せめて、せめて怪我の功名にはしてやる……!!
こんなはずじゃなかったと、世界はいつもそういうことばかりではあるけれど。
流石にこれは少し意地悪が過ぎるんじゃないかと、運命の神を恨みたくなってしまう。
……あっ、ちなみにこの世界にも普通にいるよ、神。あくまで今は設定上やら伝承だけの話だけどね。
「はえーなるほど、
外に出ても尚、そんな絶賛メンタルブレイクタイムを迎えている俺とは対照的。
まるで花畑ででもピクニックをしているかのように、軽やかで甘ったるい声で外を楽しんでいる後ろの幼女がどうにも癇に障って仕方ない。
ローゼリア。何故か外まで付いてきてしまった、いずれエルフを統べることになる、エルフでも例外なエルフ。
……いや分からん。本当に意図が理解出来ん。通報するのでもなく、森に帰るのでもなく付いてきている意味がこれぽっちも把握出来ないんだわ。
別に牢から出られていること、それ自体に驚きはない。
だってあの牢屋、出方さえ知っていれば誰でも出られるイベント仕様のなんちゃって牢だからな。
だがそれでどうして穴へと飛び込んでくる気になれる?
あんな一寸先にも暗闇しかない、世界の端を囲う奈落と大差ない闇へ根拠もなくダイブ出来る?
やはり普通じゃない精神力。その胆力は、俺とは根本から異なる英傑に他ならないのだろう。
……しかし王女様や。一つ尋ねたいんですけど、一体どこまでつきま……付いてくる気です?
「どうしましょうかねぇ? 正直な話、降って湧いた非日常に少し戸惑いもあるんですよ。はてさて、これからどう動くのが正解なのでしょうか?」
知りませんよ。でも最善は一択、今すぐ回れ右して森へ帰ることですむしろそうしましょう。
「嫌です。それはとても退屈、得る物がお母様のお小言だけで終わってしまいますもの。どうせなら一つくらい、後まで語れる体験でもしておきたいのですよ」
知らんわそんなこと。はよ帰れくそ王女、俺にとっては良い迷惑だわ。
「で、どちらに向かってるんです貴方様? 当てもなく彷徨っている……というわけではないんでしょう?」
尋ねるというより確かめるといった確信めいたローゼリアの問い方。
……ご慧眼、ご褒美にモブCポイントあげちゃうぞ♡ どれだけ貯めても意味も価値もそこらの葉一枚にすら劣る程度のお気持ちだけどね。
まあ行く先はもう決めている。というより、決まってしまったという方が正しいか。
多くの
まず前提として、この周辺にはエルフ絡み以外の旨みはない。
エルフという種族が強く排他的な種族というのもあるが、単純にこの辺りには何もないのだ。
これは一プレイヤーとしての推測だが、エルフが自然の中にあることを望む種族という設定を公式が遵守した結果なのだろう。
ともあれ、そんなゲームの事情なんか非情にどうでも良く。
問題は何もないということそのもの。つまり何が言いたいかと言えば、このエルフの王女様を満足させるに足る場所なんて近隣にはないということなのだ……!!
これはまずい。どれくらいかというと、この世界にネットがないと理解した時くらいまずい。つまりは絶体絶命の危機だ。
というかもうほとんど詰んでんだよね。ローゼリアが付いてきてしまった時点で、俺はただの犯罪者ではなくド級の犯罪者になってしまったわけだからさ。
流石に一国の王女を誘拐してしまえば半端な追っ手じゃ済まされないだろう。
弁明はまず不可能。俺がこれ以上なく真っ白だが、事実として王女がここにいるんだから真っ黒扱いからの極刑間違いなしだろう。
となれば最早打開策は一つ。夜が明けて、エルフ共が俺を罪人と断定する前に王女自ら帰ってもらうことだけだ。
そしてそれを果たすために取れる道は一つだけ。
正直これも結構運頼りだし、仮に成功してもそこの幼女に割と人でなしと誹られてもおかしくない。まあでも付いてきたのはそっちだし大人しく受け入れてもらおう。
なあに互いにまだまだ子供、流石に本気にはしないだろう。まさかあの賢いローゼリアが脳みそお花畑ってわけでもないだろうしね?
