責任とってくださいね?

 しばらく休憩という名のゴロゴロタイムを取らせてもらい、どうにか歩ける程度には復活した俺。

 正直このままもう二時間、いやもう一日くらい寝ていたい所ではあるのだが。

 懐中時計はもう朝の五時を指しており、痛みより制限時間を優先しなくてはならないので気合いで先へと進むことにした。


 ちなみに残念ながら、回復系の白属性はまだ使えないらしいです。残念。


「しかしどうして止まったんです? というか何故口内へ手を?」


 大部屋から出て更に通路を歩きながら、当然の疑問を尋ねてくる王女様。

 ああそれはね? そこに非常停止スイッチがあったからだよ。びっくりでしょ?

 

 実はあの巨人、正面から倒さなくともあれで戦闘を終わらせられるんだ。

 ゲームだと特定条件を満たした際にQTA早押しが発生するんだけど、皆一度負けると躍起になって倒そうとするから実は意外と気付かれないんだよね。

 今回は王女様の反則魔法でそこら辺無視して押せたから運が良かった。まああのまま放置してると普通に再生して戦闘継続だから負けるんだけどね。機械のくせに。


「……何故そこに停止スイッチがあると知ってるんです?」


 あーうんそれはねー? 

 あー、そのー、……そう! 前に一回似たようなのとバトったことがあるからだよ! うん!


「……本当ですか?」


 ホ、ホントダヨー。ボクウソツカナイゼンリョーナヒュームダヨー?


「……まあ良いでしょう。肩を並べ、背中を預け合った仲ですもの。深くは尋ねません」


 あ、ありがとうぅ! いや別にバレてどうにかなるわけじゃないけどとにかくありがとうぅ!


 返したのは一言だけの感謝だが、内心実は感謝感激の雨あられ。

 まさかここまでありがたがっているとは思わないだろうなと思いつつ、ゆっくりだった歩行でようやく最後の格子扉の前まで到着する。

 いつものように王女様に開けてもらい、開いた境を通り抜けるとようやく待ち望んだ部屋が目の前に表れてくれた。


「台座に剥き出しの宝箱。ここがこの洞窟の最奥……でしょうか?」


 王女様は部屋の中央に設置された白い石、その上に置かれた三つの宝箱に首を傾げる。

 そうともここが最終エリア。先人達の夢と希望を詰め込まれ、ロメルの初代女王がエルフのみ立ち入れる領域へ変えてしまった歴史の残骸の最終地点。

 そしてその三つこそが彼らとエルフの遺産。正確にはだが、内一つは俺には関係ないので完全スルーって事で。


 はてさて。王女様が中央へ夢中になっている隙に、俺もあれを探しましょうかね?


「どれもロメルの永緑樹エターナルグリーンで作られた宝箱。ですが三つの内一つはまだ新しい……もしかして、これは置かれた時期が違かったするのでしょうか?」


 まーた考察してるよ。相変わらず聡明なようで何よりだ。

 まあ集中してくれるのなら結構。この隙に目的のブツを見つけちゃいましょうか。


 壁に寄りかかりながらぐるりと半周し、部屋の一番奥でしゃがんで壁を擦っていく。

 どこにも開けた痕跡はない。ならばきっとあるはずなんだ。だから早く、早く見つけなくては──おっ?


 必死に探す俺の願いが通じたのか、床に隣接した部分で指に感じた微かな違和感。

 すぐに壁の汚れを払って凝視すると、そこはここで何度も見かけた紋章と指を掛けられそうな窪みがあるではないか。

 爆付く心臓を押し殺し、もしもの場合に備えてなるべくゆっくり引き抜くと、石の擦る音と共にそれは俺の前へと現れてくれた。


 ──あ、あった。これが、これこそが。あの百財宝レジェンダリーの一つ、碧翡翠ジェイブの涙か。


 濁り一つもない、深くそれ故に鮮やかな翡翠で出来た勾玉。

 月光を通せば翡翠から碧へ。さながら昼から夜へ切り替わるかのような二面の美を持つ宝。

 何で勾玉の形なのかは知らないが、まあきっとスタッフの好みかなんかだったのだろう! 多分!

