第4話犬の喧嘩は誰が食う

Kさんの飼っている三匹の犬の中で、一番しっかりしているのはボクサーだ。


いわゆる親分肌というか…この中ではリーダー的な存在と言える。



唯一の欠点は、すぐ他の犬とケンカをする事だった。



自分より弱い、おとなしい犬に襲いかかる様な事はしないが、強そうな犬と目が合ったりするとかなりヤバイ雰囲気になる。



ボクサーの顔には、まるでよく漫画に登場してくるヤクザの様に、今でも消えない大きな傷が斜めに走っている。



近所で飼っている“セントバーナード”とケンカした時にこしらえた傷だ。



どちらが先に仕掛けたのかは定かではないが……

ボクサーよりもひとまわり体の大きなセントバーナードの耳に噛み付き、相手の戦意を喪失させてしまった。


メチャメチャ強い!



それ故にKさんは、目を離した隙にボクサーがよその犬に危害を加えたりしないだろうかと、気が気ではないらしい。




ある日の事……



いつものように三匹の犬が放し飼いにされているKさんの家の庭へ、一匹の小さなチワワが迷い込んできた。



そして、庭の閉じられた格子状の門の外には、心配そうな顔でチワワを見守る小さな女の子の姿があった。



「メリー…だめだよ……もどってきて~。」



そのチワワは“メリー”という名前らしかった。

散歩の途中で女の子の手を離れ、狭い格子の隙間から庭の中に入り込んでしまった様だ。



そのチワワ……勇気があるというか、無謀というか…自分より遥かに大きいボクサーに向かって“キャンキャン”と吠え始めたのだ!



「だめだよ!メリー!」



女の子は、メリーがあの大きなボクサーに噛み付かれはしないだろうかと、今にも心臓が破裂しそうな思いで見つめていた。


キャンキャン!

キャンキャン!



ボクサーはチワワが吠えても、最初は無視してまったく意に介す様子は無かった。



キャンキャン!

キャンキャン!

キャンキャン!



………………



キャンキャン!

キャンキャン!

キャンキャン!

キャンキャン!


…………………

…………………



キャンキャン!

キャンキャン!

キャンキャン!

キャンキャン!

キャンキャン!



…………イラッ…



キャンキャン!

キャンキャン!

キャ……




ガシッ!




ボクサーも我慢の限界にきたらしい。



いつまでも吠える事を止めないメリーの体を、右の前足一本で地面に押さえつけた。



もう、それだけで非力なメリーは身動きが取れない。



「キャア~~!

メリーーーーーッ!」



女の子は絶叫した!






「ん?なんだ?」



家の中で寝転がってTVを観ていたKさんは、女の子の悲鳴を聞いて起き上がった。



何事かと思って窓から外を見ると、ボクサーが小さなチワワを足で押さえつけているではないか。



「ヤバイ!」



Kさんは、一目散に外へ飛び出した!



「何やってんだ~このバカ~!」



思いっきりボクサーに跳び蹴りを食らわせ、メリーを助けるKさん。



「あぶねぇ…ケガしてないだろうな……」



メリーを抱き上げて見たところ、幸いな事に特に外傷などは無いようだった。

しかし、すでに戦意は喪失し、“クゥ~ンクゥ~ン”とか弱い鳴き声を発している。


そしてKさんは、メリーを抱きかかえたまま、女の子の方へと歩いていった。





門の外の小さな女の子は泣いていた。



「お嬢ちゃんの犬かい?……ゴメンな~ウチの犬、バカだから!」



「メリー…大丈夫だった?ケガしなかった?」



「大丈夫♪大丈夫♪ほらっ!こんなに元気!」



泣き止みかけた女の子に向かって、Kさんはメリーの前足を掴んで腹話術の様に操り、おどけてみせた。



「メリー、ちゃんと歩ける?」



「モチロン歩けるさぁ~♪ほら!このとおり♪」



Kさんは、そう言って、メリーを地面に立たせた。




しかし、その時だった!





タッタッタッタッ






ガブッ!








思わぬ伏兵…

ブルの見事な奇襲攻撃だった……






「うわぁぁぁ~ん!」



「ああっ!なんて事しやがんだ!

…せっかく泣き止みそうだったのに……」



Kさんは“ヒット&アウェイ”で逃げていったブルに、石を投げつけた。



「しょうがない……オジサンと一緒に病院連れてって診てもらおう。」



『夫婦喧嘩は犬も食わない』という言葉があるが……

『バカ犬の喧嘩』はこの場合、やはり飼い主が“食う”べきだろうか……






























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