知ってる玉座に知らねー女
というわけで。何故かロメルの森の通行許可を貰い、村へと一拍することになった俺ですが。
最初こそ奇異と軽視の視線が鬱陶しかったものの、何だかんだエンジョイしております。
というのもね? 水が美味いのよ、それはもう別格でさ。
喉を通った先から伝わる清涼感。冷たくも決して口と脳が辛くならない絶妙な冷え具合。
構成要素のいずれも、前世でも今世でも味わったことがないくらい。
これが水であるならば、今までの液体は何だったのかと己に問いたださねばならない。そのレベルで美味なのよ。
まったく
水の名産地ってならちゃんとゲームに明記して欲しいもんだよ。まあ確かに、ショップに回復アイテムとして水が売っていた気がしなくもないけどね。
そんなこんなで門番のモンブ君のお家にて、和気藹々と一泊を果たした後。
水を補給し、改めてロマンシアへと向かうために発とうとしたのだが。
「さて
何と彼の家を出てすぐに、衛兵っぽいエルフ共に囲まれてしまいましたとさ。ちゃんちゃん。
……いや終われねえよ。俺何もやってねえもん。いくら何でも冤罪はあかんよ。
しかもこいつらの付けているエンブレム。どこかで見覚えがあると思ったらこの国の近衛兵じゃねえか。下手したら幽閉から処刑まで有り得るやつだぞこれ。
助け船でも貰えるかなと、ついモング君の方を見てしまったが結果はお察し。申し訳なさそうに目を背けられてしまう。
……これは売られたか。いや、そもそも根本から判断を間違えていたくさいな。ふがいない。
仕方がないので抵抗は諦め、鼠一匹通さぬ包囲網に囲われながら付いていく。
逃走はまず不可能。当たり前だが勝てる気がしないし、そもそも単騎でも難しいだろう。
実はこいつら、
そのせいである程度の程度の強さかは分かるのだ。俺を
あーあー。これで二度目の人生終わりかぁ。決意とは裏腹に早すぎる旅路だったなぁ。
……まあ冗談は置いておいて。いや、状況はまだまだ予断を許さなくはあるのだが。
ところで、そこの近衛の中でも偉そうなエルフさんや。
この無罪で潔白だけが売りの少年Cこと俺ですが、一体何処へ連れて行かれるというのでしょうか?
「余計なことを口にするな。貴様は黙って付いてくればいい」
あ、はい。さーせん。…………死ね、このヤリチンもどきなキノコヘアーエルフが。
「……何か言ったか?」
いえ何もー? ピューヒュルルー。くーちぶえー。
訝しげに俺を見てくるも、鼻息を立てて前を向き直すキノコエルフ。
そういえば、確かこいつも名前あったはず。思い出せないからキノコエルフで良いけどさ。
しかしなんでキノコヘアーなん? 正直笑っちゃうほど似合ってないんだけど、誰か言ってくれる人いなかったのかな? ……いないか、友達少なそうだし。
ぼっち濃厚な同族に若干の共感と哀れみを抱きつつ、折角なので街中を田舎者っぽく見渡してみる。
グランドホライゾンで訪れた時などとは比較にならない、無駄にでかい木に囲まれたツリーハウスタウン。
この辺は例に漏れず、しっかりとエルフのイメージを守っていて何より。まあこいつら、設定通りなら令和より昔寄りだから肉も食うんだけどね。
それにしても歩くなぁ。俺はまだ片道だけどお前らこの距離を往復だろ? 大変だなぁ。
「乗れ」
なるべく重く考えず、ぶらりぶらりと歩いていると、止まったキノコエルフが指示してくる。
あれ、これって王城へと続くクソ長リフト……やべっ、まじか。
脳が覚醒したが最早手遅れ。四の五の言えずに乗らされて、リフトはガタリと動き出してしまう。
ロメルの森の連絡リフト。巷では三十六秒のクソ長ロードロード名付けられ、GHクソ要素の一つとして愛される定番スポットだ。
難易度はともかく、環境としては比較的スムーズにプレイできるグランドホライゾンだが、その中には何カ所か、明らかに読み込み時間が多い場所があった。