 

 感極まって思わず声を上げてしまいそうになるのを堪えながら、慎重に勾玉を懐へ入れて壁の引き出しを戻す。

 これで証拠は隠滅っと。……ふうっ。えへへ、えへへへへへっ。


「大丈夫ですか貴方様……って凄くにやにやしてますけど、何かありました?」


 緩みきっていた所で急に掛けられた声に体をびくつかせ、その動きで走った痛みが歯を食いしばりながら気合いで首をそちらへと向ける。


 いえいえ何も? こちらには何もなかったですよ? 

 それよりどうしたんです? 散策ついでに少し休憩してたんですが、そちらは何か満足いく発見でもおありで?


「いえ、宝箱は二人で開けるべきかと思いまして。……しかしそんなところに座ってしまって、やっぱりまだお体が優れませんか?」


 あ、いえ、大丈夫です。すみません、まじで何にもなかったです。

 ……やばい。王女様が善良すぎて私欲優先の俺のクズさが際立ってしまう。罪悪感が胸やら脳みそにずっしりとのし掛ってきちゃう。

 まあでも言わないけどね? GHグラホラでもメインはあっちの三つと一つでこっちは本当におまけだし、今回はそれで勘弁してほしいな♡


 心の中で完璧な土下寝を披露しつつ、よろよろとふらつきながら部屋の中央へ。

 未だ開かれることなくそこにある三つの宝箱。

 若干埃が積っていることから本当に触れていないのが分かる。……まったく自制心溢れることで。

 しかし三つと言ったか。なれば下のこれには気付いていないのか?


「鍵は掛かっていないようですので、早速開けますね。分配は開けた後で相談し合いましょう」


 こういう時はトラップなどを考慮し、貴き御方よりも下賎な俺が動くべきなのだが。

 そう打診するよりも先に王女様が手を伸ばし、中央の箱を勢い任せに開けてしまう。


 ……俺みたいな前世混ざりならともかく、生粋のファンタジー人なら少しは躊躇しない?

 まあでも箱入り娘だしそこまでしないか。むしろ今までが優秀すぎて初めて微笑ましく思えたわ。


「これは、鍵……?」


 箱の中央にあったのはぽつりと置かれていた一本の鍵。

 もちろん見覚えがある。あるのだが……あれ、確かこれって右の宝箱じゃなかったっけ?

 

「どこの鍵でしょう? まあ今考えても仕方ないですし、次に行きましょうか」


 俺は若干気になりつつも、ささっと切り替えた王女様が残り二つの宝箱もテンポ良く開けていく。

 右には一冊の古めかしい本、そして左の他より若干新しめな箱には白い花びらの一輪が。

 墓守の日記に永遠の徒花。うーん一応入ってる物は合ってる? 鍵と花は逆だった気がするけどまあ所詮にわかの記憶だし、やっぱり場所だけ記憶違いをしていたのかもしれんなぁ。


 ……まあいいや。あんまり考えても仕方ないし、俺的には本命があっただけでもう充分だわ。


「どうします? 物があれなので難しいですがどう分けます?」


 好きなの取っていいよー。今回の功労者は貴女だしその三つにそこまで惹かれないんだよね。

 あーでも強いて言えば日記かなぁ。ちなみに教えたりはしないけど、鍵は幻想大樹ビッグツリーに使える場所があるからから是非探してみてね。あの抜け道レベルで隠されてるけど。


「ではローゼリアはこの鍵を。鍵がローゼリアを呼んでいる気がするので」


 わおスピリチュアル。けれど否定は出来ないんだよね、所詮この世はファンタジーだし。

 さてさて。それでは俺は一番候補の本──ではなく、このお花を頂いていきますよっと。

 正直本も欲しいけどね。読めずとも求める人にはそれなりの値で買い取って貰えるだろうし。

 けれど仕方ない。今作戦にはこのお花が必要なのだ。目的を見失ってはわざわざここまで来たかいがなくなってしまうからさ。

 

