第4話
どれくらい、多湿の通路を歩いただろうか。
ふと、通路に何かが落ちていることに気が付いた。まっすぐの通路、両側には扉はなく、足元にも頭上にもトラップの類は見受けられない。そっと近づいて行って、それが何なのかを確認してみることにした。
それは一枚の紙のようである。湿気によってふやけ、ボロボロに崩れかかってはいたものの、その大部分は何とか形を保っているようであった。
前方確認。
後方確認。
ヒトはいない。ヒト以外もいない。
その場にしゃがみ込み、汚らしく変色してしまった紙片をひっくり返す。何かの案内のための掲示物だったようで、無数の線が描かれている。だが、そんなものよりもそこに書かれている文字の方が視界に飛び込んできた。
London Underground
「ロンドン地下鉄……?」
世界最古の地下鉄の名前が書かれたポスターに驚きを隠せなかった。俺は、少なくとも俺の肌感覚としては日本の地下を歩いていたつもりだ。だから、ポスターが見つかったとしてもそれは日本語でないとおかしい。いやそもそも、議員が逃げるための通路に案内のためのポスターが存在しているというのがおかしな話だ。
だとすれば、これは一体。
誰かにたぶらかされているのか。あるいは――。
「ここはロンドン……」
あり得ないと理性が叫ぶ一方で本能は、それがあり得るかもしれないと考え始めていた。あたりに漂う、冬にしては生暖かい瘴気めいた空気にあてられてしまったからかもしれない。
だが、そう考えれば筋は通る。
ロンドンだから、ロンドンのものが落ちているのは当然といってよい。苔が生え、そこここにカビがのさばっているのは、長らく放置されている証拠。そういえば、ロンドン地下鉄には廃線となった区間がまだいくつも残っているそうだ。いくつかは畑などに生まれ変わっていると聞くが、打ち捨てられたままのものもある。
それに、俺はいる……のか。
だが、一つ問題がある。
「俺はどうやってロンドンに」
不意に、遠くで爆発音がした。同時に揺れも感じる。ぐらり。天井からコンクリのつぶてがパラパラ落ちて砕け散った。
「爆破……隊長なのか」
あまりに距離があるために、その爆発音がどういった類のものなのか判断がつかない。それどころか、ここが廃線となってしまったロンドン地下鉄であるならば、単に老朽化した天井やら壁やらが崩壊しただけの音なのかもしれなかった。
だが、ほかに手がかりもなかった。俺は音がした方へと向かうことにした。
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