第23話 目指せチャンネル登録1万人
とあるチャットルーム。そこには9人の入室者がいて会話をしていた。
ジェイド:「鵺がやられたようだな」
クロエ:「まあ、いつかはやられると思っていたサァ。鵺は強いと言っても所詮はチャンネル登録者数120万級でしかないからネェ」
レイブン:「ほんと、ほんと。あの程度の実力しかない癖に僕たち【赤き雨】のメンバーになれると思っていたなんて思い上がりが激しいよねー」
アンドレア:「フン。そういうレイブンよ。お前も150万級しかないだろう。鵺のことを言えるほどではない」
レイブン:「あぁ? やんのかー。アンドレアおばさんよぉー!」
アンドレア:「ふっ……そんな減らず口を叩いて。お前も無事におじさんの年齢になるまで生きたければ口を慎むんだな」
ケイン:「ええい! やめんか! 仲間同士で争うでない!」
エイブリー:「あの……私たち。別に仲間ってわけでもないと思います。私はただ強いから勝手にこのメンバーに入っただけで、基本的に烏合の衆なのでは?」
リーパー:「某もエイブリーに同感だ。貴殿らと同類扱いされると虫唾が走る」
ケイン:「ぐぬぬ……! これがZ世代の若者。ドライすぎる」
ジェイド:「そんなことより、鵺の敗因を分析した方が良い。あいつが敗けたのはクルワサンという妖精のせいだ。私としては、あのクルワサンをチャンネル登録者数が少ないうちに叩いた方が良いと思う」
アンドレア:「それならばアタシに任せて欲しい」
レイブン:「えー。アンドレアおばさんが行くの? やめたほうがいいと思うな。だって、もうクルワサンは同盟組んでるんでしょ? あの事務所は強いモンスターがいるからね。救援要請されて返り討ちに合うのがオチだねー。チャンネル登録者数2000人だっけ? 同盟機能が解放されるのは。それが解放される前に倒しちゃえばよかったんだよ」
ジェイド:「過ぎたことを言っても仕方ない。クルワサンのエールが解放されたのは2000人を超えた後だ。そこまでの脅威だと認識することはできなかった」
アンドレア:「心配いらないさ。ちゃんと救援対策はできている。ただ準備に手間取ってね。しばらく配信中を襲うこともできそうにないんだ。その間にくれぐれもアタシの獲物をとるんじゃないよ」
クロエ:「ほーい」
◇
「うおっ、おおおお! おおおおお!?」
天馬は何度も何度も端末の画面を確認する。そこの画面には何度見ても信じられない数字が記されていた。
チャンネル登録者数9710人。1万人の大台まであと少しという状況である。これも、忍者軍団を倒したことで上がった数字で、多くの人がクルワサンに注目をしている証拠である。
「いやー。クルワサン。あの時、救援要請に乗って良かったな。お陰でみんなを救えたし、チャンネル登録者数も増えたし、良いことしかないな!」
「うん! やったよ、天馬! とても嬉しい」
クルワサンは羽をパタパタと動かして端末の中を飛び回っている。その様子を見て、瑠璃はため息をついた。
「はあ……全く。来るなって言ったのに来るなんて。でも、実際のところクルワサンがいなかったら勝てたかどうか怪しいものだから、天馬さんたちには何も言えない」
不満そうな瑠璃とは対照的にココロはどこか上機嫌だった。
「ウチは嬉しいんね。天馬はクルワサンが芋虫だった時からずっと可愛がっていたし、どれだけ弱くても愛していた。そんな彼らがこうしてウチらの力になれるくらいに強くなれて、ウチは感激しとるんね」
ずっと天馬を見守ってきたココロだからこそ、その成長は嬉しく思っているのだった。天馬を見つめるココロの視線に瑠璃は少し嫌な思いを感じてしまう。心のもやもやを晴らすためにとりあえずスマホを開いてアプリゲームを始めた。
「なあ、天馬君。せっかくだから耐久配信の枠を取らないか?」