もちろんそこいらのクソゲーと違い、移動時の景色なんかで暇を補ったりしてプレイヤーを飽きさせないための工夫はしているのだが。
残念ながらそれで誤魔化しきれない、二度目以降は訪れるだけでも億劫になる場所だって存在してしまう。ここはその内の一つ。通る度に大体三十六秒要する、真かったるいだけの場所だ。
もちろん、所要時間だけでここまで言われているわけじゃない。
ここがそんな不名誉な場所扱いされている理由の大元は、向かう先にあったりするのだ。
しかしやっぱり景色は良いなぁ。
神秘的な大樹の森を見下ろしながら葉を突き抜け、やがてはこの国の中心たる王城へ。
プレイ中もエルフは嫌いだったけど、この景色は好きだったんだよね。まあ数回見たら飽きたけど。
しかし現実になると長いなぁ。三十秒のロードなんて全然マシだったんだなぁ。
村や自然ばかりだった十年間。
魔法やニャルハ以外で何だかんだ初めて体験する、最も好きだったゲームであったあの世界っぽい景色。
好きな作品が現実になった感動を実感していると、リフトは葉の海を抜け空へと飛び出していく。
緑の天井を抜けた先にあるのは、所々が白雲に包まれたこの森で最も、そして圧倒的に大きい樹。
あれこそが
「そら着いたぞ。降りろ」
その迫力に声を失っているとリフトは停止し、キノコエルフが俺を急かしてくる。
変わらず囲まれて歩くが、周囲のどれもが見覚えのある景色に、それはもう心がぴょんぴょんしてしまっている。
だってよぉ! あの
本当ならロマンシアで迎えるべき感動だったんだが、まあこれはこれで乙なもの。
こんな所に用事なんかなかったし、招かれることもないから行かないだろうと思っていた場所に凝られたのだ。ゲームのようにフォトモードが備わっていない現実が憎らしいくらいだよ。
あ、あの無駄にでかい肖像画! ずっと燃えているって解説があったまっ金々の蜜蝋燭! 開かないまま放置されてる初代女王の黒歴史ノートの入った宝箱!
すげえすげえ! どれも本物じゃん! 前世でもテーマパークとのコラボ企画でもこんな精巧には作られねえぞ!?
ねー自由行動しても良い? あの部屋とかあの部屋とかあの部屋とか見てきても良い?
「馬鹿なことを言うな。貴様は黙って付いてくればいい」
ちぇ。何だよ、良いじゃんかよぉ。
どうせ集合は謁見の間だろ? 時間までには合流するからさー。自由時間くーれーよー。
「ええいやかましい! 女王が貴様をお待ちなのだ! だまって従え!」
はーい。すいませんでしたー。べーだ。
まあ生殺与奪の権利はあっちが握っているのだし、これ以上巫山戯るのは止すとしよう。
幸いにしてただ歩いてるだけでも楽しいからな。これ以上を求めるのは野暮ってもんか。
しかし女王と来たか。王城へと招かれた(強制)のだからそうなのだろうと予想はしていたが、まさかドンピシャで当たっちまうとはなぁ。
エルフの女王っていうとあれだろ? ミニマムロリフのローゼリア。
本名は確か……そう、ローゼリア・リタリス・コングラシア。長いから微妙だけどローゼリアだけは合ってるはず。
金の髪につるぺったんな胸、小学生くらいの一部の方に人気であろう体格。
確か通称は神樹に愛されたハイエルフ、ネットでは救済エロリフみたいな感じで呼ばれた違法ロリ……だったはず?
……ああでも、今の世界じゃ違法じゃねえかも。前世やゲームと違って結婚は十五からオッケーだし。
グランドホライゾンにおいて仲間になるキャラで、最も魔法能力の高くなる厨キャラ。
ニャルハ同様のシナリオ確定メンバーであり、攻略勢がこいつさえいれば他の魔法キャラは必要ないとまで言わしめたほどだ。
実際マジで強かったなぁ。魔法ってのはそれぞれ適性があるんだが、こいつだけは全属性得意で覚えるとかいう反則っぷりだったもん。おまけにCVは幼女声でお馴染みのあの声優さんだったしな。
あれ、でも確か主人公のパーティに加入したのが十五だよな?
