第24話 竜人族アンドレア
「ふーむ……」
事務所にて平がパソコンの画面を見ながら頭をかいていた。
「みんな。ちょっと気になるニュースがあるから、共有しておく。見ておいてくれ」
平が共有したニュース記事を天馬も自身のパソコンで確認する。
『バーチャルハンターがまたも襲撃。モンスター4体が敗北』
「またバーチャルハンターか。しばらく配信はやめといた方がよさそうだな」
配信を休止していてもクルワサンにはやることがある。それは……
「天馬ー。今日の歌のレッスン終わったー」
配信のための自分磨き。今終えたばかりの歌も後々に歌配信をするために必要なことである。
「ああ、お疲れ様」
「もう少ししたら、歌配信しても大丈夫だって先生が言ってた」
「そうか。それは良かったな」
ご機嫌に飛び回るクルワサンを見て天馬は微笑んだ。しかし、
「自身をアンドレアと名乗る竜人族の女ハンター。チャンネル登録者数100万人のモンスターを倒すか……ここのところ人気モンスターが狩られる事態が多発しているな。あの忍者軍団の一件はその予兆だったりするのか?」
これまでチャンネル登録者数が100万を超えるモンスターを狩られることはそんなに多いことではなかった。推しの死は誰にとっても辛いことである。だから、狩られる心配がない人気モンスターがより、高い人気を博するという構造になっているのだ。
しかし、ここに来て100万人クラスの人気者もやられる可能性があることことがわかった。バーチャルモンスターのファンの間でも激震が走った事件だ。
『アンドレア。俺の推しを殺しやがって! 許せねえ!』
『俺はアンドレアを推したい。どこのチャンネルに行けば会える?』
『アンドレアのチャンネルが見つからないバグ』
『アンドレアの面は良いからな。悔しいことにやっていることに反して人気が出るのはわかる』
配信の切り抜きで見えるアンドレア。確かに体の一部に竜のウロコと翼と角があることを除けば、人間の女性のそれと同じである。美人系で色気がある顔立ちは人気が出てもおかしくはない。
バーチャルモンスターの推しにとっては、ハンターはなによりも忌むべき存在である。それは常に一緒にいるオーナーである天馬たちにとっても同様だ。ハンター側がここまで人気が出ることは非常に珍しいことだ。
「うーん……まあ、確かに見た目は悪くはないけれど、そこまで応援するほどのことか?」
天馬は訝しんだ。
「実際にこのアンドレアもモンスター側として配信していたら人気は出ただろうと私は思う。ハンターであることが惜しいくらいだ」
平が謎にアンドレアの肩を持っているとある情報が入って来た。
『速報! アンドレア出現! ライブ配信中』
天馬のスマホに通知が入って来た。動画サイトのアプリを入れているのでオススメの動画や配信の情報が入ってきやすい。天馬はよくハンターの情報を検索しているので、こうした速報が入ってくるのだ。
「ボス! 大変です。アンドレアが出現したみたいです」
「なんだと。よし、その戦いを見ようじゃないか。いつ、私たちも襲われるかもわからない。相手の手の内は知っておいて損はない」
「はい。URLをそっちに送りますね」
天馬と平はディスプレイを注視する。竜人族のアンドレアと戦っているのは、人型スライムのモンスターだった。ヒューマノイドスライム。人間の形に化けることができるスライムで、このスライムは美少女の姿に変身して人気を得ている。
「あららー。わたしの配信に遊びに来てくれるなんてありがとぉ~お礼に死をプレゼントしてあげるねぇ~」
「ふん。頭も体も緩そうなモンスターだな。こんなのアタシの敵にすらならん」
スライムが口からペッと液体を吐き出す。アンドレアはそれを回避する。液体はアンドレアの背後にあった壁に命中する。液体がかかった部分の壁はシュウと溶けてこの世から消え去ってしまう。
溶解液。スライムが吐き出すことができる液体。
「避けないでよぉ~。これに当たるとねぇ~。痛みなく死ねるんだよぉ~」
「なるほど……近づくのは危険というわけか。ならば……ホーンチャージ!」
アンドレアは角が光り輝く。光は1秒毎に輝きを増して強く力をためていく。
『出た。アンドレアのホーンチャージ』
『あれが攻撃の基点だ。なにか技が来るぞ』
「サンダーランス!」
アンドレアの角からパチパチと火花が飛び散る。電気エネルギーが溜まり、そのエネルギーが角全体に纏わりつく。
「へぇー。その角やばそうだねえ。ぺっ」
スライムがアンドレアの角めがけて溶解液を吐きかける。しかし、その溶解液は電気にぶつかると、ジュウウと音を立てて逆に消えてしまった。
「んな!」
「無駄だ。エネルギーチャージ中のアタシの角は無敵。このままサンダーランスで突いて終わりだ!」
アンドレアが走る。スライムに向かって突進を仕掛け、スライムの体を槍が貫いた。
「ガハッ……」
スライムには急所がない。だが、それは言い返せば体のどこを攻撃しても良いということ。体の内部に電撃が走り、スライムの体がパチパチと音を鳴らして溶けていく。
「こ、こんなことって……!」
ここで配信は終了した。モンスターが致命傷を受けたら自動的に配信が停止するシステムのせいである。このスライムの末路はもう決まっている。まず、助からない。
配信終了後もチャット欄は生きている。そこには、推しの死を悲しむファンたちの声が空しく流れるだけであった。
「なるほど。アンドレアって結構厄介な相手ですね」
「ああ。天馬君。勝算はあるかな?」
「まあ、あると言えばありますね」
「ほう。聞かせてもらおうか」
「下手に1人で戦おうとせずに、すぐに仲間を呼ぶ。はい、俺かしこいです」
平にドヤ顔を向ける天馬。平はそれに親指を立てた。
「素晴らしい。それも正解の1つだ。私たちはチームで動いている。同盟相手がいるってだけで、同盟がいないモンスターたちに比べて恵まれてる。それを最大限に活かすべきだ」
事務所所属のモンスターの強みを最大限に活かす作戦である。しかし、それにも当然穴はあるわけで……
「アンドレアの出現条件はわかっていない。しばらくの間は、きちんと救援教員を待機させた上で配信しよう」
「そうですね。救援要請はあくまでも、同盟相手の都合にもよります。同盟相手がきちんと待機状態である必要があります。配信中だったり、モンスターが他の端末で作業中だったりすると救援を出せないですからね」
救援要請は救援が送られてこないと助けることができない。配信中や救援が届く位置にモンスターがいない場合は救援要請を受け取ることができない。救援要請も短時間で何回でもできるような仕組みにはなっていないので、お互いのスケジュールのすり合わせが必要である。
「まあ、配信スケジュールはこちらできちんと管理しているからそういう事故はないだろう。デュラハン、金ゴマ、メタルドラゴン。彼らのいずれかを必ず待機するようにしておけば大丈夫だとは思う」
事務所の中でも選りすぐりのモンスター。いくら相手が100万クラスの相手を倒せるとはいえ、所詮は1体。2体がかりで戦えば勝てない相手ではない。数の利の強さは忍者軍団との戦いで嫌と言う程思い知らされている。
「とりあえず、今の配信を録画しておいた。この戦闘データをみんなに共有しておこう。ハンターの情報はいくらあっても困らないからな」
「はい」
強力なバーチャルハンターの一角のアンドレア。その脅威は確実にクルワサンに迫っていた。
クルワサンが襲われる日が来るのはもうすぐ――
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