだな」
「……すごく、複雑だな」
服を着替えて風呂場から出ると、夜は窓の外を見ていた。窓の外は明るく、日差しが部屋に入り込んできていた。
夜はジッと外の景色を見た後、すぐに部屋に備え付けられていたカーテンをしめた。眩しすぎたのかもしれない。
夜はクルッとこっちに振り返る。
「さて、日曜日集まるとして。3人で何して遊ぶの?」
「そうだな、何か楽しいことができたらいいけど」
「だったら、近くの遊園地に行くのはどうかな?」
「なるほど、たしかに遊園地に行くのはいいかもしれないな。前に小日向さんが行きたいって言ってたし」
「ふふっ、君は本当に小日向さんが好きだな」
「ま、まぁ、そうだけどさ」
俺は夜と予定を決めると、いつものお弁当の時間に小日向さんにそのことを話した。
「うん! 私もその予定でいいと思う。すごく楽しみ」
「よかった、じゃあその予定で!」
小日向さんと夜と、遊園地に行くのが楽しみだ。
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