第41話 もふもふ最強

 エイブリーの攻撃を受けたクルワサンは飛行するだけの余力が残っておらずに地面へとゆっくりと滑空して落ちてしまう。


 クルワサンの持ち味の一つである飛行能力。それが失われてしまうと一気に戦力が半減してしまう。


「止めです!」


 エイブリーが続けざまにクルワサンに攻撃しようと上空から蹴りを放つ。重力に従い、クルワサンに向かってくるエイブリー。だが、彼女が黙ってなかった。


「クルワサン!」


 金ゴマがエイブリーにタックルをかます。エイブリーは勢いよくはじかれて攻撃の軌道がズレた。そのお陰でクルワサンは追撃を免れることができた。


「ほう。中々やりますね! しかし、次の攻撃がかわせますか!」


 エイブリーがまた強く屈む。そして、今度は金ゴマめがけて飛んでくる。


 「来るっ……!」と金ゴマが構える。警戒するのはエイブリーの蹴り技。これまでエイブリーは強靭な脚の筋肉で攻撃してきた。だが――


「こっちです」


 エイブリーの手から爪が伸びてきて、それが金ゴマの左肩の部分をザクっと切り裂いた。


「ぐ、ぐにゃあぁああ!」


 金ゴマは声をあげる。エイブリーは華麗に空中で宙返りをしてから着地を決める。


「私を脚力だけのハンターだと思ってましたか? 私は出来損ないのアンドレアと違って、一か所だけに能力を振るなんてリスク管理がなってないことはしません」


『アンドレアがディスられてて草』

『まあ、角折られただけで機能停止するようなやつだし』

『お前ら、あんまりアンドレアディスってやるなよ。いつ、お前の推しが狙われるかわかんねーんだぞ』


「癒しの波動!」


 クルワサンが金ゴマの肩の傷を回復させていく。


「た、助かるニャ」


「そんな回復の隙は与えません!」


 エイブリーが再び跳躍して金ゴマとクルワサンに接近する。2人は現在回復のために距離が近い状態である。


 つまり、エイブリーからまとめて攻撃されるリスクがあるということ。


「もふもふガード!」


 金ゴマの全身の体毛がもふもふとし始める。エイブリーの蹴りがそのもふもふによって防がれてしまう。


「なっ……!」


「私のもふもふに打撃は通用しないニャー」


 蹴りでの攻撃だから助かった。爪による斬撃だったならばもふもふでも防ぐことはできなかった。


「金ゴマ! 治療が終わったよ」


 満身創痍だったクルワサン。なんとか自動回復のお陰で動けるレベルにまでなり癒しの波動で金ゴマを助けることができた。


 エイブリーは跳躍で金ゴマと距離を取る。


「さっきからちょこまかとうっとうしいニャ」


「はぁはぁ……」


 エイブリーが疲労で息を切らしている。さっきから、ずっと跳躍の連続でヒットアンドアウェイ戦法ばかりしているせいである。


「金ゴマ! 相手は息を切らしているチャンスだ! 多分、アイツは……耐久面はもろいと思う」


「瑠璃? どうしてそう思うニャ?」


「普通に考えればわかることだ。エイブリーはスタミナを切らしてまでヒットアンドアウェイ戦法ばかりしている。それは言い返せば攻撃を受けたくない強い理由があるということ。それに回復が苦手なのにも関わらずに回復スキルを取らざるを得ない状況。それは低い耐久をカバーするためだ」


 瑠璃が真っ当な推理を披露する。学校の勉強はできないし、頭脳がアレな部分もあるけれど、理解できている範疇ならばロジックを組み立てることができる戦闘IQの高さはきちんとある。


「がんばれー! フレー! フレー! 金ゴマ!」


 クルワサンが金ゴマを応援する。自動回復により、応援ができるくらいまでには傷を回復することができた。


「なっ……しまった」


 呼吸を整えているエイブリーが焦る。呼吸を整えている隙に相手が強化される。まさに息つく暇もないとはこのことである。


「まずは死にかけのあの妖精をやる!」


 エイブリーがクルワサンに攻撃を仕掛けようとする。だが、それを金ゴマがさせるわけがなかった。


「ジャンプ力プラスSLV2!」


 金ゴマも跳躍をする。その跳躍はエイブリーとほぼ互角。


「なっ……」


「食らえ!」


 金ゴマがエイブリーの足に噛みついた。今度は深いところを噛みつき、エイブリーの足にかなりのダメージを与える。


「んきゃああ!」


 疲労でスピードが落ちたエイブリー。スキルで強化された金ゴマに追い付かれて噛まれて、窮地に追い込まれてしまう。


「バ、バカな。ありえない。この私が……! ヒールSLV1」


 エイブリーはヒールで傷を回復しようとする。だが、金ゴマの攻撃の方が速い!