というわけで、目印である体調悪いのかと思うほど青い木を頼りにしてしばらく。
ほらローゼリア様? 結構歩いたんで無事に見えてきましたよ? 多分あそこが今回の目的地、冒険の舞台ですよー。
「何もない……? えっ貴方様? ここは一体……?」
その場所を指差すと、ローゼリアはこてんと首を傾げながら俺へ尋ねてくる。
あれ、知らない? てっきり知っているものだと……まあでも女王になってから知るんかな? その辺は一切言及なかったから無知なんよね。
まあ知識なしなら驚くのも無理もない。ぱっと見だけだとただの崖だし、何なら俺もまだちょっぴり疑っているからな。
しーかーし?
ばくっばくな心臓を宥めつつ、横の岩肌にあるはずの痕を探してみる。
えーっと、確か右右……おっ、あったぁ! やったーとりま一安心! 迷子であの森に来ちまったからデジャブってたんだよねー!
さてさてエルフのお姫様。こちらをご覧くださいな。何か見覚えがあるんじゃないでしょうか?
「……いえ、ないですね。その紋章らしき物は我らと関連があるのですか?」
あれ、ないの? おっかしいなー? 流石にマーク見れば理解してくれると思ってた……あっ。
そうだそうだ。あの個別シナリオって
……まあ別に支障はないからいいよね。むしろ知らないならその方が好都合だしさ。
というわけこれ、実はある古代のお国の
「……気になりますがまあ良いでしょう。それで貴方様? その紋章に何か意味が?」
よくぞお聞きになりました。何とこの紋章のある所にはお宝が眠っていると噂なんですよ。
いやね? 実はロメルの森へ辿り着く前にちらりと見つけたんですがね? 戦力や水不足、デカい熊の荷物のせいで立ち寄ることを断念したってわけですよ。嘘ですけど。
「戦力……つまり貴方様は、この
もちろん。だって君、強いでしょ? それに呼んでもないのに付いてきておいて、今更姫様プレイを求めるってのはちょいと道理が通らないでしょう?
「……良い度胸です。ええ、構いませんわ」
なら良かった。言質は取ったんで後で泣きついてこないでくださいね、俺が負けるので。
まあここがロメルの森内であれば間違いなく不敬で極刑だろうが、それでもここは既に外。
エルフの王女といえど小さき一生物に変わりなく。俺が敬意を払う理由は最早そこまでないわけで。
嗚呼、その点で言えば確かに誘拐なのかもしれない。だってこういう時、罪を軽くしたいがために接待するの普通だもんね。
そうこう話している間に太くて良い感じの棒を数本見つけたし、これでひとまずは準備は万端。
最後に懐中時計を確認してみれば、短針が示すのは二の値。
帰路も考慮すると、ここの攻略に掛けられる時間はおおよそ二時間ってとこか。うーん無理そう。
まあでも行くしかないね。進むも戻るもまさに地獄、前門に虎で後門に狼ってやつだ。
というわけで。少しお手々借りますねー。ほら紋章にターッチ。
「なっ、不敬です……って何事ですっ!?」
直ぐさま俺を振り解くがもう遅い。
エルフであるローゼリアが触れたことで紋章は輝きを放ち、青光が岩を伝ってある形を描いていく。
形成されたのは扉。人は愚か、人族の三倍はあろう巨人すら通れそうなほど大きな入り口。
うーん壮観。ここにムービーはなかったけれど、あったら興奮してたんだろうなぁ。
「な、どういうこと……? まさか、
そうそう。ここ、エルフの仲間がいて初めて開くダンジョンだからね。
ではでは。世界観への考察タイムは後にしつつ、覚悟の準備をして出発進行ー。
今世最初の大冒険。まだ挑む予定のなかった、
その名を墓守の霊安堂。
まあ冒険というより地獄への一方通行ですが、いやー果たして生きて帰れるんでしょうかねー?
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