平がそんな提案を天馬たちにする。天馬としても今は配信スケジュールが空いている状態であるために、自由に配信を入れることができる。
「耐久配信ですか。チャンネル登録者数1万人突破するまで終われないってやつですね」
「そうだ。キミとクルワサン君ならすぐに終わりそうだけどな」
「はい。やってみます」
天馬はクルワサンに視線を落とす。クルワサンはシュッシュとシャドウボクシングをしていた。
「クルワサン。何しているんだ?」
「んーとね。修行。ボクもね。結構強くなったから、もっと強くなりたいなって思って。あはは」
「あはは、クルワサンはかわいいなー」
微笑ましい光景だが、瑠璃は冷ややかな視線を送っている。
「あんまり調子に乗らない方が良いと思うぞー」
「え? どうしたんだ? 瑠璃」
天馬は瑠璃の突然の物言いに驚いてしまう。
「クルワサンは確かに役に立った。でも、それはスキルあってのことで、クルワサン自体の戦闘力が高いわけじゃない。それで自分が強くなった気でいて、大怪我をしても遅い。天馬さん。クルワサン。配信中にハンターに襲われるようなことがあったら、迷わずに私たちに救難要請を出してくれ。すぐに駆け付ける」
瑠璃が端末を握りしめてそう言った。
「ああ。確かに瑠璃の言っていることは正しいな。でも、クルワサンも1万に手が届くくらいには強くなっているんだ。これだけの数値があれば大抵のハンターには負けないだろう」
「再戦……」
「え?」
「今すぐ金ゴマと再戦しても良いんだぞ。私たちに勝てる自信があるのか?」
「それは……やってみないとわからない」
前回のクルワサンVS金ゴマは、ハンターの邪魔がなければどうなっていたかはわからなかった。クルワサン側にも薄いながらも勝ちの目は確かにあったのだ。その時と同じような状況に持ち込めればと天馬は考えていた。しかし、瑠璃も研鑽を怠っているわけではない。
「言っておくけれど、空中に逃げるなんて作戦はやめた方が良い。私たちも遠距離攻撃を鍛えてある。まだ鵺には通用しないようなレベルだけれど、クルワサンを落とす程度はできるさ」
「どうしたん? 瑠璃。なにか機嫌が悪いみたいんね」
「私は別に機嫌が悪いわけじゃない。ただ……そうやって調子に乗ってモンスターを亡くした人を何人も見ているだけ。私は嫌だ。これほどモンスターを愛している天馬さんが……」
それ以上瑠璃はなにも言わなかった。事務所がしんみりとした空気になる。
「わかった。そうだよな。クルワサン。もっとチャンネルを伸ばして強くなろう! 瑠璃に2度と心配をかけないくらいにな」
「うん!}
前向きにがんばろうとする天馬とクルワサン。呆れるほどに真っすぐに突き進む。1万人耐久配信でも、クルワサンが雑談や正拳突きなどを交えながら、順当にチャンネル登録者数を伸ばしていきついに……!
クルワサンチャンネルの登録者数が1万人を突破した。
「1万! き、きちゃああああああ!」
『1万人おめでとう!』
『まさかあの芋虫が1万人を超えるなんて』
『クルワサンの今後の活躍にご期待ください』
リスナーたちに祝福されながら、クルワサンは確実に成長していく。その成長著しい一方で、暗躍している存在はいた。
両腕がトカゲのようなウロコに覆われていて、背中には翼竜のような羽が生えている。頭の上には大きな一本角がある色香が漂う竜人族の女性のモンスター。
「赤き雨所属のアンドレア。これより狩りを開始する」
アンドレアがとあるモンスターの配信に襲撃をかける。そのモンスターはなすすべもなくアンドレアによって亡き者にされてしまった。
クルワサンを狩ろうと狙っているハンター。狩るために準備が必要だとチャットで言っていたが、その準備は着実に整っていく。
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