第22話 空中戦
「行くよ。馬を召喚!」
デュラハンは新しく解放されたスキルで馬を召喚する。大きくて逞しい黒馬。それがデュラハンに向かってお辞儀をする。
「オイラを召喚してくれてありがとう。さあ、オイラの背中に乗って」
「わかった!」
デュラハンが黒馬の背に乗る。
『黒馬の騎士デュハンを召喚!』
『乗っただけ定期』
「がんばれ! がんばれ! ファイト! ファイト!」
クルワサンがデュラハンを応援している。この応援が完了すれば、デュラハンの馬が自動的にペガサス化する。度重なる応援でスタミナを消費してしまい、クルワサンの額には汗が滲んでいた。応援のキレも最初に比べたら悪くなり、その分効力が得るまでの時間がかかってしまう。
「させるか!」
鵺もクルワサンの応援を指を咥えてみているわけにはいかない。今、この段階でクルワサンさえ倒せば、勝利が確定する。鵺は飛行してデュラハンの背後に回ろうとする。
「させるか! クルワサン殿は我が守る! ジェットブースト!」
メタルドラゴンはジェットを噴射させて、その力で宙へと跳んだ!自由に飛び回ることはできない。だが、一時的に高度を稼ぐことは可能だ。
「なにっ!」
鵺は不意を突かれる。今まで自分を這っていた存在がいきなり飛んだから無理もない。そう、この不意打ち。この一瞬のために、メタルドラゴンは飛翔できることを隠していたのだ。
メタルドラゴンが雄たけびをあげる。そして、鵺にジェットによる突進を食らわせる。メタルドラゴンの鋼鉄の体がメリメリと鵺の体にめりこんでいき、骨をきしませる。
「がはっ……! 貴様!」
鵺は前足でメタルドラゴンを叩き落とした。メタルドラゴンはその力に逆らうことができずに、地面へと落下した。
「ぐっ……後は頼んだ……我はもう戦えぬ」
傷だらけの体。今の落下で腰のジェット機能も損傷してジェットブーストを使えなくなってしまった。
「ボクの応援届いて!」
クルワサンが必死に応援する。それがついにデュラハンに届く。
「この胸の高鳴り、全身に湧き出て来る高揚感! 来る!」
パッシブスキル『ペガサス化LV0』が『ペガサス化SLV1(最大値)』に一時的に上昇しました。
黒馬の肩甲骨あたりからカラスのような黒い羽がバサっと生える。
「オイラはブラックペガサス! ここまで育ててくれてありがとう! 一緒にあいつを倒そう!」
「うん」
ブラックペガサスの背に乗ったデュラハンはレイピアを構える。そして、主人の準備が完了したと思ったペガサスは羽ばたき空を舞う。今より、この空は鵺だけのものではなくなった。デュラハンも参戦して、コメント欄も沸き立つ。
『ペガサスになった!』
『ここから逆転あるか?』
『がんばれ! デュラハン!』
『デュラハン! デュラハン!』
戦闘や応援でボロボロになりながら戦っている仲間たち。救援要請に駆けつけてくれた彼らを死なせるわけにはいかない。デュラハンは絶対に勝つという決意を胸に秘め、鵺へと向かっていく。
「空を飛べたからなんだと言うのだ。我らの強さの根幹はそこではない。我らのスキルを受けてみよ! 凍てつく暴風!」
鵺が羽をばたばたと羽ばたかせる。暴風が巻き起こり、その暴風はとても冷たくて、体中の血液が凍ると錯覚するほどである。
「くっ……」
「ふふ。その暴風を前にして進めまい。貴様らは、我に傷1つつけることはできん! この暴風がある限りな!」
「ペガサス! 大丈夫?」
「うん。風の流れは読めた。それに沿って飛ぶ!」
ペガサスは気流を読んで、向かい風の影響を最小限に留めるルートを突き進む!