単純に考えて、今が本編開始の五年前って事は十歳ってことになるだろ? いくら神童とはいえ治世とか出来るんかな?
……ま、ええか! どうせすぐに分かるんだし、面倒い考察はなしで!
それよりこの螺旋階段! あったあったこんなんも! 螺旋ワープとかバグ技もあったもんなぁ!
「……ここだ。くれぐれも無礼のないように」
へーへー。というか、そういうのを気をつけてほしいなら先に説明するのが礼儀だよな?
俺がネタバレ勢で良かったなお前。ガチの無知を連れてきていたら今頃パニックで不敬どころじゃ済まされねえぞ?
キノコエルフに若干冷たい視線をぶつけつつ、一際大きく頑丈そうな扉が開いていく様にちょっとだけ気を引き締める。
連行の仕方こそ強引ではあったが、手足に錠もないし武器も没収されていないんだ。
だからすぐさま荒事にはならない……はず。きっと、恐らく、メイビー。
まあ気楽に行こう。最悪の状況になったら
正面突破とか無理だからあれしか逃げ道ないからね。バグがあれば別マップまで跳べるんだけど。
結論づけたと同時に大扉は完全に開かれ、キノコエルフに続いて共に中へ歩いていく。
吸うだけで緊張が走る、厳かながらに神聖な空気。汚れ一つないレッドカーペットに、開いた穴から零れ出す白き光。
そして中央に置かれた木製の玉座に座る金色のエルフに、玉座の上の壁に飾られた一本の枝。
──これぞまさしく
グランドホライゾンにおいて必ず見ることになるムービー通り……いや、それを遙かに上回るほど荘厳な空間だ。
「──マッシュよ。その
「ははっ。彼こそが
「……ふむ。なるほどな」
生憎と礼儀作法など知らないので見様見真似で膝を突き、頭を下げて指示を待つ。
それにしてもあの男、マッシュってそんな如何にもな名前だったんだ。ぷぷっ。
「良かろう。
力強く、けれど美しく耳へと響く女王の声。
その指示に少しばかり気圧されながらも、ゆっくりと顔を上げて彼女の顔へと視線を向ける。
王の椅子へと座するその人は、声の通りに幼女などではなく。
むしろその真逆。黄金を変えたかのような艶やかな髪に、豊満で嫋やかな肢体。そして透き通る翡翠の薄一枚というエロというエロを詰めた、まさに人を欲情させるための実ったと言っても過言ではない美女。
エッッ!! エッッッッロ……!!
何この女!? 何その格好!? エルフの女王ってのは痴女か何かかよッ!?
あー十歳で良かった。いかにエルフ嫌い(
「──ッ、そのような熱い視線を向けるでない。まあもっとも、その素直さは好ましいものだがな」
「え、は、はい、どうも……?」
それでも湧き出てしまった幼さに見合わぬ欲望に、女王は微笑みながらあしらってくれる。
ラ、ラッキー。今まじで危なかった。場合によっちゃここで頭と胴体がおさらばだっただろうよ。
「此度の礼の前に、まずは名乗り合うとしよう。其方、名は?」
あ、はい。自分シークという者です。特別な姓もない、ただのシークです。
「シーク、か。
意外にも好感触っぽい。それにしても笑顔が素敵ですね。
で、そんな美人オブ美人な貴女のお名前は? まさかとか思うが、ローゼリア・リタリス・コングラシア……なんてことはないよね?
「ではシーク、心して拝聴し己に刻むがよい。我が名はシヨルル。我らが守護地ロメルにおける七代目女王、シヨルル・リタリス・コングラシアである」
ほーん。シヨルル・リタリス・コングラシアねえ。
んいや誰ぇ!? そんな名前はゲームでも聞いたことないんだけどぉ!?
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