第40話 ( ˘ω˘)スヤァ
「これは……瑠璃からの救援要請だ!」
オフの日で完全に自宅にて眠っていた天馬。クルワサンも同様にさっきまで端末の中で眠りこけていて、起きたばかりである。
「おはよう。天馬。ボクも今起きたところなんだ」
「そんなのんきなことを言っている場合ではない。すぐに金ゴマの救援に向かうぞ!」
「うん!」
天馬はクルワサンを金ゴマの配信に向かわせた。クルワサンが金ゴマの配信に入り込む。それに気づいた金ゴマの表情がパァと明るくなった。
『きちゃああああ!』
『救援来た!』
『しかもクルワサン。最強のサポートキャラ!』
『パワーの金ゴマ。サポートのクルワサン。これは勝ったな』
「クルワサン! 来てくれたんだニャ!」
喜ぶ金ゴマの一方でエイブリーは驚愕の表情を浮かべている。
「そんな! ありえないです! クルワサンも眠らせていたはず」
「眠らせていた? どういうこと?」
クルワサンは首を傾げた。彼からしたら全く身に覚えがないのだ。
「いや、だから1時間くらい前に眠くならなかったのですか?」
「クルワサン。言ってやれ」
天馬の後押しでクルワサンはある衝撃の事実を伝えることにした。
「今日は天馬がオフだから一緒に昼寝をしていたんだよ! 3時間前からね!」
「んな! まさか、私が術をかける前からすでに眠っていたのですか」
「術がなんなのかはボクにはわからないけどね」
エイブリーの対象を眠らせる術。それは、すでに眠っている相手には効果がない。そして、睡眠時間を延長させる能力もない。だから、起きる寸前の相手を眠らせておくことはできない。
「これは私の計算外でしたね。まさか、こんな昼間から眠っているようなダラダラした人間とモンスターがいるなんて」
「いいだろ昼寝したって。こっちは仕事で疲れてんだ!」
ほぼ全ての社会人共通の悩みを吐露する天馬。眠い時は眠っても良いような、そういう人間ばかりではないのだ。
「天馬さん。来てくれてありがとう。あいつはどうやら術で眠らせてくるみたい」
瑠璃が状況を伝える。
「でも、金ゴマとクルワサンは眠らされていないんだろ。相手はクルワサンが自主的に眠っていたことに気づかなかった。それは、つまり遠隔で眠らせることができるし対象を目視する必要すらないってことだ」
「…………?」
「なんでピンと来てねえんだよ」
瑠璃は難しい話はわからない。でも、理解できる範囲ならば頭はそれなりに回る方である。
「よくわかんないけど、相手が眠らせてこない今がチャンスってことだな!」
「まあ、間違ってはいないな」
瑠璃のパワー系解決法。実はこれはこの状況では適切である。なんらかの事情によって金ゴマとクルワサンを眠らせることはできなかった。つまり、それは言い換えれば眠らせてこないうちに倒せば眠りを攻略したも同じである。
「少し計算外のことが起きましたが、私があなたたちを倒すことには変わりません。むしろクルワサンまで来てくれて好都合です。2人まとめて始末できますから」
『確かに。ハンターは配信中に襲ってくる』
『眠っている間は配信できないもんね』
『だから逆に眠らされているモンスターたちは安全ってことか』
流石に寝込みを襲うなんて卑怯な手は使えないハンター。エイブリーが金ゴマたちを眠らせないのは単なる騎士道精神か、それともそういう縛りがあるのかは不明である。
だが、いずれにせよ今が叩くチャンスである。
「クルワサン。金ゴマにエールを送ってスキルを強化するんだ」
天馬がクルワサンに指示を出す。チーム戦になると基本的にこういう戦い方になる。実際、この戦い方が1番強い。
「させません!」
エイブリーが跳躍してクルワサンと同じ高度まで飛んでくる。
「わわ」
「アタック!」
エイブリーがクルワサンを上から叩く。それはハエ叩きのように……否、バレーのスパイクとでも例えておこう。
