第25話 救援要請ブロック

「準備完了……クルワサンの配信を確認。これより、狩りを始める」


 アンドレアがクルワサンの配信に侵入を試みる。その途端、クルワサンの配信にアラームが鳴った。


【EMERGENCY】

【VIRTUAL_HUNTER】


「うわでた」


 FPS配信で確実に人気を得ようとしているクルワサン。急にハンターに襲われて出た言葉がこれである。


「天馬。救援要請する?」


「いや、相手が雑魚かもしれない。一先ず様子を見て……」


 ピキピキと配信部屋の壁にヒビが入る。そして、それが一気に崩れ落ちて、出てきたのは竜人族のアンドレアの姿だった。


『ア、アンドレアが出たぞ!』

『終わった』

『いや、待って欲しい。今すぐ救援要請をすれば助かるのではないか』

『まだ助かるまだ助かる』


「天馬!」


「ああ、わかった。救援要請だ」


 天馬が手元の端末を操作して、メタルドラゴン、デュラハン、金ゴマに助けを求めようとする。救援要請ボタンを押すも、届いたモンスター一覧に彼らの名前はなかった。


「な、なにっ……! おかしい。この時間帯は3人とも待機をしているはず」


 天馬の顔がみるみる内に青ざめていく。頼みの綱だった3体のモンスター。彼らと連携が取れないのは非常にまずい。


「ふふ、残念だったな。アタシのスキル。エマージェンシーブロッカーSLV3により、その3体のモンスターは救援要請に参加できないようにした」


「なんだと……!」



 天馬とクルワサンがアンドレアと対峙している一方で、それぞれ別の待機部屋にいるメタルドラゴン、デュラハン、金ゴマ。彼らの目の前に大きな壁が出現していた。


「なんだこの壁は……バーチャルハンターのようだが、配信外でも襲ってくることはあるのか?」


「ピピー。通行禁止。通行禁止」


 メタルドラゴンはその言葉を聞いてすぐに察した。


「通行禁止。まさか、我はここに閉じ込められた也!? いや、それは問題ではない。何者かが我を閉じ込めざるを得ない状況に追い込んだということ。これがタチの悪いドッキリでないとするならば……! 今、配信中のモンスターが危ない!」


 メタルドラゴンは鋼鉄の爪で壁を引き裂こうとする。壁がベリっと削れる。


「よし!」


 メタルドラゴンが追撃をしようとすると、壁がみるみる内に再生していく。


「なんだと! 再生能力持ちだと!」


「再生中。再生中」


 壁から聞こえる合成音声めいた声。ただ、この壁は機械的にメタルドラゴンを通さない。


 メタルドラゴンだけではない。金ゴマもデュラハンもまた、壁によって阻まれていた。


「ジグザグファング!」


 何度壁を攻撃しても壁はすぐに再生してしまう。


「刺突!」


 首なし状態のデュラハンが攻撃をする。壁を半分ほど削るもそれだけである。すぐに再生をされてしまう。


「ダメだー。首があればなんとかなったのかもしれないけれど……ココロ! 首は転送できないの?」


 デュラハンがココロに呼びかけるも返事がない。


「まさかココロとも連絡が取れないの?」


「連絡遮断。連絡遮断」


 ただ、目の前の壁が3体のモンスタ―の邪魔をするだけであった。



「クルワサンちゃん。助けを呼ぼうとしても無駄だ。アタシのこの角でお前を串刺しにしてやる」


「クルワサン。飛べ! 飛んで逃げるんだ!」


 天馬がクルワサンに指示を出す。クルワサンは羽を羽ばたかせて飛ぶ。しかし、羽を持っているのはクルワサンだけではない。竜人族であるアンドレアもまた羽を持っていた。


「逃がさないぞ!」


 翼竜のような羽を持つアンドレア。一旦、強靭な足の力で跳躍。そして、数度はばたき滑空するようにしてクルワサンに近づいてくる。


「クルワサン! 上に逃げろ。やつは滑空しているだけだ。高度はやがて落ちていくはずだ」


「うん!」


 天馬の適切な指示でクルワサンは上に向かった。天馬の見立ては正しい。アンドレアは飛行能力というよりかは滑空によって空中を舞う方が正しい。だが、羽を数度はばたかせる。すると、アンドレアの位置が数センチほど浮いた。