「ヘルファング!」


 金ゴマの牙が赤黒く染まる。その血のように染まった歯がエイブリーの首筋を思い切り噛みついた。


「が、がぁああはっ……!」


『やった!』

『首取った!』

『おおおおおおお!』


 金ゴマの必殺技にコメント欄が沸き立つ。エイブリーは首を噛まれたことでぐったりとして動かなくなってしまった。


「あっ……」


 最期になにかを言いかけたエイブリー。だが、金ゴマの圧倒的な攻撃力を前にして成すすべもなくやられてしまい、光の粒子となって消え去ってしまった。


 襲いかかってきたバーチャルハンターを倒したことで、金ゴマは配信を閉じることが可能になった。それは……金ゴマたちの勝利を意味していた。


「やった! 勝ったニャー! クルワサン! ありがとうニャ」


「うん。ちょっと体が痛いけど、勝ったね」


 エイブリーから執拗に狙われていたクルワサンは自動回復があるとは言え、かなりのダメージを受けている。


 勝ったとはいえ、クルワサンはボロボロの状態で割とギリギリの戦いであった。


『倒した! ハンターざまあああああああ!』

『赤き雨が何人いるのか知らないけど、その内の1人を倒したってことだろ? すげえ!』

『見た感じエイブリーも結構強いみたいだし、他のモンスターが被害に遭う前に倒せたのは大きい』


 金ゴマ、クルワサンはリスナーたちと勝利の喜びを味わった。


「クルワサン。とりあえず良かったな。傷を治すために一旦配信から抜けよう」


 天馬もクルワサンが無事だったことに安堵をする。ただ、それとは別にクルワサンの治療をするために自分の端末に戻そうとする。


「あ、そうだね。金ゴマ。それじゃあ、また。配信の続きがんばってね」


「うん。助けてくれて嬉しいニャー」



 とあるチャットルーム。そこには8人の入室者がいて会話をしていた。


アンドレア:「エイブリーがやられてて草」


レイブン:「アンドレアおばさんが笑えたことじゃないでしょ。ジェイドが助けてくれなかったら、最初にやられてたのはおばさんでしょ」


アンドレア:「だからおばさんって呼ぶなって言ってるでしょ!」


ケイン:「だから仲間内で争うのはやめんか! ぶち殺すぞ!」


レイブン:「きゃはは。ケインじじいがキレたー!」


ジェイド:「これでわかっただろ?」


レイブン:「は? なにが?」


ジェイド:「エイブリーの敗因だ」


レイブン:「弱かったから。それ以上の理由はない。解散」


ジェイド:「それはもちろんある。弱くなければ負けないからな。だが、今回の敗因の本質はそこではない。エイブリーは己の弱点をカバーできる仲間がいなかった」


リーパー:「ジェイド。まさかそれがしたちに協力しろというわけではあるまいな」


ジェイド:「別に私たちが協力する必要はない。ただ、弱点を補える仲間がいればエイブリーは負けなかった。彼女の敗因。それは誰かに頼ることを知らずに回復まで自前でやったことだ。それと、蹴りの一点特化ならクルワサンを倒せていた。だが、彼女は蹴りだけでは不安を覚えて爪にもスキルを伸ばしていた。なにもかもが中途半端。その癖、速攻で相手を倒せるつもりでいるからスタミナとディフェンスを軽視していた」


クロエ:「まあ、あんま言ってやんなサァ。物理も強いし、眠らせる搦手からめても使えたんだ。自分の万能感に酔いしれて、孤高の存在を貫きたくなる気持ちはわかるサァ」


ジェイド:「とにかく。エイブリーが回復役を連れていれば結果は違ったはずだ。彼女の敗北からなにを学ぶのか。それは各々で考えてくれ。私からは以上だ」


リーパー:「ところでジェイド。どうしてエイブリーを助けなかった? アンドレアの時のように?」


ジェイド:「寝てた」


リーパー:「寝てたなら仕方あるまいな」

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