「クルワサン!」
クルワサンは地面に激突する寸前で羽を羽ばたかせて落下ダメージを防ぐ。だが、エイブリーから受けた打撃のダメージはかなり大きい。
「クルワサン。ダメージはどんな感じだ?」
「ちょっと厳しいかな。これを続けられたらやられちゃうかも」
「クルワサンは自動回復を持っている。逃げながら戦うぞ」
「逃がしません!」
エイブリーがクルワサンを狙って跳躍する。だが、金ゴマがその射線上に立ち、クルワサンを攻撃からかばう。
「うぐニャー」
「金ゴマ!」
クルワサンが敵のタックルを受けた金ゴマを心配する。だが、金ゴマはニヤリと笑った。
「捕まえた」
金ゴマの首の1つがエイブリーの足首に思い切りがぶりついていた。
「がはっ……わ、私の足を」
自慢の跳躍力。それはこの足から来ているものである。いわば、この足は生命線。アンドレアにとっての角とほぼ同義である。
そこを金ゴマの噛みつきで損傷させた。これは、今後の戦いにおいてかなり有利に進めることができる。
「そんなことで私は負けません。ヒールSLV1!」
エイブリーは金ゴマの噛み傷をヒールで回復しようとする。しかし、その回復力はそこまであるわけではない。なにせ、エイブリーが使ったのはヒールSLV1である。回復は使えるけれど、得意ではない。そんな絶妙な立ち位置である。
「まだ痛むけれど、これくらい回復できれば十分! 跳躍!」
エイブリーが上空に飛んで天井に張り付いた。
「上は取りました。さあ、どうします。クルワサン。私に飛行能力は通用しないことがわかりましたか?」
エイブリーは狙いを定めている。クルワサンがいくら上空を飛んでいると言っても、エイブリーに上を取られている状態。空を飛べる優位性はなくなったも同然であった。
「天馬! どうしよう」
「クルワサン。落ち着け。とにかく、金ゴマのサポートに徹するんだ。とりあえずさっきのタックルで金ゴマはダメージを受けている。癒しの波動で回復させてやるんだ」
「うん!」
「だから、させませんって!」
エイブリーが回転を加えながら落下していく。標的はクルワサン。逃げなければ命中する。しかし、逃げれば金ゴマに癒しの波動を使うチャンスがなくなってしまう。
「かわせ! クルワサン!」
「うん!」
天馬の指示を受けてクルワサンは回避行動に専念した。エイブリーの回転蹴りはなんとかかわした。しかし、安全にかわしてしまったことで、金ゴマから距離を取ってしまった。
「ちょこまかとうっとうしい羽虫ですね!」
エイブリーが屈む。そして、すぐ様、足をバネにしてクルワサンめがけて飛んでくる。怒涛の連続攻撃。かわす方も辛くなってくるほどのペースだ。
「わわ……」
クルワサンは攻撃をかわした。しかし、敵の照準が正確になってきている。クルワサンの回避方向も計算に入れて飛んでいるので、クルワサンは危うく攻撃が当たりかけていた。
「ど、どうすればいいんだ」
クルワサンは物理方面のダメージに弱い。火炎耐性や敵の光線系の攻撃を跳ね返す妖精の鏡。それらの要素は殴る蹴るなどの攻撃には反応しない。それ以外の防御手段をクルワサンは持っていなかった。まさにエイブリーは相性が悪い相手と言える。
エイブリーは再び屈む。今度はより長い時間弾性の力をためる。グググっと足に力が入り、そして飛んだ。かつてない速さ。
その高速で動く物体がクルワサンに命中。クルワサンは吹っ飛ばされて壁にドスンと激突してしまった。
「がはっ……!」
クルワサンは大きなダメージを負ってしまった。流石に一撃でやられることはなかったが、それでも大ダメージ。自動回復が間に合わないほどの深手であった。
「クルワサン!」
天馬が叫ぶ。果たしてクルワサンは再起が可能なのであろうか……?
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