「なぬっ! バカな! 我の凍てつく暴風を受けているのに凍えないだと……? なぜだ!」
「お前に教える必要はない」
それはデュラハンの持っているスキル。冷気耐性が関係していた。クルワサンが火炎耐性を持っているように、デュラハンも何かしらの属性耐性を持っている。
「なるほど。貴様は耐性持ちか!」
鵺は状況を理解した。自分の攻撃を受けきれるのは耐性がなければ不可能だという自負があるからこそ、導き出せたたった一つの解答。
「だが我のスキルはこれだけではない! ヘルスクラッチ!」
鵺は前足の爪でデュラハンのペガサスを狙う。今、デュラハンにとっての生命線は間違いなくペガサスである。これさえ倒せば、デュラハンは飛ぶ手段を失い、戦うこともできなくなる。
「受け流し!」
デュラハンはレイピアから短剣に持ち帰る。その短剣で鵺の前足を弾き攻撃の軌道を反らす。鵺のヘルスクラッチはペガサスの頭上をかすめる。もし、軌道をずらしていなければ、ペガサスの頭部に命中していた。
「小癪な!」
「くらえ! 刺突!」
鵺と接近したデュラハンはレイピアで鵺の胴体を貫こうとする。プス。レイピアは鵺の胴体に刺さったが浅い。すぐにレイピアが抜けるし、鵺も深手を負わなかった。
「ふふ、あはは! 攻撃力が足りてない! 貴様、本当にチャンネル登録者数300万人か?」
『デュラハンの刺突でも倒せなかった?』
『もうダメだ。おしまいだあ』
『チャンネル登録者数300万人で勝てなかったら誰が勝てるんだよ』
沸き立っていたコメント欄は一転してお通夜ムードになってしまった。最後の希望。そのデュラハンの攻撃すらも鵺には通じない。もうダメかとココロとデュラハン以外は思っていた。
「デュラハン! 頭部を転送するよ!」
「うん」
ついに、満を持して現れるデュラハンの頭部。ココロが転送したその頭部は美しい女性のものだった。
『え、えええ!?』
『お前、顔あったのか?』
『生首こえええ!』
『ゆっくりしていってね!』
生首がデュラハンの首の部分にすっぽりとはまる。デュラハンは首がしっかりと付いていることを確認するために首を前後左右に振る。髪の毛がふぁさっと舞い、リスナーたちを魅了する。
『かわいい』
『オイオイオイ、こんなかわいいならもっと早く頭部出してくれても良かったのに』
「なっ……頭部だと。だが、頭部があったところでなにが変わるというのだ」
鵺は驚きつつも、冷静に切り返す。確かに頭部の有無で戦闘能力が変わるとは思えない。しかし――
「わかってないね。アンタは。アタシはバーチャルモンスターなんだよ? なにが起きても不思議ではない。それこそ、頭部の有無で戦闘力に3倍程度の差があったりね」
「なんだと!」
「スパイラルレイピア!」
デュラハンはレイピアに回転を加える。その回転力が破壊力に加わる。
「回転程度で……」
鵺は侮っていた。デュラハンの地力を。スパイラルレイピアが命中した鵺。その胴体は一瞬にして胸から背中まで貫かれていた。
「がはっ……」
口から血を吐く鵺。デュラハンがレイピアを引き抜き、そして、止めに鵺の首を刎ねた。
一瞬にして物言わぬ屍になった鵺。爆発四散して、ついにバーチャルハンターとの戦闘を終えた。
『勝った?』
『すげえええ!』
『デュラハン強すぎ! そしてかわいい』
バラバラと地面に落ちる鵺の欠片。一方でデュラハンは優雅にペガサスに乗って降りてきた。
「みなに感謝する。みなが救援に来てくれなければ、アタシはやられていた。それほどまでに忍者軍団。鵺は強敵だった。特にクルワサン。その数字でよくやってくれた。キミの将来が楽しみだ」
応援して疲れて横になっているクルワサン。デュラハンに褒められてニコっと笑う。
「どういたしましてデュラハン。ボク、みんなの役に立てて良かったよ」
チャンネル登録者数数千に過ぎないクルワサンでも何十万何百万という戦いにおいて役に立っていた。数字がまだ小さい段階でこれである。もし、クルワサンの数字が伸びたら……この場にいる誰もがそう思わざるを得なかった。
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