 割と心臓ばっくばく。この部屋に入ってから休まる機会がないが気にしてはいられない。

 というわけではいどうぞ王女様。この花、俺から貴女への贈り物でげすよー。


「何です……って、もしやこれをローゼリアに……?」


 唐突に膝を突き、差し出された一輪の花に、口に手を当て驚きを露わにする王女様。

 そりゃ驚きもするだろう。人にとってはロマンチックの一言で片付くが、エルフにとってそれはこの上なく特別な意味を持つ行いなのだから。


「ほ、本当に……? エルフに一輪の花を贈る、その意味をお分かりで……?」


 もちろんですとも。下等な人族ヒュームの私とて、その意味くらいは承知していますとも。

 エルフに一輪の花を贈る、それが表すのはつまり婚約──永遠の愛を誓うプロポーズ。

 その花が枯れようと、貴女へ捧げた恋慕は永久であると示すエルフの風習みたいなものだ。


 そう。つまりGHグラホラでここに置かれた永遠の徒花。

 その正体はローゼリア、或いはそれ以外のエルフへ告白するためのキーアイテムというわけだ。

 ちなみに本は本当におまけみたいなもんだよ。ゲームでも読めるだけで使い道なかったしね。

 

「分かっているのですか……? いいえ分かっていないでしょう。ローゼリアはエルフの次を担う者。放浪の身である只人な貴方が懸想する、その想い自体が罪にすらなるのですよ?」


 王女様は頬を赤に染め、けれどもその熱に振り回されず、諭すように現実を告げてくる。

 悲しい哉、いや全然悲しくはないけどそれが現実。非情なようで、当たり前の道理を説いているだけ。

 王族と一般人の結婚など、例えそこそこの自由恋愛が成り立って少子化まで起き始めていた前世であっても例外であっただろう。多分。

 だがここで退くわけにはいかないッ!! いや、ワンチャン気まずくなって帰ってくれるかもだけどそんなことより押せ押せだッ!!


 ──分かっておりますとも。だから王女ローゼリア、どうか私めにチャンスをくださいませ。


「……チャンスとは?」


 このシーク、今はまだ貴女様の隣に立てる男でないと誰よりも理解しています。

 だからどうかしばらくの猶予を。成人である十五を迎えるまでに必ずや武勲を立て、再び貴女様の側に姿を見せられるよう命を賭す所存であります。

 無論貴女様が私めを考慮する必要などありません。その花すら捨てていただいても構いません。

 再び巡り会うその日、貴女様の隣に並べる方がいるなら甘んじて諦めましょうとも。ですのでどうか、どうかお時間をいただければと。


 ですのでどうか、どうか今宵の冒険はここで幕引きにし、ロメルへと帰還していただきたいのです。


「本気、なのですね? 本気でこのローゼリアを想い、添い遂げようというのですね?」


 その幾年も枯れることなくある花に誓って。それこそが我が心の形でありますれば。

 

「……でしたら。それが偽らざる真であるのなら、この場でローゼリアに口づけを。それを以て契約となし、ローゼリアは百年の時間と真の愛を差し出しましょう」


 えっ、重……ごほんごほん。


 予想以上に乗ってきてしまった王女様に一瞬だけ声を漏らしそうになるも気合いで堪える。

 キス、キスかぁ……。ええいままよ! なるようになれ、所詮は子供のじゃれ合いだいッ!!


 流石に舌を絡めるとか、幼女相手にそんな不健全でアダルティなことはしたくなく。

 けれども唇以外には許さないと目を閉じる王女様に、これ以上の誤魔化し方が思いつかなかったので。

 なるべく子供らしく、ぎりぎりセーフかなと思えるバードキスを一回させてもらって唇を離す。


「……これで終わり、ですか? もっと深くとも良いのですよ……?」


 え、えっと……そう! これはまだ誓い! あくまで私の我が儘!

 本当に共にあれた時こそ本番と致しましょう! それまで! 取っておく! ことで!


 内心必死、けれども冷静且つ穏やかな俺の窘めに不満げな顔をされちゃってる王女様。

 やばい忘れてた。この王女様エロリフだった。目覚めさせたら絞られる、そんなエロ同人を壁サーに作らせた本物のむっつり幼女だった……!!


「これは私達だけの誓いであり契約。このローゼリア、貴方の告白に応えいつまでもお待ち申しておりますわ。どうか責任獲って下さいね? 貴方様♡」

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