「アタシは確かに飛ぶのが苦手だ。でも、飛行できないわけではない!」


 バタバタと羽をはばたかせる。数センチずつであるがきちんと上昇はしている。だが、そのスピードはとても遅い。クルワサンのように優雅に飛んでいるわけではない。


「なあ、クルワサン。お前って結構体重軽いよな?」


「うん」


「だから飛ぶのが上手い」


「そうだね」


 天馬はアンドレアの方を見る。


「まあ、そういうことか」


 天馬のその一言。それにアンドレアがキレた。


「あ、あぁあ!? 別にアタシは重くなんかない! 下賤な人間がアタシを侮辱するなど!」


 実際、竜人族アンドレア妖精族クルワサンに比べたら重い。それは紛れもない事実である。その分、パワーはアンドレアの方が上ではあるし、種族の特性である以上は仕方のないことである。


「ホーンチャージ!」


 アンドレアの頭の上にある角が輝く。光と力を集めたその角は眩くて、配信画面全体を照らす。


『まぶしい!』

『まずい。あの技が来るぞ』


「クルワサン。相手の動きに注目するんだ」


「そ、そんなこと言ったって、まぶしいよ!」


「ホーンレーザー!」


 アンドレアの角から細いレーザー光線が発射される。直径1センチほどではあるが、その分威力が凝縮されている。クルワサンの頬をかすめて、後ろの壁に穴を開ける。


 クルワサンの頬と穴の周囲は焦げていて、直撃していたら間違いなく焼かれていたと思えるくらいにはすさまじい威力を感じられた。


「ひっ……」


「はは、クルワサンちゃん。その絶望した表情いいね。お前たち妖精は所詮竜人族に勝てないのさ」


『なんてこった。フェアリーはドラゴンに強いんじゃなかったのか!』

『それどこの世界の話だよ』


「天馬。どうしよう」


 クルワサンはじりじりと熱を帯びた頬を手で押さえながら天馬に助けを求める。しかし、天馬もどうしようもない。事務所の中で頼りになるモンスターは、メタルドラゴン、デュラハン、金ゴマのみである。他のモンスターが来たところで頭数に入るか怪しいところである。


 事実、他に待機状態のモンスターはいるが、アンドレアにビビってやってこない。それは正しくも賢い判断である。救援に向かわなければ、クルワサン1人の犠牲で済む。だが、救援に行けば自分も犠牲になってしまう。


 天馬も実際のところは、あの3体以外には来て欲しくないと思っている。だから、2度目の救助要請を出していない。誰でもいいから助けてほしければ、2度目の要請をしてアピールするのが普通である。だが、天馬はそれをしない。救助要請には使用回数があり、ここで無駄撃ちしたら肝心な時に仕えなくなってしまう。まだ、デュラハンたちに要請が届いていない以上無駄遣いはできない。


 ピピっと天馬の端末が鳴る。通信が入って来た。瑠璃からである。


「天馬さん! すまない。金ゴマと連絡が取れなくなってしまった。私も金ゴマのことが心配で連絡が遅くなってしまった」


「うん。そのことはわかっている。金ゴマは復旧できそうか?」


「恐らく無理だ。なんど連絡を取ろうとしても、全く通じない。一応、こちらで金ゴマのスタミナ状況は確認できる。スタミナが結構消耗していて、今も減っている。彼女も彼女なりになんとかしようとしているみたいだ」


「そのスタミナの状況的にはスキルを使っているのか?」


「そうだな。スキルを使わなかったらこんなに減ることはない。つまり、スキルを使ってもどうにもならない状況ってことだな」


 瑠璃から届いた悪い知らせ。仲間の助けが来ないことが確定してしまった状況。天馬は息をのんだ。

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